第11話勇者と冒険者最強

Sランク冒険者との話し合いが終わったあと、Sランク冒険者達はすぐに出発した。短期決着をしたいらしく、明日には現地に付くらしい。また、魔族との戦いの場には転移門というものを使うって行くらしい。

転移門はある世界最大のダンジョンで回収されたものらしく、名前の通り門を通れば別の場所に行けるらしい。

すごいなと雅彦は思いながら自室のベッドに寝転んでいた。

すると、扉がノックされた。どうやらメイドさんのようだ。


「雅彦様。国王様がお呼びです」


「わかりました。今行きます」


メイドさんの呼びかけに応えつつ、雅彦は立ち上がり王の自室に案内された。

中には雅彦の他におなじみの莉々奈、照間、愛流がいた。みんなも雅彦と同じでなぜここに呼び出されたのか知らないようだ。


「皆揃ったようだな。では、ザックよ、報告してくれ」


「はい」


ザックと呼ばれた青年が前に出る。ザックは一度咳払いをしたあと、淡々と言う。


「私王都の冒険者ギルドの副ギルド長ザックと申します。以後お見知りおきを。今回報告させてもらうのは主に大陸最強の冒険者シン殿についてです。シン殿に今後のことについて報告した結果、勇者雅彦様達の教育係になっていただくことに成功しました」


「おう、それはまことか!」


「はい。ですがここで一つ問題が」


「問題?」


「雅彦様達の教育係になるかわりに雅彦様達自ら来てほしいということです」


ザックさんの言葉を聞いた王は顔をしかめて考え出した。少しすると考えが纏まったのか口を開いた。


「雅彦殿。すまぬがこれも人類のため。行ってくれぬか?」


「はい。わかりました。お前達もそれでいいよな?」


雅彦の問いかけに照間達は頷いてくれた。それが答えなのだろう。

雅彦たちは翌日には最強の冒険者シンがいるところへと行くことになった。護衛はなしで自分達だけらしい。

少し不安を抱いたが、他の人に頼ってばかりではいけない。

翌朝、雅彦達は出発した。見送りの騎士達に挨拶をして、王都を出る。

目的地は最強の冒険者シンがいる村だ。少し遠いらしいが、これも試練だと雅彦は意気込んだ。

歩き始めてから少しして、昼休憩をとった。食べたのは硬い黒パンと干し肉だ。贅沢は言えないがもう少しマシになってほしいところだ。そこは自分達以外の召喚者の人に頑張ってもらいたい。

そこからまた歩いて日が落ちてきた頃、雅彦達はシンが住む村に到着した。

思えばかなりの距離を歩いた気がする。雅彦達に報告しに来ていた人は、この距離を昼頃に出発して往復して夜に着いたらしいので驚きだ。

村は夜なのに村とは思えないほどにぎやかで、街のような感じがする。人は少ないらしいが、それでも衰えなんて感じない。

最強の冒険者シンがいるのはこの村の冒険者ギルドらしい。名前は夜の宮で、村の端にあるらしい。

聞かされた場所に向かっていくと、何やらいい匂いが漂ってきた。

どこか懐かしい、嗅いだことのある匂い。照間達もそれに気付いたのか、皆駆け足で匂いのする方に向かう。

すると、少し大きな建物が見えてきた。入り口に立ち看板を見てみると、ギルド夜の宮と書かれていた。

どうやらこの懐かしい匂いは目の前のギルドからきているらしい。

照間達と顔を合わせ、扉を開く。

中はラノベなどであるザ・ギルドという感じで特別感は感じなにのだが、この空間に広がる匂いには近親感がある。

雅彦達が中を覗いていると、男の声が聞こえてきた。


「意外に早かったな」


声の方を見て、雅彦は驚愕した。そこに立っていたのはフードを目深に被り仮面付けた、男?だった。そう、初めて雅彦が街に降り、少女の奴隷と一緒に消えた男。


「いらっしゃい。勇者雅彦と、その仲間達」


男は前と同じように淡々と、雅彦達を招き入れた。



優華は目の前で固まっている勇者達を訝しむ。


(なんで固まってるんだ?)


十中八九優華の格好が怪しいからだが、優華は思い至らない。でもとりあえず預かることになっているので、早く上がってもらう。


「立ち話もなんだから中に入ってくれ」


「………は、はい」


お邪魔しますと入ってきた雅彦達にとりあえず席に座ってもらう。テーブルにはとりあえず先程一人で食べようと焼いていたクッキーと、一人で飲もうとしていた紅茶を出す。


「ありがとうございます」


少し落ち着いたのか、雅彦達は紅茶を飲んだ。


「………おいしい」


「え? なにこれやばいんだけど! クッキーもすごく美味しい!」


「すっげー! こんなの初めて食べた!」


「照間、莉々奈、お行儀が悪いですよ。すいません。ご迷惑をおかけして」


「別にいい。気にするな」


先程までの緊張は完全に溶け、弛緩した空気が流れる。これだったらスムーズに話し合いを進められるだろう。

優華は雅彦達の向かい側に座り、口を開く。


「では、今後のことについて話し合うか」


優華がそう言うと、緩んでいた空気は再び緊張したものに変わった。いや、緊張した空気を纏うのは雅彦と真面目な少女だけで、あとの二人はクッキーに夢中だ。

あまり締まらない空気だが、とりあえず自己紹介をすることにする。


「まずはお互い名乗り合おう。私はシン、ここのギルド長だ」


「ど、どうも、雅彦です。よろしくお願いします」


「俺は照間です! よろしくお願いします!」


「私は莉々奈です。あ、後でクッキーをもう少し……」


「こら莉々奈! すみません。私は愛流と申します。これからよろしくお願いします」


全員が名乗り終えたので、早速本題に入る。


「今日から私は君達の一応師になるわけだが、何か質問はあるか?」


優華の問いかけに、雅彦達は少し考えてまず愛流が口を開いた。


「質問なんですが、今から貴方の修行を受けるとして、私達はどれ程強くなれるのでしょう?」


納得の質問だ。今から優華が彼らを育てたらどこまで強くなれるのか、本当に魔王を倒すことができるのか、それが聞きたいのだろう。


「そうだな、個人が魔王を倒せるくらいには育てることができる」


優華の答えに、愛流の顔は晴れない。わかっている。本当に聞きたいのは、大罪魔王に勝てるかどうかなのだろう。

優華は続きを淡々と答える。


「だが、大罪魔王は無理だろう」


優華の答えに、雅彦達は一瞬驚いた顔をして、すぐに顔を顰めた。


「なぜ、無理なのですか?」


愛流も顔を顰め理由を聞いてくる。それにまた淡々とただ事実だけを述べる。


「君達がどれだけ努力しようと、大罪魔王には勝てない。大罪魔王は普通の魔王とは次元が違う。はっきり言って人間が敵う相手ではない」


実際、彼らが大罪魔王達に勝つことはできない。

ここで魔王と大罪魔王について詳しく説明しよう。

まず人間達が魔王と呼んでいる存在は、適切に言えば魔物の王だ。人間程度の知性を持ち、進化を重ねた魔物が魔王になれる。

そして、魔王になった魔物は魔族に分類される。魔族とは魔物の性質を持った人間だ。だがこれは生まれつきなので魔王程の強さは持たない。そこで魔王だ。

魔王は生まれた土地の貴族のようなもので、その土地の魔族を守り、大罪魔王に付き従う存在。それが魔王だ。一定の知性はあるので自分より強い者に従うが、時には気性が荒い魔王誕生することがあるが、それは前の魔王の子供であることが多い。

ともかく、魔王とはそういう存在だ。

では、大罪魔王とは何か。大罪魔王とは、優華が生み出した正真正銘の魔族の王。魔族全体を束ねる魔族と世界の守護者。それが大罪魔王だ。

当然その強さは圧倒的で、優華の次くらいの強さがある。人間が戦える相手ではない。

そもそも、大罪魔王は優華が人間を虐殺した百年後くらいに創った存在のうちの一つ。世界を守護し導く存在の一つなのだ。

それがたかが人間程度で倒せてしまうのでは世界が滅ぶだろう。

ただの人間である勇者が、大罪魔王に勝つなんて万が一にもありえない。

それが理由だが、今優華がそれを話してしまうと、なぜそれを知っているか怪しまれてしまうだろう。

そうなってしまってはいろいろと面倒なので適当に言ったのだが、納得してはいない様子だ。


「なぜ、そう断言できるのですか?」


「事実だからだ。証拠に、歴代の勇者が大罪魔王を倒したという記録はない」


「それがなぜ私達が大罪魔王に勝てないという話に繋がるのですか?」


「そうです。前の勇者は関係ないんじゃないですか?」


雅彦も一緒に聞いてくるので、優華は溜息を吐きながら答える。


「勇者達は一応人間最強だ。そんな彼等が何年も戦ってきて一人も倒せなかった存在はもう人間の手に負えないだろう? 君達が勇者であったとしても人間なことには変わらない」


「だから諦めろと?」


「それはあくまで君達の自由だ。私は何も言わない」


優華の答えに、雅彦達は驚いたように目を見開く。優華からしたら、勇者などどうでもいい。大体、人間が勘違いをして魔族を攻撃しているだけで、魔族に罪はない。

そこを理解しない勇者など心底どうでもいいのだ。まぁ、説明しても聞く耳を持たない人間など絶滅しても優華は気に留めないのだが。

目の前の勇者がどれだけ高い志を持っても道半ばで倒れてしまうのは容易に想像できる。いや、実際倒れてしまうだろう。

そのことを理解した上で優華に教えを請うのであればそれに答えてあげてもいいと思う。大罪魔王達を倒すことはまずないが、悪さをする魔王を倒すことはできるようになるだろう。優華としても、愚かな魔王は死んでも問題ない。


「君達が教えを請いたいならそれに応える。だが、簡単に死ぬなよ?」


「はい、大罪魔王を倒せるくらい強くなります!」


これだけ言われたのに全く気にした様子のない雅彦に優華は少し引いた。

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