第23話ドワーフの国
優華はエルフの国で数日過ごし、ドワーフの国に出発した。出発の際ヘーニルは嘆いていたが、また会えるからと別れた。
次に目指すのはドワーフの国だ。ドワーフの国は少し特殊な場所にある。
それは世界最大のダンジョンである大空洞アビスの最奥だ。大空洞アビスは十階層のダンジョンだ。下に行くほど広くなり、九階層にもなると次の階層まで二年は掛かる。
ドワーフの国はこの大空洞アビスの最奥十一階層目にある。先程は十階層と言ったが、あくまでそれはダンジョンの階層であり、ドワーフの国は入っていない。
そしてこの大空洞アビスは、人間の国の一つに存在している。階層が進むごとにでかくなっていくので入り口は大きくはない。
さすがの優華も大空洞アビスをクリアするのは骨が折れるし、転移したら相当目立つので今回はドワーフの国の入り口に転移した。ドワーフの国の入口、すなわち第十一階層目に続く扉の前だ。
第十一階層目の入口の扉は第十階層目のボス部屋にある。ボスを倒せば二つの扉が開放され、一つは宝部屋とダンジョンの入り口に戻れる転移門の場所に繋がっている。
そしてもう一つの扉がドワーフの国の入り口に繋がっているのだ。
優華の場合十階層のボスを倒さなくても扉を開けることができるためわざわざボスを倒す必要はない。十一階層に続く扉はとても大きく重厚なものだ。
優華はそれをコンコンコンとノックする。一応今は観光客のようなものなのだから、礼儀は大切だろう。
優華がノックしてしばらくすると扉が開かれた。そして一人のドワーフが出迎えてくれる。
そのドワーフは普通のドワーフとは違い小さくなく、大柄で立派なひげが生えている。
彼の名はクラフト。ドワーフの始祖であるエルダードワーフが彼だ。そしてこのドワーフの国の長でもある。
クラフトは優華を信じられないようなものを見たような目で見つめてくる。優華は密かに傷ついた。
気まずい時間が続くのもあれなので、優華から話し掛ける。
「久しぶりだな、クラフト。元気だったか?」
「お……おふくろ!?」
クラフトは驚いた声を出す。まだ頭で理解できてないのか困惑気味だ。優華は困惑をほぐすように、ゆっくりと優しく話しかけた。
「元気そうで何よりだ。しばらくここに滞在するから、よろしくな」
「いやちょっと待て! え? おふくろ帰ってきたんかい! なら早う教えてくれや! 待っとったんやからな!」
ドワーフ特有の喋り方でクラフトは優華を責める。だがその目尻には雫が浮かんでおり、声は言葉ほどの厳しさはなく、嬉しさや安堵に満ちたものだった。
ヘーニルのように抱きついてきたりはしないが、喜んでくれているのは手に取るようにわかる。
「おふくろ、ワイが今から案内係として国を案内するさかい、絶対に問題を起こさんでくれよ?」
どうやらあまり信用されたないらしい。実の親に本当に失礼な子供だ。
だが優華としては、そのツンツン具合が猫に似ていて可愛いと思っている。口は悪いが優しい子なのだ、クラフトは。
そしてクラフトが言っている問題というのは、優華が鍛冶をすることである。優華の物を作る技術はこの世界で一番だ。
それは物作りを生業としているドワーフを軽く越え、ドワーフの中で一番の技術を持つクラフトでさえ敵わない。
そんな優華がここで鍛冶をした場合、ドワーフからの弟子入りが殺到することになる。十万年前に同じようなことをした優華はそのことを重々承知している。
「それにしても、随分と発展したな、この国」
「そりゃあ、十万年もあったら発展もするやろ」
ドワーフの国は人間や魔族、エルフとは違い地下にある。それ故に太陽の光が届きにくく、証明を使って国全体は照らされている。
ここでドワーフについて簡単に説明しよう。
ドワーフとは、始祖のエルダードワーフから生まれた人類だ。主に物作りの技術が高く、家や武器、魔道具など何でも作れる。
ドワーフ外見は男女問わず小柄で、男には立派なひげが生える。使える魔術の属性は主に土だ。物作りとも相性がいいため、他の属性のドワーフはあまり見ない。
そしてドワーフはみんな物作りの次に酒が好きだ。代金がなくとも酒さえあればどんなものでも作ってくれる。まぁコストに応じて求められる酒の質や量も高くなるが。
そんなドワーフの国の建物は他の種族とは比べ物にならない程に完成度の高いものだ。もはや別次元と言っていい。
建てられている建物は滅ぶ前の人間の建物と遜色ないものだ。ビルなどはないが、民家などはほとんど同じ形をしている。
それに独自の工房が一つはついており、とても一世帯が住む家とは思えないほど広い。
そこら中から鉄を打つ音が聞こえ、一種の音楽のようだ。
「ところでおふくろ、いつ帰ってきたんや?」
「千年前くらいだな」
「なるほどなぁ。じゃあおふくろは、千年も前に帰ってきてたのに連絡一つ入れてくれなかったと」
「……」
クラフトの鋭い指摘に優華は黙った。実際その通りだからだ。自分でも良くないことだということはわかっている。
だが言い訳をするなら、帰ってきたときの優華は時間間隔が狂っていた。一年を一時間くらいに感じていたときもあったのだ。
途中でそれは直ったが今でも時々時間間隔がおかしくなることがある。
そして優華は旅で疲れが溜まり切っていた。なので少し休もうと思ったのだ。それでなんやかんやあり千年が経ってしまった訳だ。
「なんか、ごめんな」
「はぁ…何があったかは知らんが、もうちっと子供は大切にせなあかんで。ヘーニルとかめっちゃ落ち込んでたしな」
「あぁ、ヘーニルにはもう一度会ったから大丈夫だ」
「へぇ、やったらあいつは大丈夫やな。でももう一人落ち込んでるやつがおるからな。はよ全員に会いに行かなあかんで」
「わかってる。ところで、その落ち込んでる子は誰だ?」
優華が聞くと、クラフトは溜息を吐きながらなにか呆れた顔をした。
「おふくろって、子供の気持ちほんとわかってないなぁ。落ち込んでるのはハデスや。めちゃくちゃ懐いておったやろ?」
ハデスは大罪魔王の一人だ。優華にすごく懐いていて、いつでも一緒だった。優華が居なくなった時にはちょうど仕事が入っていたのでいなかった。
母を慕っていたのに突然いなくなった時、あの子はどう思っただろうか。子供達の中でも一番と言っていいほど慕ってくれていた子だ。その寂しさは言い表せるものではないだろう。
「そうだな。ここで二日くらい滞在して行くことにする」
「そうかい。できるだけ早う行ったれよ」
そんな会話をしながら道を歩いていると、前から少女が走ってきた。少女はクラフトを見つけると笑顔でこちらに向かってくる。
「父ちゃん、おかえりー!」
「おぅファーレちゃん! 元気にしとったかー?」
クラフトは大きく手を広げ、ファーレと呼ばれた少女を受け止めた。
「父ちゃん、この人だれや?」
「クラフト、この子は?」
「おふくろ、こいつはファーレ。ワイの娘や!」
「娘!?」
「ファーレ、この方はワイの母ちゃんでお前のばあちゃんや!」
「ばあちゃん!?」
クラフトの紹介で、優華とファーレはお互いを見合った。ファーレは優華よりも数段小さく、身長は120cmくらいだろう。短い髪はクラフトの白とは違い、黄土色だ。そして顔は幼いながらも整っている。笑顔が似合う少女だ。
「父ちゃん、こんな別嬪さんウチ見たことないで! ばあちゃんとか絶対嘘やろ! 母さんより若いやん!」
「ファーレ、見た目に騙されたらあかん。これでもおふくろは十万歳越えとるで」
「えぇーー!?」
ファーレが驚きの声を上げながら優華をガン見する。微笑ましいファーレに優華は優しく微笑んだ。
「な、なんや、なんかドキドキするんやけど」
「ちょ、おふくろ、娘の性癖捻じ曲げんといてや」
「え?」
「あ、これほんまにわかってない顔やな」
何を言われているのか、優華にはよくわからなかった。だが二人を見ていて一つ気付いたことがある。
「それにしても、ファーレは君に似て可愛いな」
「そりゃあワイの娘やからな。当たり前や。それよりなんでワイが可愛いことになっとるんや?」
「ブフッ、ちょっとばあちゃん冗談きついで。父ちゃんが可愛いわけ無いやん」
「可愛いと思うが……」
どうやら価値観の差があるようだ。優華はファーレと話しながらクラフトの案内に付いて行く。ファーレは見た目通り七歳、というわけではなくその百倍の七百歳らしい。
どうりで語彙が多いのだと優華は納得した。
クラフトの話では、子供は後二人ほどいるらしい。どちらも男で、今は職人として仕事をしているそうだ。
「なんかあいつらをおふくろに会わせんの嫌やわ。性癖歪みそうで」
「わかるわ〜。ばあちゃんって見た人の心を一瞬で虜にしちまうし。ウチもひと目見ただけで心奪われたもん」
「ちょっとおふくろ、どうしてくれんや! ワイの娘が同性愛者になってしもうてるんやけど!?」
「なぜ私のせいになってるんだ?」
騒がしい二人に付いていき数分程すると一軒家が見えてきた。その家は他の家高い場所にあり、国全体を見渡せるようになっている。
決して豪華ではないが、とても雰囲気のある家だ。
「おふくろとファーレはここで少し待っといてや。ワイは息子と、かみさんにおふくろのこと言ってくるわ」
「わかった。待ってる」
「ウチもばあちゃんと話したかったからちょうどええわ!」
クラフトが家で家族に説明している間、優華はファーレの質問攻めをくらっていた。
「なぁなぁばあちゃん、じいちゃんおるやろ。どんな人なんや?」
「いや、君に祖父はいないぞ」
「え? どうしてや? ばあちゃんいるならじいちゃんもおるやろ?」
「私は子供を産んだんじゃなくて創ったんだ。私の能力を使ってな」
「へぇじゃあウチら血は繋がってないんや」
「一応な」
「じゃあウチとばあちゃんは結婚できるってことやな!」
「いやそれは色々と違うだろ!?」
そんな感じでしばらく会話をしていると、クラフトが戻ってきた。
「おふくろ、ファーレ、もう入ってええで」
「あぁ。それじゃあお邪魔します」
優華はクラフトの家に入った。家は十万年前の建物を彷彿とさせるような作りになっている。どこでこんな家を知ったのか定かではないが、懐かしい感じがする。
「ようこそ我が家へ。お義母さん、私はクラフトの妻メイクと申します。どうぞよろしゅうお願いします」
そう言って優華を出迎えたのは、少女だった。身長は優華と同じくらいで、長い黄土色の髪を一つにし、ラフな服の上にエプロンをしている。
「いや〜それにしても、お義母さんはほんま別嬪さんやね〜。写真で一回見たことあったけど本物は次元が違うな〜」
「そ、そうか…」
「なんやおふくろ、どうかしたんか?」
クラフトが戸惑った顔で聞いてくる。優華としては子供がどんな人を妻にしても構わないが、少し予想外だった。
「いや思った以上に若かったから反応に困った」
「え? おふくろも同じくらいに見えるで?」
「………クラフト、後で覚悟しておけ」
「え!? なんでや!」
(お前は私を傷付けた!)
「そうやお義母さん、今日は家に泊まっていかん? 話も色々聞きたいし」
「それはええな! ワイはあとが怖いんやが…」
「そうだな、じゃあお言葉に甘えることにするか」
こうして優華は、クラフトの家に泊まることになった。クラフトは震え上がっていたが。
【後書き】どうも緋色です。最近は私の作品を読んでくれている方々が増えてきてすごく嬉しいです。今回はドワーフですね。書いている途中に思ったのですが、関西弁ってマジでむずかしいですね。たぶんおかしなところがあると思います。
これからも頑張っていくので、ぜひまた読んでください。
では最後に、ここまで読んでくださりありがとうございました。
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