第12話Sランク冒険者VS魔王

最強の冒険者シンとの話し合いが終わり、夕食になった。修行をするにあたり衣食住は保証されるらしい。だがさすがにこれは受け取りすぎな気がするので夕食の準備くらい手伝おうと思ったが断られた。

ご飯を作るのは師の仕事だそうだ。普通逆だろとは思う。でも無理に言ったら怒られそうなので黙ることにした。

それに、どうやらシンは自分達に無駄死にしてほしくなくてあのように言ったのだと雅彦は思う。普通に優しい人だ。

そんなことを考えていたらすごく食欲を刺激する匂いがしてきた。なぜか元の世界でも食べ慣れたあの匂いが、漂ってきた。

照間達もその匂いの正体に気付き、目を見開いている。


「できたぞ」


そう言ってシンが運んできたのは、紛れもないライスカレーだった。

雅彦達は黙って席に付いた。なぜシンがこの料理を作れるのかはわからないが、だが、久しぶりのカレーなのだ。疑問より食欲が勝ってしまう。


「食べてくれ」


「「「「いただきます!」」」」


許可が降りると雅彦達は一斉に食べだした。カレーは、想像の何百倍も美味しかった。絶妙なスパイスに、これまた絶妙な火加減のご飯、具は口に入れた瞬間ホロホロと溶けていき、最後に残るのはさらに刺激された食欲のみ。

スプーンを持つ手が止まらない。次々と口に入れなければ気が済まない。そんなこんなで雅彦達は見事完食した。なんならお代わりもした。愛流と莉々奈はおかわりはしなかったが雅彦と照間はそれぞれ3杯食べた。


「ごちそうさまでした」


雅彦達が食べ終わると、食器が片付けられた。今度こそ手伝いをしようと、雅彦は立ち上がった。照間達も手伝いたいようで、みんなでシンに付いていった。

台所に着いたシンはさっそく皿を洗い始めた。だが、それは普通の皿洗いの速さじゃなかった。目にも止まらぬ速さで洗われていく皿には汚れ一つなく、綺麗だった。ただ早く洗っている訳じゃない、丁寧に汚れ一つなくかつ早く洗っているのだ。

さすがに追い付けないので、雅彦達は皿を拭くことにした。それでも足手まといになった感は否めなかったが。

食事が終わりこれからすることをシンに聞いてみたが、今日はすることがないので自室で休んでいてくれと言われた。

本格的な修行は明日かららしい。そこで雅彦達は一度みんなで集まり話をすることにした。


「で、シンさんのことみんなどう思う?」


今日集まったのは他でもない。あのシンについて話し合いたいからだ。


「どう、とは?」


「あの人が本当に信じられるか聞きたいんでしょ?」


「そうだ」


莉々奈の言う通り、雅彦はみんなの意見を聞いておきたいのだ。雅彦はシンのことを信用している。食事や食後の風呂などを無料で用意してもらえたのは本当にありがたかった。

だから雅彦はシンを信じることにした。


「シンさんねぇ、俺は信じてるぞ。だって優しいし」


「最初は話を聞いてくれない人だと思っていましたがそんなこともありませんでしたしね」


「それにご飯も美味しいしね!」


なんか一人怪しいのがいるが、どうやらみんなシンを信じることにしたらしい。これから関係がギクシャクするのは嫌なので雅彦は素直に嬉しいと思う。

それはそれとして雅彦はまだ聞きたいことがあった。


「あと、シンさんってもしかして日本出身なんじゃないかな」


「やっぱり? 俺もそうかなぁって思ってた。カレーとか作ってるし」


そう、雅彦はシンが自分達と同じ出身だと思ったのだ。根拠は主に夕飯だ。王宮でもカレーは出たことがないのでおそらくこの世界には日本の料理は存在しないのだろう。

だがシンは知っているならまだしも作ることまでできている。どこでそんな技術を知ったのか、なんで当たり前のように料理できるのか、それを考えた結果、シンは日本出身であるという答えに行き着いたのだ。


「ですが本当にシンさんが日本出身の方だという確信はありませんよね。それに、日本出身ならどうやってこの世界に来たのかが気になりますし」


「それは追々聞いたらいいんじゃない?」


「たしかにそうだな」


莉々奈の意見に頷き、最終的には近々聞くことにした。もう話し合いは終わったので、雅彦達は自分達の部屋に戻り、寝ることにした。




雅彦達がシンと会う少し前、魔王を討伐するべく最前線に来たSランク冒険者達はちょうど魔王と、その配下と戦っていた。魔王の配下は一般的には魔物だ。だが大抵弱い魔物ばかりで数が多いだけのハリボテに過ぎない。本命は魔王ただ一人だ。

ヨハンはお得意の剣術で前線を押し上げ、他のSランク冒険者達と共に魔王と相対していた。空にはもう月が登っている。


「おいおい、魔王って言うからには化け物を想定していたが、不気味過ぎないか」


目の前の魔王は、異形の姿をしていた。体は無数の触手でできていて、頭とよべるところはなく、代わりに巨大な目玉が付いていた。異形の魔王はその目玉をこちらに向け、呟く。


「よくここまで来たな。人間共よ。我は魔王イタカ。やがてこの世界を支配するものだ。覚えておかなくてもよい。貴様らはここで死ぬのだから」


それは人間を取るに足らない存在としての発言だろう。ヨハンは自身の右側にいるセネクスに目線をやる。目が合い、合図を送る。そして後ろにいるフラゴルにもそれとなく合図を送る。

そして、ヨハンとセネクスは飛び出した。フラゴルは後ろで魔法を唱える。


「良いだろう。せっかくの余興だ。楽しませてもらおう」


魔王はこちらを侮っている。しかもここには人類でもトップレベルの実力者が三人もいる。勝機は十分すぎるほどある。

まずはヨハンが切り込む。触手を一本切り落としてから一旦引く。すると先程までヨハンがいた場所に触手による攻撃がやってきた。

やはり魔王、触手による攻撃はまともにくらえば相当なダメージを負うことだろう。だが、当たらなければどうということもない。

それに、ヨハンに注意がいくともう片方の注意はおろそかになってしまう。

瞬間、轟音を轟かせながらセネクスが戦斧を振るった。その威力は絶大で、魔王の触手を何本も断ち切っていた。


「チッ………!」


さすがの魔王もこれには焦ったのか、触手でセネクスとヨハンを攻撃する。それに二人共は大きく距離を取ることで回避した。

追撃しようと思ったのだろう。触手はヨハン達を追おうとするが、突如飛来した雷の魔法によって阻まれた。フラゴルの魔法だ。

さらにフラゴルは、魔王に向けて何本もの雷の槍を発射した。


「ぐっ……」


雷に身を貫かれ悶えている魔王にフラゴルはさらに魔法を重ねる。魔法が止んだ頃には、魔王は見るも無惨な姿になっていた。触手は雷により焼かれ、目玉も焼かれている。

だがさすがは魔王、それだけでは死なないようだ。


「貴様ら、許さんぞ! 我に傷を付けおって! 見せてやろう。魔王の魔法を!」


魔王は叫び、魔力を収束させる。その魔力の量は膨大で、とてつもない威力の魔法ができることがわかった。だが、みすみすそんな魔法を放つまで待つわけがない。

ヨハンとセネクスは魔王の触手に攻撃を加えた。だが、足りなかった。


「まずい!」


魔法が放たれるとわかった瞬間、ヨハンは瞬時にフラゴルを庇った。魔法を受けて一番被害を受けるのは彼女だからだ。

なんとか間に合い、覚悟した瞬間、とてつもない衝撃が体に襲い掛かった。意識が飛びそうになるが耐え、辺を見回した。

なんとか立っていたセネクスの姿を見て一度安堵するが、すぐさま魔王を視界に捉える。魔王は高笑いをしていた。


「見たか! 人間共よ。この魔法の威力を!」


(まずい状況になった)


最初は優勢だったが魔法一発で打開された。ヨハンは気絶しているフラゴルを抱え、離脱を試みる。


「おっと、逃しはせんぞ」


だが気付かれてしまった。舌打ちをしつつ繰り出された触手を回避する。だが、すぐにガタが来てしまう。どうやら結構なダメージを受けていたらしい。ヨハンはその場に膝を付いた。


「ふはははは! やはり人間は脆弱だ。手も足も出ない。いや、我が強すぎるからか! このような脆弱な存在に手を焼く大罪魔王共も大したことはなかった! これなら、あの邪神さえも我の敵ではない!」


「あら、それは許せない発言ね」


死を覚悟したヨハンの耳に、そんな声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る