第19話息子からの告白

「優華様! 私と、結婚してください!」


「……へ?」


優華は困惑することしかできなかった。なぜなら可愛がっていた息子が、急に告白してきたのだそれも付き合ってほしいとかではなく結婚してほしいとのこと。

訳が分からなかった。


「え? あの、ちょっと待っ」


「優華様! 私はあなたに生まれたときから恋をしていました!」


ヘーニルの話がどうにも飲み込めていない優華は止めようとしたが、勢いのあまり止めることができなかった。


(え? わからない。え? どういうこと? 私にヘーニルが恋をしていて、結婚したいってこと? え?親子だろ?)


実は優華は告白されるのはこれが初めてだ。優華の容姿でもてないわけないのだが、誰も告白してこない。理由は相手が勝手に優華とはつり合わないと思ったり、信仰して恋愛対象どころではなくなったりしていたからだ。

そして今回初めての告白で、それもよりにもよって相手が自分の息子で、頭がこんがらがってきた。


「あ?え? ちょっと待ってくれ」


「はい。どうしました優華様」


「なんで君は、私に告白してるんだ? 私達親子だろ?」


「はい親子です。ですが私達には血の繋がりはありません。ですので結婚しても問題ないかと」


「そうじゃなくて! 君は母と結婚するのに何も思わないのか!?」


ここ最近で一番の大声が出た。かれこれ千年は出してない。それほどまでにこのことは優華にとって予想外なことなのだ。


「私は優華様がいなくなったとき、とても辛かったです。自分で守れなかった無力感もあの時いなかった後悔で死にたくなりました。だからもうあのようなことにならないように、私は貴女を守りたいのです」


「それとこれとは話が別なんじゃないか? 別に結婚はしなくていいんじゃ……」


「いえ、私が優華様を女性として愛しているのは本当です。そこに嘘偽りはありません。そして貴女を守るためにも、私の想いを叶えるためにも、貴女と結婚し、道を歩みたいのです。どうか、私と共に、道を歩んではくださらないでしょうか?」


優華は返答に困った。優華からしたらヘーニルは自分の子供で、恋愛対象ではない。だからどれだけ愛を伝えられようと応えてあげられないと思う。


(傷つけたくはないが、正直な気持ちを伝えるか)


優華が一番嫌いなことは身内が傷つくことだ。身内が傷つくのなら、自分が傷ついた方がよっぽどいい。優華にとっての身内は庇護するべき対象だから。絶対に守らないといけない、笑顔を絶やさしてはならない大切な存在だから。

身内が傷つき悲しむことは何であっても阻止する。だから自分の言葉が身内を傷つけるのは避けたい。でも、こればかりは仕方がないのかもしれない。優華は息子の気持ちには、応えてあげられないから。もし嘘をついても偽りの気持ちはヘーニルを傷つけるだろう。

それならいっそ自分の気持ちを正面から言う方がお互い楽だろう。


「私は、君の気持ちには応えられない。決して君が嫌いとか、君と一緒にいるのが不快だとかではない。ただどうしても私は息子を恋愛対象にはできない」


「……そうですか。ならば仕方ありません。今回は諦めます」


「なんかすまないな」


「いえ、お気になさらず。これから優華様に惚れてもらえるよう、頑張るだけですから」


「え?」


「絶対に惚れさせますからね」


息子の惚れさせる宣言に優華は動揺するしかなかった。だが次の瞬間、その動揺が嘘のように消える。


「ん?」


ヘーニルも同じようで、さっきまでの熱はなくなり代わりに空を見ていた。




優華がヘーニルに告白されたのと同じ時刻、人間の国の一つに動きがあった。その国は女神アテナを崇める女神教の総本山である宗教国家ファーナーテクス。女神アテナを主神として、魔族を悪する者たちの国だ。

その国の首都には大きな教会がある。外見は白を貴重としたとても清潔感のある綺麗な建物だ。その教会の最上階には一人の女性がいた。

濃い紫色の髪を背中まで伸ばし、純白のワンピースで身を包む姿はとても美しい。

彼女の名前はアテナ。女神教の神にして、かつて優華を異世界に飛ばした張本人である。

アテナは口を歪め、呟く。


「……、そろそろね。楽しみだわ。十万年前、私をコケにしてくれたあのエルフにやっと復讐ができる」


アテナは笑いながら一つの装置を操作する。それは宇宙にある兵器を動かすものだ。場所を指定して撃つ。それだけで大陸を跡形もなく消すことができる。

アテナが十万年費やして作ったもので、魔力も十万年分溜まっている。撃てる回数は十回。一発に一万年分の魔力と、燃費が悪過ぎるのは問題だが十回もあればこの世界を征服するのには充分だ。それがアテナの見解だった。

アテナは今からこの兵器でエルフの森を跡形もなく吹き飛ばそうとしている。憎きあのエルフの長老を消すために。


「エルフの森の次は魔族共ね。その次は獣人達、最後にドワーフかしら。この世界にはいらないものが多すぎるわ。あの女は本当に厄介な奴らを残してくれたわ。でも、もう終わり」


その口調は女神とはとても言えない。その品のない下卑た笑みは女神であっても誰もが嫌悪するだろう。

アテナは兵器の標準をエルフの森に合わせる。同時にまた笑みを深める。


「後悔しなさい。私をコケにしたクソエルフ!」




優華とヘーニルが感知したのはとてつもなく大きな魔力。そしてこれはおそらく誰かからの攻撃だ。それもこの森が消失してしまうほど強力な攻撃力を有している。あれが直撃すればまずい。直感でわかった。


「優華様! ここは私が!」


ヘーニルが慌てて結界を展開させようとするがさすがその結界ではあの攻撃を防げことは数秒しかできないことを優華は悟った。


「いや、ここは私が防ごう」


あの程度の威力ならば優華の最大の力は出せなくてもいい。だが生半可なものでもだめだ。


魔術『暴食結界』


優華は『創造』を手にしたあと、七つの能力を創った。『創造』は創ることに特化した能力。なら、新しい能力だって作れるのではないかと思いやってみたのだ。

そしてこの結界には創った七つの能力の一つ、『暴食』の効果を付与している。

この『暴食』の効果は吸収。あらゆるものを魔力に分解し吸収できる。この効果により攻撃は魔力に変換され、ダメージはなくなる。

優華が結界を展開させた直後、上空から極太のレーザー砲のような攻撃が発射された。

だがその攻撃は池に小石を投げ入れたときに広がる波紋が結界に広がるだけで、森には何も影響はなかった。


「ふぅ…」


急いで展開したので少し不安だったがなんとかなったようだ。

だが、ここでまた問題が二つ。一つは今から片付ける。


魔術『空間断絶』


この魔術は空間を指定し、その空間に存在するものを強度関係なく断絶するというものだ。

そこであのレーザーのような攻撃の出所を感知し、それを潰したということだ。

どうやら攻撃を放っていたものは兵器の一種のようで、生物ではなかった。

そしてこれが問題だ。この森を消し去ろうとした人物が、この世界のどこかにいる。攻撃手段は一応潰したが、排除しなければこの森だけでなく、他の国も攻撃されるかもしれない。

優華が考え込んでいると、ヘーニルがとても忌々しそうな顔で言った。


「おそらく、今のはアテナと名乗る者の攻撃ですね」


「何か知っているのか?」


優華が聞いてみると、ヘーニルはコクリと頷きゆっくりと口を開く。


「アテナは優華様を異世界に飛ばした張本人です。今では人間達に女神として崇められていますが、その性格は横暴で自分勝手、まるで世界の中心は自分であるというようなゴミ以下のものです。私は一度会っただけですが、そのように判断しました」


何回も会っているのではないかという程に的確な性格の説明に優華は反応に困ったがスルーすることにした。


(だが、私を異世界に飛ばしてくれた奴がさっきの攻撃を仕掛けてきたのか)


優華は十万年前に異世界に飛ばされた。異世界の説明に入る前にまずは世界の説明をしよう。

まず世界は既存世界と並行世界に別れている。ここで世界を木に表現してみよう。既存世界は世界という木の軸となる世界。ようは根のようなものだ。

そして並行世界とは、既存世界を元にした世界である。ようは枝だ。この並行世界は既存世界の劣化版とでも思ってもらったらいい。もしあの時優華が人間を滅ぼしていなかったら、もしあの時優華が生まれていなかったら、という概念を生み出して魔力により生成される。ちなみに勇者達が元々住んでいるのも並行世界だ。

そしてここからが本題、異世界の説明だ。

異世界とは、ようは根本から違う世界だ。木で表現すると、別の木だ。住んでいる人種も違うならば、大陸の形なども全てが違う。

優華が飛ばされたのはこの異世界の方だ。転移すれば簡単に戻れると、優華も最初は思った。だが転移は自分の知っている地形で、知っている場所と同じ世界でないと転移できない仕組みになっていた。

なので優華は転移することができずに長らく旅をしていたのだ。

並行世界とは違い異世界からの移動はとても骨が折れる。それに加えとても遠い異世界に飛ばしてくれたのか、それはもう時間が掛かった。


(なんか、思い出していたら腹が立ってきたな。あの子達のことも心配だし、今すぐ殺りにいくか)


優華はこれまでの旅のことを思い出し、アテナへの怒りを強くさせた。


「ヘーニル、アテナの居場所に心当たりはあるか?」


「おそらく人間達の国の一つであるファーナーテクスかと。もしや、行かれるので?」


どうやら察してくれたようだ。優華はコクリと頷き肯定する。


「少し私も腹に来てな。じゃあそういうことだから、少し行ってくる」


「私も行きましょうか?」


「いや、君は引き続きこの国と森を守っていてくれ。それと、引きこもり過ぎだ。腕が落ちてたぞ」


今のヘーニルは昔と比べてだいぶ魔術の腕が落ちていた。本来なら、優華とまでは言わずとも、先程の攻撃も充分に防げたはずだ。


「私はこれからみんなに会うからな。そしてまたみんなでご飯を食べる。だから、それまでに魔術の腕をもとに戻しておくんだな」


「そうですね。優華様を守るためにもまた修行をします」


「期待してるぞ」


その言葉を言い終わると、優華は転移した。



【後書き】どうも緋色です。最近は面白いアニメが多くて暇がありませんね。自分は高校生なので勉強もしなければならないのですが、面倒なことこの上ないですね。

次は女神アテナと邪神優華の対面ですね。文がおかしくならないように意識して書きたいです

長々となりましたが、今回も読んでくださりありがとうございました。

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