第30話再会
優華はバラキエルと対峙する。バラキエルは突然現れた優華を怪しんでいるようだ。
「我の風を防ぐとは只者ではあるまい。貴様、何者だ?」
「黙れ。私は今虫の居所が悪い。だから、気をつけた方がいいぞ」
バラキエルと優太達が戦っているのを知ったのはつい先程だった。何気なく見ていたら優太達が殺されそうになっていた。
急いで駆け付けなかったら危なかっただろう。優華の後ろには今怪我をして倒れている優太達がいる。
全員酷い怪我だ。先ほどの威力を見るに目の前の敵は優太達を甚振って遊んでいたらしい。でなければ一撃で死んでいるはずだ。
優華の心が久しぶりに怒りに燃える。
「では得体の知れぬ者よ、存分に殺り合おう!」
バラキエルの言葉には答えず、優華は本気の魔術を発動させる。
魔装『孤影』
瞬間、優華が闇に包まれる。優華を包んだ闇はそれにとどまらず空にも広がってゆく。
空が闇に染まり、夜の帳が地に降りた時、優華を包み込んでいた闇が晴れる。
「貴様、なんだ、その姿は?」
闇が晴れ、その場にいた優華の姿は変わっていた。
白い髪は呂色に染まり、ほのかに紫の光を発している。紅かった瞳は黄金に変わっている。
服は簡素なワンピースから動きやすく設計された上等な黒の着物に変わっている。所々に散らばる彼岸花が特徴的だ。
魔術を発動させる前の姿が雪だとしたら、今の優華の姿は夜。全てを呑み込む闇の化身だ。
「まさか、闇を纏っているのか? いや、ありえない。それは純粋な闇だ。純粋な闇を纏うなど破壊神でないとできないはず。ただの神が出来るわけがない」
バラキエルは動揺して何やらぶつぶつ言っているが、気にせず腕を振るう。瞬間、攻撃を察知できなかったバラキエルが吹き飛んだ。
優華は一瞬で吹き飛ぶ方向に回り込み、上に蹴り上げる。
「———ぐはっ!」
バラキエルの体が上に上がりきる前にまた上に回り込み、次は思い切り地面に蹴り飛ばす。
さすがに優華の全力で蹴れば地中深くに埋まってしまうので落下地点には闇で作った槍を何本も並べた。
バラキエルは何も抵抗できずに串刺しになる。
「調子に乗るなぁー!!」
ダメージは与えられなかったらしい。バラキエルは風を纏うことで闇の槍を吹き飛ばした。
「食らえ!」
体制を整えたバラキエルは優華に風を浴びせる。風は空気を切り裂き優華に迫る。だが、優華を傷付けるには至らない。
風の刃は優華に触れると簡単に消えた。
「は⁉︎………がはっ!」
動揺するバラキエルを優華は闇を操り空に吹き飛ばす。
空を飛ぶ優華の目に傷を押さえて立ち上がる優太の姿が見えた。もうこれ以上目の前の敵を生かす価値はない。
「闇薙刀
優華の手が闇に覆われ、一つの武器が現れる。それは薙刀だ。真っ黒な持ち手で、所々に紫の模様が入っている。刃は持ち手よりなお黒く、赤黒い稲妻が迸っている。
「なんだ、それは?」
「死ぬ者が知って何の意味がある?」
空中で静止したバラキエルの質問をバッサリと切り、優華は薙刀を構える。魔力を薙刀に集中させ、破壊のエネルギーに変えていく。
そしてこの攻撃に優華の一つの能力を付与する。それは優華が神になり得たもう一つの能力。名を『破壊』全てを壊し呑み込む力だ。
それを刃に込め、必殺の斬撃を放つ。
神技『侵食する
優華の放った斬撃は宙に浮かぶバラキエルに吸い込まれるように飛んでいく。咄嗟に避けようとしたバラキエルだが、遅すぎる。
放った闇の斬撃はバラキエルの体を魂ごと断ち切り、呑み込んだ。
この斬撃は死体を残さない。また、少しでもこの斬撃で傷を負えばそこから闇が侵食し、魂ごと呑み込む。バラキエルは塵すら残らず消滅したのだ。
バラキエルを殺し終えた優華は元の姿に戻り、優太達に纏めて回復を施した。
「優華、優華なんだな!?」
用が済んだので帰ろうとしていると、優太が話しかけて来た。
「うん、そうだよ」
優華はいつもの口調とは違い、前に家族と接していた時の口調で答える。
「優華、やっと会えた。一緒に帰ろう!」
優太が涙ながらに言うが、優華はそれに応えられない。
「ごめん優太。私は一緒にいられない」
「え?」
「私は君達とは生きられない。もう、何もかもが違いすぎる」
「優華、何言って……」
「お姉ちゃん、どうしちゃったの? 一緒に帰ろうよ!」
「ごめん、優子。私が一緒にいると君達まで不幸になってしまう。だから、これが最後だ。元気にな」
優華は言い終わると、ハデスの待つ魔王城に転移した。
取り残された優太達は優華の居た場所を呆然と眺めていた。頭に残るのは先程の優華の言葉。
「何が、変わったって言うんだよ。俺達は、いつも一緒だろ………」
「お姉ちゃん……」
優子が見た優華の顔は、とても悲しげで、触れただけで壊れそうなほど弱っていた。優華はいつもそうだ。自分で全部抱え込んで壊れてしまう。
優子はそれがたまらなく辛い。自分はそんなに頼りないのだろうか、自分では優華を助けられないのだろうか。
自分の不甲斐なさに腹が立つ。
「2人とも、一旦屋敷に向かおう。後のことはそこで決める」
「優華のことも屋敷で決めましょう」
優太達は一旦屋敷に向かった。屋敷に着くとたくさんの使用人に心配されたが風呂の準備をして欲しいと言い離れてもらった。
風呂に入り綺麗になった優太達は屋敷の書斎に集まっていた。
「さて、それじゃあ優華について話し合おう。
「そうね、やっぱり何かを抱え込んでいると思ったわ。そしてその何かに押しつぶされそうな感じ」
「やっぱりか。あの子は昔から自分で抱え込む癖があるからな。恐らく今回もそう言った感じなのだろうな」
「父さん、俺心配だ。なんで優華はあんなに苦しそうだったんだ?」
「俺にもわからない。ただ優華が言っていた何もかもが違うという事が問題だろうな」
「あの子が今どういった立場にいるかわからないけど、私達はこれでも貴族。お互いに簡単に触れ合える立場じゃないわよね」
「だけどこのままでいいわけないだろ」
優太の言葉に家族全員が頷く。優華と自分達は立場が違う。でも、それがなんだというのか。今の立場が違うとしても、家族なのだ。あんなに苦しい顔をされたのだ、見過ごすはずがない。
「ひとまず優華に会わないとな。優華に会って、事情を聞こう」
「お兄ちゃん、今お姉ちゃんはどこにいるの?」
「ちょっと待ってくれ。今調べる。………どうやら別の大陸にいるみたいだな」
「別の大陸か……どうする? 優良」
「そうですね、優太達はこれから長期休暇、私達も何ヶ月か休みを取っているので十分行けますね」
「よし、じゃあ今から飛行機を作るからそれで行こう。出発は明日だ」
こうして優太達は優華を救うため、動き出した。
【後書き】どうも緋色です。先週は後書きはありませんでしたね。少し忙しくて後書きは書けない時があるかもしれませんがご了承ください。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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