第22話家族転生
人生は信じられないことだらけだ。突然人間が滅んだり、魔法が使えるようになったりする。だから俺は驚かなかった。
自分が転生したと知ったときも。今日俺は、前世の記憶を思い出した。朝起きたら、全てを思い出した感じだ。押し寄せる情報の波に頭が痛くなったが、なんとか耐えた。
俺は今世では貴族に生まれた。名前はユウタ・カンズ。マルール帝国の唯一の公爵の位を持つカンズ公爵家の長男だ。なんの因果か、俺の下の名前は前世と同じだった。
俺の前世の名前は神森優太。ごく普通の一般高校生だったんだがある日突然人類が滅んだ。俺の家族以外を除いて。別に人間が滅んだことについてはなんとも思ってない。
俺が一番悲しかったのは長女の優華が人類が滅んだ日と同日にいなくなったことだ。
朝起きて、気付いたら優華はいなかった。人間が滅んだ日の一ヶ月前から優華は部屋に引き籠もって出てこなかった。
なにか思い詰めているだろうとは思っていた。だが俺は知ってやれなかった。あいつが悩んでいたことを聞き出せていたら、まだ変わった未来があったかもしれないのに。
人間が滅びた日から俺は優華に会っていない。寿命で死ぬその日まで会うことは一度もなかった。
もしかしたら、あいつが人間を滅ぼしたのかもしれない。それで消えたのなら説明がつく。
だけど、たとえ人間を滅ぼしたのがあいつだとしても…離れたくなかった。
あいつは俺の妹で、末の妹、優子の姉で、父さんや母さんからしたら愛する娘なのだから。罪の一つや二つくらい、いっしょに背負ってやれた。でももう、それもできないんだな。
俺はもう優華とは会えないだろう。家族とも。
前世のことを思い出して、俺は涙を流した。もう15歳なのに、今世でも一人の妹の兄なのに…情けないなぁ…。
ひとしきり泣いて落ち着くと、扉がノックされた。おそらくいつも俺を起こしに来てくれるメイドだろう。
「ユウタ様、起きてらっしゃいますでしょうか?」
「あぁ、起きてる」
「失礼します。珍しいですね。ユウタ様が早起きしているなんて」
「そんな珍しかったか? 自覚ないんだが…」
「いつもよりかなり早いですよ。そういえば、旦那様に奥様もお嬢様も今朝は早起きでしたね。なぜでしょう?」
「俺に聞くな。俺は支度するから、待っていてくれ」
「あら、ユウタ様が御自分で支度なさるなんて、今日は本当に珍しいことが起きますね」
「お前少し失礼じゃないか?」
メイドと軽口を叩きつつ俺は身支度を済ませ、食堂に向かった。
食堂には既に家族全員が揃っていた。
実を言うと今世の親と妹が前世の名前と同じ名前なのは偶然なのだろうか。もしかすると、もしかするかもしれない。それに加え、記憶を取り戻す前までは気付かなかったが、前世の容姿と今世の容姿が完全に同じだ。もちろん俺もユウコも。
憶測でしかないが、俺以外も転生してるだろ、これ。記憶を取り戻しているかどうかはわからないが。
ふとテーブルに並べられている料理を見る。質素なパンに質素なスープ。前まではなんとも思っていなかったが、前世の記憶を取り戻したあとだと、なんか物足りない。味も薄いし。
心なしかみんな残念な顔をしているように見える。席に付き改めて料理と向き合う。
「では、いただこう」
前世とは違い食事の前に何をするでもなく、父が一言言うだけで食事は始まる。やっぱり違和感があるな。
俺はまずパンを齧ってみる。前世のような柔らかいパンではなく硬い黒パンだ。食べてるだけで口の中の水分が奪われる。
たまらずスープに手を付ける。スープの味は薄く、少しぬるかった。
前まではこれが普通だったのに、前世を思い出した影響か、食べられなくはないが、なんというか本当に、
「「「「物足りないなぁ…」」」」
ハモった。全員が同じこと思ってたんだ。みんなで顔を見合わせる。これマジでみんな前世の記憶取り戻してんじゃね?
少しカマかけてみるか。
「神森家、人生で一番大事なのは何!?」
「姉!」
「子供!」
「家族!」
これは前世の家族で一日一回は必ず行っていた号令だ。そしてこれに反射的に答えられるのは神森家のみ。
みんなで顔を見合わせる。やはり、みんな記憶を取り戻しているんだ。その事実を確認し合うように頷き合う。そしてポロポロとみんなの目から涙が溢れてくる。
「そうか、そうか。俺達また一緒なんだな……!」
俺のつぶやきに同調するようにみんな首を縦に振る。妹の優子は誰よりも涙を流して言葉を紡ぐ。
「良かっだよぉ…私一人だけかと思っだァ……!」
「俺達は一人じゃないよな。みんなで一つだよな。優子、優太、優良、また会えて本当に嬉しいよ」
「そんなに泣かないの、あなた達。今あるこの喜びを、分かち合いましょう…!」
俺達は人の目がないのをいいことに、わんわん泣いた。そして落ち着きを取り戻し、みんなの顔が曇る。
今この場にいるのは俺、妹の優子、母親の優良、父親の優弥だ。でもこれでは、一人足りない。
「お姉ちゃんは、またいないのかな…」
「優華、あいつ、どこいったんだよ…」
「わからない。でも俺達にできるのは、優華の無事を祈ることだけだ」
「あの子がもし生きてるなら、また会えるわ」
「そうだな」
優華、お前がどこにいようと関係ない。家族は必ず再開できるから。少ししんみりした空気になった空間を、入れ替えるためだろう。親父が少し真剣な顔で喋りだす。
「なぁ、お前達。俺は気付いてしまった」
「な、何をだよ」
あまりの真剣さになにがあるのか訪ねてみる。一体、何があったんだ?
「俺達は転生者だろ? だったら、あるはずだろ、転生者特典が!」
「「「!?」」」
神森家はアニメ好きの家系だ。家族全員がマジのアニメ好きである。もちろんファンタジー系のアニメも多く見ている。
そしてやはり気付いてしまう。俺達は今ラノベの主人公と同じような状況だ。そして転生者はもれなくチート能力を持っているのが常識である。
なので俺達も持っているはずなのだ、チート能力を!
「ステータス、オープン!」
異世界系でよくある単語をその場のノリで叫ぶ。すると案の定出てきた。ゲームとかで出てくるウィンドウみたいなやつが!
「うお! マジで出た!」
「ウソ! 私もやる!」
それから皆恥も外聞も捨てて叫んだ。ステータス、オープン! と。
どうやらこのウィンドウ、スキルと称号が現れるようだ。ふむふむ、なるほどなるほど。
俺のウィンドウはこんな感じだ。
ユウタ・カンズ(神森優太)
称号 転生者 過去からの旅人
スキル 魔剣招来
まんまラノベだな。それにしてもスキルの魔剣招来ってやつ、めちゃくちゃかっこいいけどどんな効果なんだろ。
こういうときはちょっとタップするに限る。
お、タップしたら詳しい説明が出てきた。
スキル 『魔剣招来』
女神が与えた優太固有のスキル。好きな魔剣を召喚することができ、属性、強さなども自分で決めることができる。
チートじゃねぇか。いやマジで強すぎる。これはやばいな。
ちなみにみんなでスキルを共有したんだが、優子が好きな魔物を召喚して従わせることができる『魔物召喚』で、母さんが魔法系スキルを全て使える『魔導王』、親父が強化された銃などの銃火器を召喚して扱える『機械王』だった。
いやみんな強すぎる。これ与えた女神の考えがわからんわ。
まぁでも、優華を探すのにこの力は大いに役立つだろうな。
優華、お前が今どこにいようと、何になっていようと、俺はお前を探し出す。そして絶対に離さないからな。待ってろよ。
【後書き】どうも緋色です。ゴールデンウィークが終わりました。つらいです。皆さんも今日からがんばってくださいね。
簡単ですが、ここまで読んでくださりありがとうございました。
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