第26話傲慢の魔王
優華が二人を見た次の日、優華はクラフト家のベッドで、だいぶ落ち着いていた。昨日はずっと呆けていたのでクラフト達にも迷惑をかけた。申し訳ないと思っている。
ともかく考えが纏まった。おそらくあの二人は、アテナによって転生させられたのだろう。
アテナが最期に発動した魔術は転生者を生み出すものだ。姿が前世と同じだったのは、すでに器となる肉体を作っていたからだろう。
「本当に、厄介なことをしてくれたな、あの女神」
だがもう優華にはどうしようもない。それがわかるからこそ腹立たしい。
優華が苛立っていると、扉がノックされた。
「おふくろ、俺や。入ってええか?」
「あぁ、大丈夫だ」
部屋に入ったクラフトは、優華の姿を見てホッと息を付いた。
「体調は大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。心配かけてごめんな」
「いやそれは別にいいんや。で、何があったんや?」
クラフトは優しい目で優華を見つめる。優華は少し考えた末、起こったことをすべて話すことにした。
「実は…」
全てを話し終えた後、クラフトは優しい声で聞いてくる。
「それで、おふくろはどうしたいんや?」
「どうって?」
「その二人に会うのか会わんのかや」
面と向かって言われたその問いに、優華は少し考えて答えを出した。
「私は……会わない」
「本当にええのか?」
「あぁ。私には……会う資格がない」
「……そうかい。やったらまずはハデスに会いに行きや。今日出発するんやろ?」
「あぁ。そうする。聞いてくれてありがとう」
クラフトに礼を言い、優華は少しクラフト家で過ごしてから優華は国を出た。
次に向かうのは魔族の国の一つだ。そこに例のハデスがいる。
ハデスは大罪魔王の一人だ。ヘーニルと同じくらい優華を慕ってくれていた子でもある。
優華の知っているハデスは、優華より言葉数が少ない女の子だ。十万年経ったらしいので少しは変わっているかもしれない。
というわけでハデスのいる国の入り口に転移した。この国はスピリチュアルのいる国のとは違い、暗いイメージの国だ。
また住んでいる種族にも違いがある。ここに住んでいるのは主にアンデット系の魔族達だ。空は常に薄暗く、夜のようだ。
街頭などもあるので完全な真っ暗闇ではないので一応他の種族も住むことはできる。
さっそく優華は国の中に入る。検問などは主に魔道具を使うので優華が来ていても騒ぎにはならない。
これから行くのは魔王城なので騒ぎにはなるかもしれない。その証拠に今でも充分視線を集めている。
魔王城の門にはさすがに門番がいた。ここの魔王城はスピリチュアルのところとは大きく違い、主に黒の石材などを使っていて不気味だ。漫画などで見る魔王城そのままの城だ。
門番は優華を見て一瞬見惚れたが、すぐに我に返り優華を引き止めた。
「そこの者止まれ。ここは傲慢の魔王城だ。何用だ」
「ハデスに会いに来た」
「ハデス様に? あの方は今休養中である。余所者のお前に会わせることはできない」
「いや余所者では何んだが…」
「なら何か証拠等はあるか?」
証拠と言われても、優華はそれらしき物を持ってはいなかった。少し悩んだ末、優華は一つのハンカチを取り出した。
このハンカチは以前ハデスが優華のために作ってくれたものだ。一応ハデスの紋章が刻まれているので関係者である事なら証明できるだろう。
案の定門番はハンカチを見ると、驚いたような声を出して、入る許可をくれた。
城に入ってすぐにメイドに会った。そのメイドは優華の容姿にまず驚き、次に手に持っていたハンカチに驚いた。
そして何かを察したのかハデスの部屋に案内された。
帰り際ハデス様をお願いします、と言われた。何がなんだか優華にはわからなかったためとりあえず頷いておいた。
そんなことがあり目的通りハデスの部屋の前に着くことができた。
コンコンっと控えめにノックする。
「誰?」
中から少女の声が聞こえる。
「ハデス、私だ」
優華がそう言うと、中からすごい音が聞こえたと思ったらものすごい勢いで扉が開けられた。
音が聞こえた時点で離れておいてよかった。危うく扉に吹き飛ばされるところだった。
優華がホッとしていると、扉を開け固まっている少女が声を掛ける。
「お母……さん?」
艶のある黒い髪をおさげにし、黒のローブを纏った少女ハデスが、優華を見て固まっていた。ハデスの黒い瞳に映るのは困惑と驚き、そして期待だ。
「久しぶりだな、ハデス」
優華の言葉を聞いた瞬間、期待は確信に変わり、目には溢れんばかりの歓喜が宿った。
ハデスは優華に勢いよく抱き着いた。その温もりを確かめるように、しっかりと。
「お母さん、お母さん……!」
目から涙を流しながら、母の存在を確かめる。やっと会えたのだから。最も信頼している母に会えたのだから。
優華もそれに応えるように優しくハデスを抱きしめる。ハデスは頬を緩め、その温かさに身を寄せた。
ひとしきり抱きしめあった後、優華はハデスとのんびり話していた。内容は主にこの十万年間なにをやっていたかなどだ。
「なるほど。じゃあお母さんは千年前にはもう帰ってたんだ」
「あぁ」
「じゃあ、なんで会いに来てくれなかったの?」
ハデスは頬を膨らませて優華を見る。優華はそれに目を逸らす。
「十万と千年間私はずっと心配だった。その間お母さんは私達を忘れてたの?」
「忘れてた訳じゃない」
「じゃあ、なんで?」
この世界に帰ってから千年間、いくら優華でも魔王達に会いに行こうとは思ったのだ。
だけどそれと同時に自分がいなかった間に何もなかった世界を見て、持つ自分はあの子達には必要ないのではないか、と思ったのだ。
それぞれの暮らしを全うしている中、もう自分は邪魔だろう。
だから優華は千年間誰にも会わず暮していた。神の茶会後外に出ようと思ったときも、少ししたら帰ってまた一人でいようと思っていた。
それをハデスに告げると、とても悲しい顔をした、。
「……お母さんはいつもそう。いつも自分の思い込みで一人で全部抱えて、子供の気持ちを考えれてない。私達がどれだけお母さんに会いたかったか知ってるの?」
「……」
「それに、今も一人で何かを抱え込もうとしてるでしょ? 少しは私達を頼って。私はお母さんが悲しんでるところを見たくない」
ハデスの瞳に強い意思が宿る。それは絶対に優華を守るという意志。絶対に悲しい思いをさせない意志だ。
「……ハデスには敵わないな」
「お母さんのことで私に敵う奴はいない。だから隠し事なんてできないから、全部話して」
「……わかった」
それから優華はスフィーダ王国で起きたことを全てハデスに話した。全ての話を聞き終えたハデスは、優華に向き直り問を投げかけた。
「お母さんは、どうしたいの?」
「…え?」
「だから、お母さんはその人達に会いたいのか会いたくないのかって話」
「それは……会いたい。でも、私は会えない」
「そう。じゃあせめて、その二人に護衛を付けたら?」
「え?」
「それだったら二人が危険目に会うことはないでしょ?」
「たしかに……」
優華はハデスの案を承諾した。それから少し話し合いをして、優太達に護衛を付けることになった。
「お母さん、私でも相談に乗れる。だからもっと頼って」
「わかった。ありがとう」
優華の返事を聞いて満足したのか、それ以上は言わなかった。
それからはまた世間話をした。語り合っている内にもう夜の七時になってしまった。
ご飯はもう食べ、後は風呂に入るだけだ。そこでハデスが優華をお風呂に誘った。
「お母さん、一緒にお風呂行こう」
「え?」
「十万年も一緒に入ってない。私は寂しかった。だからこれからは毎日一緒にお風呂に入る」
「え?」
困惑した優華を強引に引き連れ、ハデスは浴場に向かうのだった。
【後書き】どうも緋色です。最近は小説を読みまくっていて自分の作品に手を付けれていませんでした。なので少しおかしなところがあるかもしれません。気付いたら修正します。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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