第32話神森家不死になる

優子達が出て行ったのを確認して優華は部屋に入った。

部屋の中なソファに腰掛けているのは傲慢な魔王ハデス。娘だ。


「何を話していたんだ?」

「ん、お母さんに関すること」

「そうか」


深くは聞かない。聞いたとしてもどうにもなりそうになかったから。

優華は優子達と別れてからは優子達に付けているカメラを確認していない。

今あそこに優華の居場所はないと感じたからだ。もう会わない方が、どちらも苦しまなくて済む。


「お母さん」

「ん?」


考え事をしていたら、ハデスに話しかけられた。何事かと目を向けると、ハデスは心配そうな顔で続ける。


「辛くなったら、いつでも言って」

「あぁ」


優華は頷いた。だが、それが本当になる日は遠い。



魔王城から出発した私達はエルフの森に向かって急いで飛んでいた。エルフの森は別の大陸なので少し時間がかかる。

私達はまた今後の計画について話し合っていた。


「不老不死になって、次はどうしようか」

「そんなん決まってるだろ。優華に会う」

「でもあの子がまた会ってくれるかどうかわからないわ」

「私達も神になったら会ってくれるのかな」

「わからない。でも、絶対に一度は会おう。僕達も不老不死になったよ、と報告だけはした方がいい」


ということになった。私達が不老不死になったら一度はお姉ちゃんと会う。少しでも安心させるために。1人じゃないと言ってあげるために。


「おそらく到着は明日になるだろう。今日は早く寝た方がいい」


お父さんの指示に素直に従い、私達は寝た。

次の日の昼頃、私達はエルフの森に着いた。飛行機で森の中に着陸するのは危ないので少し離れた所に降りた。

それにしても、めっちゃ木がでかい!

一本一本がとてつもなく大きくて立派!

空から見た時はわからなかったけどすごく大きいし高い。

あれ、じゃあ空からでも見えたあのめちゃくちゃでかい木はどれくらい大きいんだろう。

まぁそんなことはいいか。さっさと入ろう!

私達は森の中に入って行った。目的地は世界樹の根元にある泉。世界樹は多分あの大きな木のことだろうね。

さすがに徒歩であそこまで行くのはキツイので、父さんが作った空飛ぶ絨毯に乗って進むことにした。木々の間を縫って進むのは難しいから木の少し上くらいの高さで飛んでいる。

世界樹は高いのでとてもよく見える。

空飛ぶ絨毯に乗って移動すること三十分程、下からとてつもない風圧が私達を襲った。


「うわぁーー! なに!?」


転倒することは防げたが次防げるかはわからない。私達は下の方をじっと見つめた。

私達が警戒し出したからか攻撃は飛んでこない。なんなんだろう。


「おい、誰かいるなら出てこい!」


痺れを切らしたお兄ちゃんが下に向かって叫ぶ。するとその叫びに応じてか、下から白い毛をもつとても大きな狼が出てきた。

すご、空飛んでる。

狼は私達を見回して、なんと話しかけてきた!


「そなた達は何者だ? この森にはエルフ達しかいないはずだが」

「………私達は訳あって森に入って来たものだ。君達に危害を加えようとは思っていない」

「その言い分を信用しろと?」


信用はできないだろうねぇ。だってあっちからしたら私達はただの侵入者だからね。この森に危害を加える可能性なんて十分にある。


「我はこの森の守護を任されたフェンリルだ。そなた達が行こうとしているのは世界樹であろう?」

「いや、正確に言うと世界樹の根元にある泉だ」

「なに? なぜそなた達はあの泉のことを知っているのだ?」


どうやら私達が泉の事を知っていることは知らなかったらしい。人間がここに来るなんて私達が初めてだし、泉の情報をどこで手に入れたかなんてすごく気になるだろうね。

私達は事情を包み隠さずフェンリルさんに話した。フェンリルさんは少し納得したみたいだ。


「そなた達が優華様の家族というのはわからない。ただ、家族のために不老不死になるというその覚悟は素晴らしいものだ。来い、我が案内してやる」


あ、案内してくれるんだ。

私達はフェンリルさんに付いていき、無事世界樹の根元に到着した。

その根元には巨大な泉があった。すごい、なぜか水がピンク色だ。これを飲めばお姉ちゃんと同じになれる。よし、飲も………


「何をしているのですか?」

「!?」


声を掛けられてやっと気付いた。私達の後ろに1人の男が立っていた。

長い金の髪と異様に長い耳が特徴的な端正な青年。その表情は無表情で何を考えているかわからない。怖い。


「ヘーニル、我から説明しよう」


フェンリルさんが私達の事情をヘーニルという人に説明してくれた。説明を聞いたヘーニルさんは神妙な顔で頷いた。


「なるほどわかりました。そのような事情なら私も協力します。この泉の水は私の許可がなければ飲めません。許可なく飲もうとした者は全て灰になります」


え、そうなの!?

あっぶな!

ちょっとフェンリルさんそういうの早く言ってよ!


「む、そうだったのか?」

「覚えてなかったんですか? 最初に優華様にも説明されたでしょう?」


フェンリルさん!?

聞いてなかったの!? お姉ちゃんの話聞いてなかったの!?

危うく死ぬとこだったよ!


「すまんな……」

「すまんで済んだら警察はいらないよ!」

「フェンリル、今度からは話をちゃんと聞いてくださいね。ましてや優華様の話を聞いてないなんてことあってはならないのですからね?」

「う、うむ」

「さて、フェンリルの罪を咎めるのはこれくらいにして、泉の水を飲む許可を出しましょう」


ヘーニルさんはそう言って何やら魔法を使い始めた。

数分後、一度頷いたヘーニルさんは私達に向き合った。


「これで水を飲んでも大丈夫です。せっかくなのでコップを用意しましょう」

「ありがとうございます」


ヘーニルさんがどこからか取り出したコップに泉の水を入れる。

今からこれを飲んで私達は不老不死になる。少し戸惑いがあるけどお姉ちゃんのためなら何にでもなれる。

コップに唇を付け、一気に飲み干した。

瞬間、体が変わるのを感じた。

これで不老不死になったのだろうか?


「おめでとうございます。これであなた方は不老不死になりました」


ヘーニルさんが言うならそうなのかな?


「では、後のことはフェンリルに頼みます。優太さん、優子さん、優良さん、優弥さん。優華様をお願いします」


最後にそう言ってヘーニルさんは消えた。もしかしてあれが転移なのかな?

何はともあれ私達は不老不死になることができた。これでお姉ちゃんを1人させなくて済む。

早くお姉ちゃんに会いに行こう。


「そなた達はこれからどうするのだ?」

「決まってます。優華に会いに行きます」

「そうか。では森の前まで送ろう。我の背に乗るがいい」

「いいのですか?」

「優華様の家族なのだろう? 遠慮はするな」


私達はフェンリルさんの背に乗り森を出た。

めっちゃ早かった。吹き飛ばされるかと思った。

フェンリルさん手加減して。

森を出た私達はさっそく飛行機に乗り込む。目指すは魔王城。

あっさりと不老不死になったからあまり実感は湧かないけど、お姉ちゃんと同じになった。

お姉ちゃん、待っててね。

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