第34話神森家神になる

お姉ちゃんと話して私達は無事家族を取り戻すことができた。

やっぱりお姉ちゃんがいないと寂しいしね。

そんなお姉ちゃんは今お母さんに抱き付いてる。

なんか私達が寿命で亡くなってから十万年も経ってたらしくてその間ずっと会えなかったから甘えたいらしい。

お姉ちゃんからこういうことをしてくることなんてないからぶっちゃけ興奮してる。さぁお母さん! 私にお姉ちゃんを抱かせて!


「終わった?」


私がお姉ちゃんを抱きしめようとジリジリと近付いているとハデスさんが現れた。


「はいハデスさん。無事、仲直りできました」

「そう。で、お母さんは?」

「優華はあそこに」


お兄ちゃんが母さんに抱きついて満面の笑みを浮かべているお姉ちゃんを指差した。


「スッ————」


それを見たハデスさんは満足気な顔で倒れた。


「は、ハデスさーーーん!」

「!?」


あ、ハデスさんに気付いたお姉ちゃんが急いで母さんから離れた。顔が真っ赤だ。かわいいー。


「ハデス、大丈夫か!?」


お姉ちゃんがハデスさんに駆け寄って行った。なお顔はずっと真っ赤だ。


「……我が生涯に、一片の悔いなし」

「ハデスーーー!」


常人にお姉ちゃんの笑顔はキツかったか。仕方ない。私が起こしてあげよう。


「お姉ちゃん、私がやってあげよう」

「そ、そうか。頼む」


私はハデスさんの耳に顔を近付け、囁く。これをやって生き返らなかった者はいない。


「ハデスさん、お姉ちゃん今顔真っ赤ですごくかわいいですよ〜」

「!?」


起きた。それはもうすごい勢いで。

そして起きた瞬間にお姉ちゃんを見た。この速度、私でなきゃ見逃しちゃうね。

見つめられてるお姉ちゃんはさっきのことをまた思い出したのか真っ赤な顔を両手で覆い隠してた。

カハッ!(致命傷)

か、可愛すぎるよお姉ちゃん。


「お母さん、よかった」


ハデスさんは安堵の表情をしている。実はハデスさんは私たちをここに転移してくれた恩人だったりする。城に帰ったらお姉ちゃんがいなくて、多分あの場所にいるから行ってきて、と転移してくれた。

おかげでお姉ちゃんを救えたし、可愛い姿を見れたから感謝してもしきれない。


「ハデスさん、ありがとうございます」


だから感謝は言葉にして伝えておく。言葉にしないと伝わらないからね。


「ん、私はお母さんのためにやったに過ぎない。お礼は不要。……お母さんの貴重な照れ顔を見れただけでも得したし」


いい人でよかったなぁ。いい人じゃなかったらお姉ちゃんのそばにいるのは絶対に認めないんだけどね。


「お母さん、もう遅いから帰ろう」

「そ、そうだな。帰るか」


お姉ちゃんが魔法を発動させる。するといつの間にか応接間に居た。

いやぁ何回見てもすごいね、転移って。一瞬で移動しちゃうとかもうチートだよ。どうやったら使えるようになるんだろう。多分神にならないと使えないだろうけど。お姉ちゃんに聞いてみよ。


「ねぇお姉ちゃん、転移ってどうやったら使えるようになるの?」

「転移は神になることで使えるようになるぞ」

「あ、やっぱそうなの?」

「うん。神は魔法じゃなくて魔術を使う。魔術は魔法とは違って自由がきくから、工夫次第でどうにでもなるんだ。転移もその一つだな」

「へぇ、そうなんだ。でもやっぱり得意不得意はあるんでしょ?」

「それはそうだな。神によって使える魔術は異なる。でも転移とかは誰でもできるぞ」

「え? マジ!?」

「マジだ」


おぉ、それなら早く神にならなくちゃね。なりかた知らないけど。うぅん、どうやったらなれるんだろう。


「優子は神になりたいのか?」


お姉ちゃんが疑問顔で聞いて来た。その上目遣いたまらん!

あぁいやそれは置いといて。


「なれるならなりたいかな。お姉ちゃんと一緒がいいし」

「そ、そうか。一応なる方法はあるぞ」

「え! あるの!?」

「うん」


マジか、お姉ちゃん知ってるんだ!

まぁそりゃあ神だからなり方くらい知ってるか。


「ちなみに割とすぐなれるぞ」

「え!? どうやって!?」

「私の血を飲めばいい」

「え?」


ん?

今なんて言った?

私の、血を飲めばいい!?


「ちょっと待ってお姉ちゃん! なんで血!?」

「私は自分の血に魔力を込めるとそれを飲んだ者を神にできるみたいなんだ」

「そうなんだ……でもどうして血なの?」

「それは私にもわからない」


えぇ……。お姉ちゃんそれ本当に大丈夫なの?

私心配になってきちゃった。


「一応何回かやったから間違いではないぞ?」


心配してるのが顔に出てたのか、お姉ちゃんは付け加えた。お姉ちゃん、そのジト目は反則だよ。可愛すぎて鼻血出るから。


「で、優子は神になるか?」

「なる!」

「え、いいのか? 血を飲む事になるけど」

「え? お姉ちゃんの血なら是非飲ませて欲しいんだけど」

「なぜに?」

「本能かな」

「本能?」


ここまで言っても引かない人って珍しいよね。ほんとお姉ちゃん聖人なんだから。いや、成人なのは間違いないけどどちらかと言えば知らない感じかな。


「お姉ちゃんはずっと綺麗なままでいてね」

「ん? よくわからないがわかった」


その頭にはてなが浮かんでいるような顔最高だね。あぁ、お姉ちゃん尊い!


「それで、優子は何を気にしてるんだ?」

「いや私は神になるのはいいんだけど、お父さん達にも言ってあげた方がいいかなって。お父さん達もお姉ちゃんと一緒がいいみたいだし」

「そうか」


お姉ちゃんははにかみ笑いをした。その姿は儚くも美しい、女神のように思えてしまう。

ただそれは他者の視点で見た場合で、私たち家族から見ればその姿は家族との再会、家族からの愛に照れている少女にしか見えない。

お姉ちゃんは今は神だけど、その本質は人間の時と何も変わっていない。

頑張り屋で、照れ屋で、恥ずかしがり屋で、寂しがり屋なとても優しい女の子。

いつも私を守ってくれた優しいお姉ちゃんのままなんだ。だからこそ、一緒にいたい。もう離れたくない。お姉ちゃんは私達を守ってくれた。だから次は私達がお姉ちゃんを守る番。孤独になんてさせないよ。


「なるほど、優華の血を飲めば神になれるんだね。よし、優華、お願いできる?」

「できるけど、お父さん達も神になりたいのか?」

「うん、僕達は家族だから。家族で一人だけが神なんて嫌だろう?」

「そう、だけど……」

「俺達は優華を一人にさせないために不老不死になったんだ。それに、不老不死は神になる方法を探すためになっただけだからな。神になってお前が孤独を感じないならそれでいいさ」

「そうですよ。私達はあなたと共にいたいから神になるんです。あなたは何も心配しなくていいんです」


お姉ちゃんはやっぱり躊躇っているようだ。私たちからすればお姉ちゃんと一緒にいられるなら神にでもなんでもなってやると思ってたから問題なんてある訳ないんだけどね。


「お母さん、この人たちの覚悟は本物。だから、そんなに心配しなくても大丈夫。後悔なんてしないだろうから」

「……わかった」


お姉ちゃんは虚空からナイフを召喚して自分の手のひらを指した。て、ちょっとちょっとちょっと!


「お姉ちゃん何してるの!?」

「いや血を出すから刺しただけだが?」

「いや普通にビビるよ! 大丈夫? それ傷残らない?」

「傷はいつでも治せるから問題ない」


そう言う問題じゃないんだけどなぁ。私がお姉ちゃんの顔を凝視しているとお姉ちゃんは少し困惑しながらも流れるような動作でコップを四つ生み出し血を中に注いだ。

四つのコップが満杯になったらお姉ちゃんの手のひらの傷は跡形もなく消えていた。

神すごいな。

私が驚いているのを無視してお姉ちゃんはコップに手をかざした。するとコップの中に入れられている血がさらに紅くなっていく。緋色が完全な深紅になるとお姉ちゃんは私たちにコップを手渡した。


「それを飲めば神になれる。……無理はしないようにな。嫌ならやめてもいいし」

「お姉ちゃん、私達はお姉ちゃんを孤独にしないために覚悟を決めてるの。だから心配しないで」

「………うん」


まだ納得しきれてないみたいだけど、ここは譲れない。私達はもうお姉ちゃんを孤独にしないって決めたからね。

お父さん達と顔を見合わせる。うん、と頷きあって、いっせいにコップの血を飲んだ。コップの血がなくなり、コップから唇を外す。


「う…!」


直後、全身を重い痛みが駆け巡った。体が作り変わっていく感覚がある。体が次々と変わっていく。あまりの痛みに意識が飛びそうになるが、かろうじて耐える。

痛みは三十秒程で収まった。

痛みに耐えるため閉じていた目を開ける。そこには心配そうな顔をするお姉ちゃんの姿があった。

どうやら変化は終わったみたい。

その証拠に、言いようのない全能感が私を包んでいる。

お父さん達も無事変化できたみたいで、目を開けて自分の体を見回していた。


「お姉ちゃん、これ本当に神になったんだよね」

「あぁ、君たちはもう神になっているぞ」

「でも何も変わってないんだけど」


私の姿は何も変わっていなかった。お姉ちゃんみたいに神は白くなってないし目も赤くなってない。

神になったのはわかるけど、お姉ちゃんと同じ色になってないのには納得がいかない。


「まぁ、それは個人差だろ。今日はもう遅いから、早く寝よう」

「……それもそっか」


どうやら本当に知らないみたいなので今日は寝る事にした。自室が用意されていたけど、私はお姉ちゃんの部屋に突入して、お姉ちゃんと一緒に寝た。

お姉ちゃん、相変わらず抱き心地がいい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る