第29話最上位天使VS神森家
ヘラ達との話し合いが終わり、優華とハデスは帰還した。
「天使、か……」
先程話した天使が頭をよぎる。この前戦った天使は正直言ってあまり強くはなかった。
だがそれは優華だからだ。戦った感じから大罪魔王や精霊王以外だと結構キツイだろう。エルフの全戦力などで挑めば多少は違うだろうが天使の戦力は未知数。大天使以外にもなにかあるかもしれない。
警戒するに越したことはない。
『私の子どもたち全員に告ぐ、近いうちに天使が襲来する可能性がある。全員気を付けるように』
優華は子どもたち全員に呼び掛けた。天使の容姿や力などの情報全てを加えて。
全て聞き終えた子どもたちは早速仕事をするべく駆け出した。全ては優華に褒めてもらうため。
優華達が天使の対策をしている頃、優太達はあいも変わらず優華を探していた。優華の居場所がしょっちゅう変わるため、追いきれないのだ。
「お姉ちゃん、私達に気付いてないのかな。そうじゃなきゃ、考えられないよ」
「そうだよな。どうにかしてあいつに気が付かせるか、あいつが別の場所に行く前にあいつに追い付くかしないとな」
「でもどうしよう。お父さんとお母さんは貴族の仕事で忙しいし、私達も忙しくて時間が取れないよ……」
優華を探し始めたのが夏休み中で、半年経った今は冬休みの最中だ。夏休み時とは違い、今は冬休みは社交界などで帝都で開かれるパーティーなどに首席したりと何かと忙しかった。
「半年経ってもなんの成果も出せないなんてな…。今日から一週間は帰省するけど、見つけられねぇよなぁ」
「この一週間はお姉ちゃんと会うための会議をしないとね〜」
「貴方達は少し休みなさい。代わりに私達がするから」
「そうだぞ。優華を探そうと躍起になるのはいいが、お前達も優華と同じく俺達の宝なんだからな」
今は自領に帰省するため家族全員馬車で移動している。今回やっとみんなが休みを取れたので一週間帰省するのだ。ゆっくりと羽を伸ばそうとしている。
「はぁ…優華は今何してるんだろうなぁ…」
優太の発言で全員が下を向く。まだ誰も優華に会っていない。もしかしたら優華は記憶を取り戻してないのかもしれない。もしかしたら自分達に会いたくないのかもしれない。
嫌な思考が頭を駆け巡る。
「「「「!?」」」」
その思考を終わらせたのは、巨大な気配だった。とっさに母優良が結界を張る。次の瞬間、凄まじい突風が襲いかかり、馬車が粉々になった。
一人一人に結界が張られていたので怪我はないが、張られていない御者と馬は確実に死んだだろう。
優太達は皆状況を確認するために辺りを見回した。風が吹いてきたであろうところを見るとなにかがいた。
それは一見すると人だが、顔のパーツがなく、服を着ていない。体のパーツは大まかなものだけで細かなものはない。
だがただのマネキンではない。光の輪を頭に浮かべ、三対の翼を背中に生やしたマネキンのようななにかがそこに浮かんでいた。
「ほぉ、我の風に耐える人間がおるとは驚いた」
それはこちらを見つめ、言葉を呟いた。
「フッ!」
優太はそれを敵と認識し変形した魔剣で即座に斬りかかる。
優太の攻撃を余裕で交わしたなにかは優太に手を向け術を発動させる。
「――!?」
瞬間優太の体が地面に吹き飛ばされた。
優太は地面スレスレで受け身を取り、なんとか持ちこたえる。
「ほぉ…その身のこなし見事だ。そして咄嗟の判断力も評価に値する。貴様、名は?」
「………優太だ」
「そうかユウタか。殺す前に覚えておこう。ユウタとやら、最上位天使であるこの我、バラキエルに殺されるのを光栄に思うがいい」
天使、どう見ても普通ではない相手。優太は優子達に視線を向ける。優太の視線を受けた優子達は各々スキルを発動させる。
優子は『魔物召喚』でSランク相当の魔物を召喚し、母優良は『魔導王』で大魔法を生成する。父優弥は『機械王』でバトルスーツを作り纏う。
みんなが戦闘態勢に入ったのを見計らい、優太は再び構えた。
それから優太達とバラキエルによる戦闘が始まった。
最初に仕掛けるのは優良だ。上空に浮かぶバラキエルに対し炎と雷の魔法を浴びせる。それに続き優弥もエネルギーを放出して攻撃していく。
優太は飛ぶ斬撃を放ち、優子は魔物を使い攻撃をする。
「くくく、おもしろい!」
だがそんな攻撃の嵐もバラキエルが腕を一振りするだけで止んでしまう。凄まじい風圧が優太達を襲い、身動きが取れなくなる。
「そら、まだ始まったばかりだぞ?」
バラキエルが手を優太達に向ける。直後、上から凄まじい風圧が優太達を襲った。全員が地にひれ伏すような形になった。
「どうしたどうした? 我の攻撃はまだ始まったばかりだぞ?」
次は横から優太達を風が襲う。派手に吹き飛ばされた優太達はまた別方向から風を受け、宙を舞う。
このままではだめだと思い優太は魔剣をバラキエルに投げ付けた。バラキエルはその魔剣をなんなく受け止めるが直後爆発した。
優太が魔剣の性質を爆発するものへと変えていたのだ。注意が逸れたのか風が止み、優太達が地に落ちる。
「行って! ケロちゃん!」
その隙に優子が召喚したSランクの魔物ケルベロスをバラキエルにけしかける。
だがバラキエルに向かって行ったケルベロスは不可視の刃により粉々に切り裂かれた。
「なかなかやるな。虫けら共」
ケルベロスを切り刻んだバラキエルは当然のように無傷で立っていた。
「クソ……」
このままでは殺される。優太は必死にこの状況を抜け出す手口を考える。
だが敵は考える時間をくれないようだ。
「これで終いにしよう」
バラキエルは腕を大きく振り上げる。
すると大気がバラキエルの腕に絡みつくように集まっていく。
その様子を見ていた優子は、絶望していた。
自分達のスキルが何も効かず、召喚した魔物も殺された。もう、手がない。このまま殺されるのなんて絶対に嫌だ。
まだあの人に会えていないのだから。死にたくない。優子は閉じた瞼の中で、思い出に浸った。
優子は昔からいじめられてきた。その都度に、姉が助けてくれた。あの笑顔に何度も何度も救われた。
辛いときには話を聞いてくれて、慰めてくれた。
だが優華はいつの間にか笑わなくなった。少しは笑うが昔のような心からの笑いじゃない。
何か思い詰めていた。優子でさえわかるほど無理をしていた。
ある日優華は自室から出なくなった。なぜかはわからない。優子は毎日扉越しに優華に話しかけた。とても心配だったから。
優華は優子に何度も心配ない、大丈夫と言った。でもその声はとても大丈夫とは思えない声だった。
人類が滅んだあの日、優華はいなくなった。
優子は涙と声が枯れるほど泣いた。
また会いたい。絶対に離れたくない。お願いだから帰ってきて……と、何度も懇願した。
前世の記憶を取り戻した時、優子は優華を探すために一際やる気を出した。
絶対にお姉ちゃんを見つけ出すんだと。でも、結局見つからなかった。どうやら優華は点々と移動をしているようだ。
絶対追い付く。見つけ出すと躍起になった。それがいけなかったのかもしれない。
いくら頑張っても優華に追いつけず、諦めるしかなかった。
そしてもう、この生が終わる。この生が終わればもう本当に、優華には会えなくなる。
最期に浮かぶのはやはり優華の背中。小さいけど大きくて、とても優しくて大好きな姉の背中。
また会いたい。こんなところで終わりたくない。
助けて、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんに会いたい。次はもっとがんばるから。だからお姉ちゃん、助けて。
ありもしないとわかっている。返事はないだろうけど、口にしてしまう。
「助けて、お姉ちゃん」
バラキエルが腕を振り下ろす。優子はギュッと目をつむり無意味だが衝撃に備えた。だが、いつまで経っても衝撃が来ることはなかった。代わりに、大好きな、優しい声が聞こえた。
「ごめんね、優子。お姉ちゃん遅くなったみたい」
目を見開く。そこに立っていたのは、夢にまで見た姿だった。髪と目の色は変わっているけど、変わらない温かな背中。
「お姉……ちゃん?」
「うん。後は任せて」
その背中はとても優しくて、小さくて、大きかった。
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