第27話母娘旅
ハデスとお風呂に入りあれやこれやされた後、優華とハデスは二人で作業していた。
ハデスも一応魔道具を作れるので、一緒に作っているのだ。
今回作るのはカメラだ。
なぜカメラを作るのかというと、単に優太達がどんな暮らしをしているのかが気になったからだ。すごくストーカーじみた事だとはわかっているが、接触できない以上こうするしかないのだ。
護衛も付けるが想定外のことが起こった時のために必要なのだ。
形はカメラだとバレないように烏の形にする。カメラは目の部分に取り付け、後は世界でも一番の硬さを誇るオリハルコンで体を作れば完成だ。
どこからどう見ても烏のカメラが出来上がった。試行運転をした後、優華は優太達のところにカメラを転移した。
この前見かけた時、密かに魔力を付けて居場所がわかるようにしていたのだ。
なのであの二人が今どこにいるのかもよく分かる。そこに転移させたのですぐにでも見れるだろう。
優華がカメラをONにすると、スクリーンのようなものが目の前に現れた。そこに映っているのは優太と優子だ。
どうやら何かを探しているらしい。
『お兄ちゃん、もう一度確認して。本当にここにいるのか』
『おう。……あ!』
『え、どうしたの?』
『あいつ、めっちゃ遠くにいる。大陸の方』
『ちょっと見せて!』
どうやらあの二人は誰かを探しているようだ。そして二人が見ている板のようなものに優華は見覚えがあった。というかなぜそれがあるのかわからない勝った。
「え、なんでスマホ?」
今二人が手にしているのは、優華が滅ぼす前の人間が当たり前のように使っていた機械だ。それがなぜこの世界にあるのか心底謎で仕方ない。
『うわ、マジか。え、でもどうして一日で大陸の方に行けるの?』
『なんかそういうスキルみたいなのがあるんじゃないか。一番スキル使いこなせそうだからな。あいつは』
『たしかに。それなら納得だね。でもどうしよう。別の大陸になんてどうやって行こう』
『たしか魔族との戦争は終わったんだよな。転移門を使えば別の大陸に行けるだろ。それに、俺達にはスキルがある。転移する魔法とか魔剣とか作れば解決だろ』
『たしかに! じゃあ早くお母さん達のところに行って知らせてこよう!』
『おう!』
結局なにを探しているのか優華にはわからなかった。だが二人を見て一応安心できた。これからも定期的に様子を見ようと密かに思った。
「お母さん、これからどうするの?」
二人の様子を見終わり画面を消したあと、ハデスが話し掛けてきた。どうやら優華の今後の予定が気になるらしい。
「私はこの後は他の子に会いに行く。出発するなら明日だな」
「そう。なら私も行く」
「え? なぜ?」
優華が尋ねるとハデスはさも当然のような顔で理由を述べる。
「お母さんがいるところに私はいるべき。大丈夫、国の管理は他の人がやってくれる」
「いや王が国出て旅はだめだろ」
「大丈夫。そもそも私居なくても国機能してる。それにお母さんに付いていくって言ったらみんな了承してくれる」
「えぇ……」
言葉が出なかった。正直信じられないのだ。別にハデスが付いてくるのはいいのだ。でも国がそれを了承するとは思えなかった。
でもこのままでは本当に付いてきそうだ。
なので優華は一つ条件を出すことにした。
「じゃあ、部下に許可貰ったらいいぞ」
「ん、わかった」
「一応、監視も付けるからな」
「了解」
そう言ってハデスは部屋を出て部下に許可を取りに行った。
優華は短時間だけ監視できる魔術を使い、ハデスを監視する。こんな事をする理由は、ハデスがずるをできないようにするためだ。
そもそも優華が付いていったらいいのだが、それでは事情を知っている部下を混乱させるだろう。なのでこの形にした。
さっそく部下と会って話しているようだ。
『ハデス、やっと外に出られたのですね』
『ん、執事長一つお願い』
『はい、何でしょう。何なりとお申し付けください』
『お母さんと一緒にしばらく旅に出る。その間の仕事を他の人達とやってほしい』
『承知しました。私から他の者に伝えておきます』
『ん、ありがとう』
「………え?」
普通に了承された。あっけなく、簡単に。優華が呆然としていると、ハデスがやってきた。
「お母さん、了承された。私も付いてく」
「……わかった」
結局優華はハデスと一緒に行くことになった。
次の日の朝、優華とハデスは国を出た。
次に行くのは比較的近い魔王のところだ。ずっと転移ばかりしていたので今回は徒歩で向かう。
次の魔王は強欲の魔王の酒呑童子だ。酒呑童子は名前の通り鬼の魔族だ。大罪魔王の中ではスピリチュアルに次いでまともな人物だ。
「お母さん、これからも一緒だからね」
「あぁ。そうだな」
優華とハデスは歩き出す。家族に会いに。
ハデスは生まれた時から大人しかった。いつも優華の側にいて、離れなかった。理由は他の者から優華を守るためである。
だがそれは建前でただ甘えたいだけだった。欲を言うなら優華を独り占めしたかった。
ハデスはいつも優華といた。優華は嫌な顔一つせず、ハデスを受け入れた。子供ならそういうものだろうと。
本当は、子供としてじゃなく一人の女として優華を愛していた。
これから歳を重なれば、いずれ自分の気持ちに気付いてくれるだろう。そう思っていた。
でも、駄目だった。優華は一人消えてしまったのだ。側にいたヘーニルに問い質して状況を理解して、絶望した。
もう、会えないかもしれない。一度そう思ってしまったらもう駄目だった。
ずっと部屋に引き籠もって優華が帰ってくるのを待つしかなかった。本当は駄目なことだってわかってる。
でももう何もしたくない。お母さんに会いたい。
千年前、スピリチュアルから優華が帰ってきているかもしれないと言われた時は心が踊った。
また会えるかもしれないと、そう思えた。でも、優華は来なかった。
捨てられたかもしれない。忘れられたかもしれない。嫌な考えが頭の中に何度も駆け巡り、それを否定する日々を過ごした。
千年後、ようやく優華が会いに来た。
よかった。忘れられてなかった。でも千年も自分を待たせたことの理由を聞いた時は腹がたった。
なぜ、自分は必要ないと考えたのか。私はこんなに貴女を愛しているのに。
自分の思いが優華に届いていないことに少なからずがっかりした。
でも、もう逃さない。
これからは絶対に口に出して伝える。気付いてもらえるなんて思わない。
ずっとずっと一緒にいてやる。私はお母さんを手に入れたいから。
「お母さん」
「ん?」
この無警戒な顔に教えてあげる。私が貴女を愛していることを。絶対に手放したくない、離れたくないと思っていることを。
「大好き」
「そうか」
二人で笑い合う。
私の気持ちには気付いていないだろう。でも、気付かせる。
そして、私無しじゃ生きられないようにしてあげる。
だって私はお母さんの子供だから。子供が母親を好きなのは当然だし、母親も子供が好きだ。
でももう親子の『好き』じゃ無くしてあげる。私を見て、私だけを見て。
私は一人の女として、お母さんが好き。
思い知らせてあげる。私の愛を。
だから堕ちて、お母さん。いや、堕とすよお母さん。
だから、覚悟してね。
【後書き】ここまで読んでくださりありがとうございます。
どうも緋色です。最近は読書ばかりの日々で自分の小説に手を付けれないことが多くなっています。まずいです。最近はVTuber系にハマってしまい抜け出せません。
取りあえずメリハリを付けていきたいと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます