第36話神の舞踏会2

ヘラから舞踏会の事を聞いて数日後、私達は会場へと繋がる転移門の前にいた。

この数日間、本当に大変だった。舞踏会用のドレスを作る事になりドレスは完成したんだが母さんと優子、さらにはハデスまでもが私を着せ替え人形にしだしたのだ。

何枚も服を着させられ妙なポーズをさせられ写真を撮られる。それを何百回と繰り返しさせられた。

私の体はボロボロだ。

それに今回の舞踏会。嫌な予感しかしない。私の予感は当たるのだ。嫌な予感であればあるほど。

今回のためにドレスを着させられたが、もう帰っていいだろうか。

憂鬱だ。


「雪のような髪を結い紅のドレスに身を包む姿はまるで女神のようだ。彼女の纏うドレスは彼女の華奢さを強調し、肌の露出が少ない事が彼女の精錬された美しさを映えさせる。絵画の世界から出てきたかのようなその姿はまさに生きる芸術そのものだ」

「……優子、さっきから何を言ってるんだ?」

「お姉ちゃんを見て思った事を言葉に表してるんだけど?」

「恥ずかしいからやめてくれ……」

「小さな手で赤く染まった顔を隠すその姿はまさに天使そのもの…」

「うぅ……」


さっきから優子がずっとこの調子だ。

私が着ているのは薔薇をモチーフにしたドレスだ。基本は紅の生地で、リボンやフリルなんかには白の生地を使っている。

私が着ていいのかわからない程綺麗で可愛いドレスになっている。

正直恥ずかしい。思えばここ数年間ファッションを気にし過ぎている気がする。そろそろジャージを着ないと私が持たない。


「優華、入ろうか」

「ああ」


タキシードを着ている兄さんに応じて会場に入る。会場には転移門で向かう。部屋に展開した転移門を潜った先には豪奢な空間が広がっていた。舞踏会を開くにはうってつけの会場と言えよう。

会場に入った途端数多の視線が私を貫いた。

なんか、すごく目立ってるな。とりあえず会場の隅の方へと移動する。やはり隅は落ち着く。人間時代にもずっと隅にいたっけ。

私が隅でぼーっとしていると、大柄な男が近付いてきた。神の茶会で二回会った強面のおじさんことアレースだ。


「よっ、嬢ちゃん。今日は一段ときれいだな」


にこやかに笑いながらそんな事を言ってくるアレース。お世辞なんだろうが側から見たら口説いてるようにしか見えない。

まぁアレースに限ってそんな事はないか。


「あぁ、ありがとう。君はいつも通りだな」

「ははは、確かにな」


アレースは兄さんとは違いかなり緩い感じだ。普通にイメージ通りだな。


「で嬢ちゃんその二人は連れか?」

「あぁ。私の兄妹だ」

「へぇ、通りで美形なわけだ。よろしくな!」

「は、はい!」

「お、おう!」


そう言ってアレースは二人に快活に笑いかける。会話に入ってこれてなかった二人はタジタジになりながら返事をした。

アレースは二人と少し世間話をした後、用事があるようで去っていった。二人ともいい感じに緊張がほぐれたようだ。


「お姉ちゃん、彼氏じゃないよね?」

「普通に違うからな」

「おいおい優子、優華に彼氏ができたことあるか?」

「ないね!」

「……作る気がないからな」


正直恋愛とか興味ないしな。

私は一人が気楽でいいし、他人とそこまで親密な関係になれるとは思わない。だから今後私が付き合う事はないだろう。


「あ、そろそろ始まるみたいだね」


優子が会場に設置されたステージを見ながら言った。私もステージを見る。ステージには最上位神が並んでおり、ヘラが立っていた。


「皆の衆、今宵は千年に一度の舞踏会じゃ。羽目を外しすぎぬよう、注意するようにの。それと一つ、皆には知らせておく事がある。優華」


そう言って私を手招きするヘラ。

……私にステージに登れと?

はぁ、仕方ないか。

人混みを進むのは嫌なのでヘラの隣に転移した。転移した瞬間、神々は驚いたような顔をした後、なぜかじっと見てきた。感嘆の息を漏らす者もいる。

なんでだ?

ヘラはそのまま驚いていた。


「おぉ!? ……お主、転移するなら先に言わんか」

「普通気付くだろ」

「お主のは完成度高すぎて気付かんのじゃ」

「そうか。それより司会進めなくていたのか?」

「お主に言われんでもわかっておるわ!」


ヘラは会場にいる神々に向き直り、一度息を吸って口を開いた。


「こやつの名は神森優華。今日から新しく最上位神になる者じゃ!」


………は?

え、ちょ、ちょっと待って。なんで私が最上位神になる事になってるんだ?

私了承してないが?

私が困惑していると、一瞬だけヘラがこちらに振り向く。イタズラが最高した子供のような笑みをしていた。殴りたい。


「ぜひ仲良くしてやってくれ。儂の話は以上じゃ。何か質問がある者はおるか?」


ヘラがそう聞くと、神々のうちの何人かが手を挙げた。ヘラはその一人、神をオールバックにした青年の名を言う。

というか名前あるんだな。


「ふむ、ナルから聞こうか」

「ヘラ様、私達はそこのぽっと出の小娘が、誇り高き最上位神になるなど納得できません」


ナルと言われた青年の言葉に手を挙げていた神達が頷く。予想はしていたが、やはり同じ質問だったか。


「ふむ。優華が最上位神になるのに納得いかんか。ではそなた達はどうすれば納得するのじゃ?」

「それは簡単です。その小娘の力を我々に示していただきたく存じます」

「決闘したいと?」

「はい」

「だそうじゃ、優華どうする?」


いやどうすると言われても、どうせやるしかないんだろうな。とりあえず了承の意を示すため頷いておく。


「わかった。ではこれより決闘を開始する!」


ヘラが指を鳴らすと会場が変わっていき、コロッセオのような形になった。コロッセオのアレーナ(戦う場所)には私とナルが立っていて、他の神々は全員観客席に座っていた。

あ、兄さん達はヘラの隣か。なら安心だな。


「双方、準備は良いか?」

「ああ」

「もちろんです」

「では、開始!」


ヘラの開始の声が響き渡り、決闘が開始した。先に仕掛けてきたのはナル。炎の剣を召喚して私に斬りかかってきた。

……遅いな。

私はナルの剣を跳んで避け、この前作った剣を取り出す。ナルはそのまま追撃してくるが身を捻り交わす。


「どうした、攻撃してこないのか? そうか、できないのか。私の攻撃が完璧すぎて」


なんだこいつ。

まぁ余裕で反撃できたのにしなかった私が悪いと言えば悪いんだが。

でもナルには申し訳ないが私はこの決闘はただのお遊びだと思っている。

さっきの攻撃を見た感じ、ナルの実力はそこまででもない。剣の扱いも魔力の扱いも私からしたら格下だ。だから、これは戦いじゃない。遊びだ。

遊びなら、少し楽しくしてもいいよな?


「ふ、まだまだいくぞぉ!」


ナルは私に向かって斬撃を浴びせてくる。私はそれを踊りながら回避する。そしてそのまま自然な動きでナルを斬りつける。


「な!?」


斬られた事が信じられないのか、ナルは驚きの声を上げた。私はそんなの気にせずに踊りながら斬り続ける。


「な、かはっ、ちょ、やめ」


何か言ってるが気にしない。神は不死身だ。どうせ再生する。この斬撃で魂は斬れない。だからミンチになってもこいつなら3秒あれば元に戻れる。


「優華、もうよいぞ」


ヘラから止めの一言が告げられたので、攻撃を止める。ナルは跡形もなくミンチになった。

生きてるよな?

そう思っていたら無事再生して元に戻った。ジャスト3秒だな。


「さてナルよ、納得したか?」

「………はい」


ナルはそう言うが絶対納得してないな。恨みがましく私を見てくる時点でお察しだ。


「では決闘も終了したことじゃし、舞踏会に戻ろうか」


ヘラがまた指を弾くと、闘技場は影も形もなくなり、最初にいた会場にいた。


「ではこれより優華は最上位神じゃ。文句のある奴はもうおらんよな?」


もう文句を言う奴は一人もいなかった。


「では、舞踏会を最後まで楽しむのじゃ!」


ようやく解放された私は兄さん達の所に転移した。

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