第17話エルフの長老
日の出とともに優華は出発した。目的地はエルフの国。厳密に言えばエルフの国のある世界樹の森だ。街を出て少し歩いたところで優華は転移した。
周りの景色が変わり、あたり一面が木と植物だけになる。木の一本一本が高くなっていて、空は見えない。だが不思議なことに暗くはなく、一つ一つのものがよく見える。
現在優華がいる場所はエルフの国から少し離れたところだ。エルフの国の入口までの道はなく、人間がこの森に来ても辿り着くのは不可能に近い。だが優華はエルフ達の魔力を感知しているので迷わず行くことができる。
数分歩くと、エルフの国の首都の入口に着いた。人間や魔族の国のような城塞都市というわけではなく、閉塞感のない、広々とした街だ。建物のすべてが気をくり抜いたようになっており、とてもファンシーな感じだ。
優華が街に入ると、一斉に視線が集まった。優華は自覚がないが、優華の容姿を表現するなら幼いながらに完成した最上の美といった感じだ。
なので寄せられる視線の一つ一つに感嘆や好意などが含まれている。
十万年前も同じようなことなあったので優華は気にしていない。ただ、少し気になるのが、彼らの話し声だ。て
あれは、とか、まさか、などの言葉が聞こえてくる。それが何を指すのか優華にはわからない。なにか面倒事がする予感がするのは気のせいだろうか?
「あ、あの! あなたは優華様でありますか!?」
数々の視線を受けながら歩いていると、一人の少女が話しかけてきた。身長は優華よりだいぶ高く、優華の身長が142cmなので、少女は155cmくらいだろう。エルフ特有の長い耳と金糸の髪を持っている。
少女はその端正な顔を驚きと期待で染めていた。
「そうだが。何か用か?」
「やはり優華様でしたか! 私はピュシス。エルフの長老ヘーニルの一人娘です」
ピュシスと名乗る少女は顔を安堵と歓喜で染めた。だが優華はそれどころではなかった。
「え? あの子結婚したのか!?」
そう。あの変態でロリコンなあの息子が結婚していたのだ。
「はい。ですが少し困ったことになりまして」
「困ったこと?」
「はい。私の父ヘーニルは今、自分の仕事を他人に押し付け、堕落した生活を送っているのです。10万年前は違っていたらしいのですが……」
「………なるほど。よくわかった。子の過ちは親が正すものだからな。任せてくれ」
「ありがとうございます!」
(それにしてもあの変態だけど真面目な子がどうして堕落してるのかな。まぁ理由はどうあれ叱らないとな)
というわけで優華は不思議に思いながらピュシスと共にエルフの長老ヘーニルのいる家へと向かった。
しばらく歩いて着いたのは一つの木をくり抜いた家だった。他の家と遜色ない普通の家だ。
ピュシスは家の扉を開けて優華を中へ案内する。木の家の中は広く、いくつか部屋が別れている。ピュシスは優華を連れて二階のある部屋のまえで立ち止まった。
その部屋をノックする。
「お父様、入りますよ」
部屋からの返事はない。ピュシスは何も言わず部屋を開けた。部屋の中には絵の具や紙、キャンバスが床を埋めるほど散らかっていた。壁にはいくつかのキャンバスが飾られており、その一つ一つが一人の少女を描いていることがわかる。
(あれは、私か?)
キャンバスに描かれている少女は優華に非常に似ていた。まるで優華を見て描いたような絵だ。
そして、部屋に置かれているベッドには一人の青年が眠っていた。その顔は安らかとは言えず、うなされているようだった。
「すみません優華様、ここから任せてしまってもよろしいでしょうか? 私は少し用事があるので」
「構わない。任せてくれ」
「ありがとうございます」
ピュシスは優華に頭を下げて一階に降りていった。
さて、と優華はベッドで寝ている人物を見る。歳は20歳ほどに見え、とても整った容姿をしている。長い耳とピュシスと同じような金糸の髪をしていた。
優華はその人物にゆっくりと近付く。優華の気配に気付いたのか青年、エルフの長老ヘーニルが目を覚ました。
ヘーニルは起きてしばらくボーっとすると、部屋にいる優華を見た。途端に目を見開き、口をパクパクと開閉してから、一つ頷き呟いた。
「………夢か」
「違うぞ」
「え? じゃあ、本当に………母上なのか!?」
「そうだ。それよ「母上ぇ…!」……ちょっ…抱きつくな!」
突然抱き着いてくるヘーニルにより優華が言おうとしていたことが掻き消されてしまった。そのままヘーニルは優華に抱き付き泣き始める。
「よかった、本当に良かった! 母上が帰ってきて、良かったァ……!」
優華は一つため息をつき、ヘーニルを抱きしめる。
「私が君達を置いていくはずないだろ。こんなに泣いて、子供か?」
「はい! 僕はずっと母上の子供です」
しばらくして、ヘーニルはやっと落ち着いたのか泣き止み笑顔を浮かべていた。
「母上が帰ってきて僕は嬉しいです。寂しかったんですからね」
「あぁ。それは悪いな。それで、私が今なんで君の前にいるのかわかるか?」
「え? 僕に会いに来たのでは?」
「それも理由の一つだ。今私は旅をしていてな。この世界を見て回ってるんだ」
「なるほど。それはいいことですね」
「本題なんだが、エルフの国に来て一番最初に聞いた話がなにかわかるか?」
何か良くない雰囲気を感じたのだろう。ヘーニルの顔が引き攣った。
「いや、それはちがくて」
「ああ、言い訳はいらない。ヘーニル、君は久しぶりに会った息子が引きこもりのニートになっていた母親の気持ちはわかるか?」
「あ、あの、その〜………」
ここから長い説教が始まった。主な内容としては上に立つものがそんなに堕落して恥ずかしくないのかだとかや、仕事くらい自分でもやれとかだ。
「エルフの長老として、君には責務をまっとうする義務がある」
「………疑問に思ったんですが、創造神の母上に仕事や義務はあるんですか?」
「…………………それは今関係ない」
ヘーニルがジト目で睨んでくるが、優華は目を逸らす。
「と、とにかく、これからは部下に仕事を押し付けないこと。それとピュシスと奥さんにちゃんと謝ること。いいな?」
「はい! 承知しました!」
少し怪しいところがあったがこれで説教はおしまいだ。説教が終わったタイミングでピュシスが優華を呼びに来た。
「優華様、ご飯できました…よ………起きたんですか、お父様」
「ピュシス! 大きくなりましたねぇ!」
ヘーニルがピュシスの頭を撫でる。
「あなたが引きこもってもう10万年らしいですからね。成長もしますよ。というかよく私がわかりましたね。あなたとは今日会うのが初めてな気がしますが」
「いや、実は僕が引きこもってから一度見たんだ。その時はまだ仕事もしていたからね。エルフの国は全体を見ていたら、僕の娘と思われる女の子が元気に走り回っていてすごく微笑ましかったのを覚えています。それにしても本当に大きくなりましたねぇ」
「………それよりもうすぐご飯です。優華様、そろそろ昼食ですので、こちらへどうぞ」
「わかった。今行く。それとヘーニル、ちゃんと謝るんだぞ」
「はい。わかってます」
それからはヘーニルの奥さんとピュシスにヘーニルが謝ってから昼食を食べ、一泊することになった。ちなみにヘーニルの奥さんはロリ体型だった。
【後書き】どうもスカーレットです。今週は遅れずに投稿できました。月曜日投稿を目指しているのでぜひ今後ともよろしくお願いします。
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