第20話邪神VS女神

宗教国家ファーナーテクスの教会の最上階で、アテナは困惑していた。自分の放った攻撃が、無効化されたからだ。


「いくらあのエルフがいるからって何も被害がなくて消えるようなことある? ましてやあの一万年分の魔力の籠もった攻撃なのよ…」


さっき起きた事が信じられなくて、攻撃を放ったのかさえも疑わしくなる。

そしてアテナは、最悪の可能性に辿り着いた。


「まさか、あの女が帰ってきたとでも言うの!?」


先程の光景を実現できる存在を、アテナは知っている。アテナがこの世界に狙いを定めてから最も警戒していた女だ。


「まずい、まずいわ。もしそうなら、今まで積み上げたこと全部無駄になる!」


あの女、優華の持つ力は絶対的だ。最上位神クラスの力を持つアテナでも、優華と戦ったら負けは確実だ。そのことを理解しているアテナはどう逃げるか模索した。

だがそれは、あまりにも―


「それは残念だったな」


―遅すぎた。

アテナは慌てて声のする方に顔を向けた。そこに立っているのは忌々しいほどに美しい少女だった。


「あんた…なんでここにいるのよ!」


アテナは吠えた。意味がわからないと。優華を飛ばした異世界は、それはもう本当に遠いところで、帰ってくるなんて不可能に等しかった。仮に帰ってこれたとしても、それは何千万年も先になるはずだ。

なのになぜか優華はここにいる。それが不思議でたまらない。そして忌々しくて、憎々してたまらない。


「異世界はとてつもなく遠かったはずよ。なんであんたは当然のようにここにいるのよ!」


「私がどこにいようが私の勝手だろ? それに、君には個人的な恨みがいくつかあるからな。殺しにきた」


「っ!?」


アテナは優華から発せられる圧に必死に耐える。


(呑まれてはダメよ。私にはまだアレがあるんだから)


アテナにはまだ秘策がある。それは兵器のことだ。あれば一発で大陸を破壊することができる。兵器で脅せば優華も従うだろう。


「ふふふ、威張れるのも今のうちよ。いいこと教えてあげるわ。私はね、一撃で大陸を消せる兵器を持ってるの。あなたの仲間を全員消すことだってできるわ!」


「そうか」


アテナの言葉に、優華はなんでもないように答える。そして、アテナからしたら最悪な事実を告げた。


「その兵器、私がすでに破壊したぞ」


「……え?」


アテナは急いで確認する。宇宙空間にある自分の兵器を。


「…は?」


兵器は、きれいに真っ二つにされていた。それを見たアテナの希望も、断ち切られた。


「嘘よ…ありえない。そんな…嘘よ!」


「じゃあ、確かめてみるか?」


優華がアテナに手を向ける。たったそれだけで凄まじい圧を感じた。体の震えが止まらず、動こうとしても動けない。


「ぁ……ぁ…」


声にならない声が出るだけで、何も喋れない。優華の圧倒的な存在感と、殺気による威圧は、上位の神であるアテナでさえも耐えられないものだった。


(どうしたらいいの…このままじゃ私殺される! 考えるのよ。諦めなければ勝機は必ずあるはず)


アテナは必死に考えた。そして、一つの活路を見つけた。これならいけると確信し、威圧に全力で抗いながら口を開く。顔もできるだけ余裕のある顔で。


「ねぇ、私が自分の世界をいくつも犠牲にして、この世界を支配しようとした理由って何だと思う?」


アテナはすでにいくつか自分の世界を持っていた。だがその世界は優華を追い出すために犠牲にした。普通なら割に合わないものだ。

だが、この世界には、それをするだけの価値がある。


「この世界はねぇ、魂の質がとてもいいの。私みたいに力をつけたい神は魂を糧にするの。でもそれは、神に限った話じゃないわ」


「…何が言いたい?」


「この世界を狙っているのは、神だけじゃないってこと」


神になったものには特殊な能力が宿る。優華の能力の『創造』のようなものだ。それは『神能』と呼ばれ、一つ一つが強力だ。アテナの神能は『等価交換』。自分が有するものを贄にすることで、魔術を発動させることができる。

贄の量や質により魔術の効果は変わり、量や質が高ければ高いほど強力なものになる。


「この国の人間の命を全て捧げるわ! だから来なさい、応えなさい! 天界の住人よ!」


神技『天使召喚』


神技、神の独自の技が発動し、光の門が現れる。その門が開き中から現れたのは、顔がない、人形のなにかだった。

服は着ておらず、細かなパーツがない体だけがある。例えるならマネキンのようなものがいた。

だが一つだけマネキンとは違うところがある。それは背中と頭上だ。目の前の存在の背中には、白い翼が生えていた。そして頭上にも普通とは違う、金の輪がある。


「吾は最上位天使イェレミエル。召喚に応じ参上した。…何が望みだ?」


アテナは笑みを深め、優華を指差す。


「あいつを殺して」


「承知した」


アテナが呼んだのは天界に住む天使だ。

天界は、優華達の世界とはまた違ったものだ。異世界でもなければ並行世界でもない。優華達の世界を木と表現するならば天界は空。優華達の世界の上に存在し、とてつもなく広い世界だ。

そこに住むのは神とは別の生物。名を天使という。そしてその天使達にも階級があり、それぞれ下位天使、中位天使、上位天使、最上位天使に別れている。

最上位天使は全部で八柱いて、それぞれ別格の強さを有している。

その一柱が、この世界の魂に応えたのだ。

天使イェレミエルは魔力で剣を作り、優華にそれを向ける。

優華もそれに応えるように手を向ける。

張り詰めた空気が場を支配する中、唐殺し合いは突然始まった。


「ふん!」


イェレミエルが剣を薙ぎ、優華を切り裂こうとする。優華はそれを紙一重で避け、お返しに魔術を至近距離で発動した。

効果は爆発。爆炎が迸り、アテナの部屋は余波で跡形もなく消し飛んだ。

だがイェレミエルに効いた様子はなく、剣の一振りで辺りの煙を吹き飛ばした。そしてそのまま優華にも剣を振るう。

優華はそれをまた避ける。だがすぐに二撃目がきた。それは手に発動させた圧縮した結界で受け流す。


「ありえない…」


どちらも光速を超えたスピードで行われているためアテナの目では追いきれない。だが別次元の戦いが繰り広げられていることだけはどうしても理解させられた。


(でも、天使の方が少し押してるわね)


だが少しずつ優華のほうが押されてきていた。このままいけば優華が負ける可能性が高い。

アテナはそう考え、ニタリと笑う。


(ふふ、これで全てが思い通りになるわ。楽しみね…早くあいつ死なないかしら)


アテナが優華の死を願っていると、優華が吹き飛ばされた。

神の戦いは長期戦だ。神はいくら傷を付けられても即座に回復してしまうからだ。神を殺すにはすべての要になる魂を砕くか、その体に秘めている魔力をすべてなくすかのどちらかになる。

優華は戦いの中で何度も攻撃を受け、魔力で回復していた。アテナの見解ではもう優華の魔力は少ししかないだろう。

そしてイェレミエルはまだ魔力が多く残っている。この戦い、勝ったも同然だ。

そうアテナが達成感に浸ろうとしていたときだ。


「はぁ…仕方ない。少し、本気を出すか」


そう言って優華は、一振りの刀を出現させた。


「神刀 十握剣とつかのつるぎ


その言葉は、アテナを絶望の底に叩き落とす、始まりの言葉だった。



【後書き】どうも緋色です。明日からゴールデンウィークですね。みなさん旅行やら帰省やらでバタバタするかもしれません。自分はそんなことはなくゲーム三昧になると思いますが。

次回は邪神VS女神2です。ぜひお楽しみに。最後に、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。

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