第25話スフィーダ王国
スフィーダ王国から知らせを受けた次の日、俺達は帝国の使者としてスフィーダ王国へと向かっていた。
できるだけ早く行くのを建前に護衛は付けていない。本当の理由は、別に居ても自分だけで対処できる力を持っているのでぶっちゃけ邪魔なのと、優華を探すのに絶対に障害になるからだ。
俺達がスフィーダ王国に行く理由は優華を探すためだ。だからできるだけ早い方がいい。
ということで今は父さんのスキル『機械王』で車を作り、走っている最中だ。やべぇ、速すぎる!
記憶が戻る前に乗っていた馬車とは全然違うわ。もう本当に快適で快適で。
前世では結構貧乏な生活を送っていて車になんか乗ったことはなかった。
だからこの世界で車に乗れてめっちゃ感動してる。父さんなんか召喚したときめっちゃ泣いてた。子供を車に乗せられるって。
父さんは車の免許は持っていたらしく今は運転してる。前世では生活のために売ったらしい。
感傷に浸りながら乗っていると、スフィーダ王国の首都が見えてきた。
「もうすぐ着くぞ~」
いや〜すぐだったわ。まじで。
首都に着き、王宮に行くとスフィーダ王国の王にめちゃくちゃびっくりされた。いくらなんでも早すぎたらしい。
王はせっかく早く着いたのではゆっくりしていってほしいと言ってきた。俺達はそもそもその気なので他の国の使者が来るまで優華を探すことにした。
優太達が優華を探している頃、優華はクラフトの家で一夜を明かしていた。昨日はクラフトの子供全員と顔合わせをして、そのままご飯を食べて寝た。
今は朝食も食べ終え、ソファに座ってボーッとしているところだ。すると、ファーレが話しかけてきた。
「そういえば、ばあちゃんは世界一の鍛冶師だって父ちゃんが言ってたんやけど、本当なん?」
「それは知らないが、趣味で何かを作ることは結構あるな」
「そうなんや。じゃあさ、なんか作ってみてくれへん?」
「…いいぞ」
昨日面倒事は起こすなというクラフトの注意をすっかり忘れてしまった優華は、さっそく鍛冶場に向かった。
髪を一つにまとめ、作業着を着用して鍛冶を開始した。
今かは作るのは剣だ。剣はただ鉄を打って形を整えるだけで作れるので手間もかからないし簡単(優華談)だ。
材料はただの鉄。シンプルなのが一番だろう。まずは鉄を竈で熱し、形が変わるようにする。充分に熱したら取り出して、丁寧に、そして早く正確に打っていく。
カンカン、と優華が鉄を打つ音が鍛冶場に響く。それをファーレはずっと目に焼き付けていた。
しばらく熱して打って冷やしてを繰り返し行うと、満足できるものができた。それに持ち手を付けて、剣を完成させる。
その剣身は光り輝いており、一目で業物だとわかる完成度だ。優華は満足気に県を見て一言つぶやく。
「ふむ…いい出来だ」
優華は固有空間(アイテムボックスのようなもの)からオリハルコンを取り出す。オリハルコンはこの世界で最も硬い鉱石だ。これで何かを作ればそれはとても硬い強力なものになる。
そのオリハルコンを地面に置き、剣を構える。要は試し斬りだ。普通鉄の剣でオリハルコンを切ることなんてできない。類まれなる技術があればそうでもないが。
だが今回はただ振るだけだ。切れ味を試すだけなので技は必要ない。
優華は剣をオリハルコンに振り降ろす。力はある程度抜いて、刀の切れ味だけを活かす振り方だ。
優華の振った剣はオリハルコンをバターのように切り裂き、ついでに下の地面も切り裂いてしまった。
「えぇぇぇぇ!?」
優華がオリハルコンを取り出したところからポカンとしていたファーレが、これにはたまらず声を上げた。
「え? オリハルコン? え? なんで切れとるん?」
どうやら状況をなかなか飲み込めていないようだ。無理もないだろう。ただの鉄の剣が、世界で一番硬い鉱石を切ったのだから。
「ふむ…」
「ちょっとばあちゃんそれ見せて!」
「ん? わかった」
優華が鉄の剣を手渡すと、ファーレはそれを食い入るように見た。そしてある程度見たあと、驚きが隠せない声で呟く。
「こ、これ、聖剣や」
「そうか」
「いや反応うっす! ばあちゃん、聖剣って伝説の剣で、今じゃ父ちゃんくらいしか作れる人いないんよ。それも厳選に厳選を重ねた最高の素材でしか作れんの」
「そうか」
「なんでただの鉄で聖剣作れてんのーー!?」
「作れるんだから仕方ないだろ」
「絶対おかしいやろ!」
なぜ不思議がられているかわからない祖母と、常識を持つ孫の攻防が始まる。
「絶対おかしいからな! 鉄から聖剣が作れるなんて!」
「いや普通だろ。この程度の剣くらい。それにこの剣も私が作ってきた中ではあまり強力じゃない」
「それならいいか……ってなるかい! もっと強力な剣を作れる!? この剣も充分強力やからな! 普通オリハルコンなんて切れんわ!」
「えぇ…」
「えぇ…じゃないわ! もう我慢ならん。おばあちゃん、一回外出るで。人間の街を回ったら少しは常識が身に付くやろ」
「いや、もう私は充分回ったから必要ない」
「……いいから行くで! いくら一人で回ったところで常識を知らんかったら意味ないやろ。ウチがちゃんと教えたる!」
優華は強引にファーレに連れて行かれる。ファーレは人間の街に転移して離してくれた。今いるのはスフィーダ王国の首都の中で最も人がいないところだ。
おそらく転移するのを見られないようにするためだろう。見られた場合騒ぎになるのは避けられないだろう。それはとても嫌なので助かる。
「さぁばあちゃん、一緒にお出かけや!」
なぜかファーレは楽しそうだ。優華はわからないが、優華に常識を教えるのは建前で、ただお出かけしたかっただけなのだ。なので今とてつもなくワクワクしている。
「じゃあばあちゃん、まずは服屋や。オシャレは女の子の基本やからな!」
「そうか、なら私は女の子をやめる」
「絶対に可愛くするからな!」
というわけで優華とファーレはまず服屋に寄った。服屋に行くまでの道のりでめちゃくちゃ見られたが声を掛けられることはなく、スムーズに行くことができた。
なぜか拝んでくる人達がいたが、おそらく幻覚だ。
「いらっしゃいませ~。あら、可愛らしいお客様方ですね。今日は何をお求めですか?」
子に似合うのを見繕って!」
「できるだけ地味なので」
「この子の言ってることは無視していいから!」
「任されました!!」
「えぇ……」
数分後、はりきった店員とファーレにより、優華は着せ替え人形にされていた。あれを着てみて、これを着てなど何回も繰り返し、結局優華のサイズの服を全部着ることになった。
(私の体はボロボロだ!)
店に入って一時間後、疲れ果てた優華の姿があった。女子物から男物まで、サイズの合うものは全て着せられた。今の優華はまるでボロ雑巾のようだ。
「ばあちゃん、次はカフェ行こ! 甘い物食べて休憩や!」
「よし、行こう。すぐに行こう」
優華は蘇った。基本甘い物好きである優華は甘い物さえあれば元気が出るのだ。
優華がカフェを楽しみにしていると、辺りが騒がしいことに気が付いた。優華が街を訪れると大抵うるさくなるのだが、今回は特別うるさい。
何かあるのだろうか。優華がそう思っていると、声が聞こえた。
「お兄ちゃん、ほんとにここにいるんだよね?」
「あぁ、すぐ近くだ」
「………ぁ」
頭の中が真っ白になった。先程聞こえたのは、妹の優子と兄の優太の声だ。優華が異世界に飛ばされている間に死んだと言われていた、家族の声だ。
「なん、で?」
わからない。なぜ彼らが生きているのかわからない。自分が今、どんな顔をしてるのかもわからない。
混乱していると、声の主の姿が見えた。それは、紛れもない兄妹の姿。もう会えないと思っていた二人の姿。
真っ白な頭の中で、ある一つの答えが出た。早く離れなければ。気付かれる前に。
「ファーレごめん、少し調子が悪い。今日はここで帰らないか?」
「え、ばあちゃん調子悪いん!? じゃあ早く帰らな!」
優華とファーレは急いで人がいないところに行き、転移した。
「なぁ、さっき優華の声が聞こえなかったか?」
「え! それほんと!?」
「確証はないが、聞こえたと思う」
「じゃあマップを見て早く探そうよ!」
優太と優子は街を回り優華を探したが、いくら探しても見つからなかった。
【後書き】どうも、勉強に押し潰されそうな緋色です。なんかもうスカーレットって使わなくなりたしたね。緋色に改名しようかな…。
特に話すことも無いのでここで終わります。ここまで読んでくださりありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます