第8話魔王との再開

優華は魔族の少女を買い、引き取った。その時になぜか勇者に絡まれたがその場を収めることに成功した優華は今、魔族達が収める領土に来ていた。

理由は王都で引き取った魔族の少女を親族に送り届けるためだ。

その前に目の前が一瞬で変わってしまい困惑している少女に声を掛ける。


「急で悪いが名前を教えてくれるか?」


「あ、えっと・・・」


やはり少女は警戒している。これでは会話は難しそうだなぁと思ったが優華はふと自分の姿を思い出す。

今の優華はフードと仮面を付けているのに加え、真っ黒なローブを纏っている。これでは警戒するのも当たり前だなとようやく思い至った。

会話をするためにも優華はフードと仮面を外すことにした。そもそもこれらの物は正体を人間から隠すためにあるものだ。

だが今いるのは魔族の領土だ。魔族にならバレても支障はなさそうなのですぐさま行動する。


「うわぁ・・・」


優華の真の姿を見て少女はとても安心したようだった。今なら名前くらいは聞けそうだ。その前にまずはこちらの名前を証しておくことにした。


「まずは自己紹介だったな。私の名前は優華だ。君の名前を教えてくれるか?」


「あ、わたしのなまえはカリーナです。じゃしんゆうかさまにあえてこうえいです!」


優華は驚愕した。とてもキラキラな目をしたこの少女は、自分を知っているのだ。そこから導き出される結論は、優華の名は魔族全体に広まっていてもおかしくないということだ。

そこで優華はカリーナに少し探りを入れてみる。


「カリーナ、君はどこでその話を聞いたんだ?」


「ええと、おとうさんにききました! ゆうかさまはとてもきれいなおかただっていってました!」


どうやら父親から聞いたことらしい。やはり優華の予想通り、邪神というのは魔族からしたら当たり前なのだろう。

だが、今はそれよりも優先すべきことがある。


「そうか。ありがとう。今から君を家に送ろうと思うんだが、場所はわかるか?」


「うぅ、わたし、わからないです」


「それじゃあ仕方ない。あの子達に頼むか。それはそうとして、まずはこの鎖と首輪を外すか」


優華はカリーナの首輪に触れ、調べる。


「なるほど。この首輪には呪いがかけられてるな。発動条件は主人からの逃走や反抗か。今から外す。少し待ってくれ」


「はい!」


優華は首輪に魔力を流す。そして、発動させる。



魔術『浄化』



首輪は白い光に包まれた後、簡単に外れた。


「うわぁ・・・ありがとうございます!」


拙い言葉でお礼を言うカリーナの頭を撫で、優華は優しく言う。


「これくらいどうということはない。服もそれじゃ不便だろう。後で用意しよう」


「ありがとうございます!」


素直なカリーナに少し顔が綻ぶ。そして思う。人間も、これくらい純粋で素直だったらなぁ、と。

カリーナを連れて歩くことしばらく、割と大きな街が見えてきた。街と言っても人間の物とそう大差ない。強いて言うならば、争い事がなく、治安がとてもいい。

また、豊作続きでスラムなども存在しない。子供の全員が適切な教育を受け、就きたい職業に就ける。まさに理想というべきものだろう。

街中には魔族以外にもエルフやドワーフ、獣人などの姿も見える。他種族に対しての差別もなく、共存できている。正にこの光景こそが、本来人間のあるべき姿なのだ。

優華が辺りを見回していると、一人の男が話し掛けてきた。


「貴方様はもしや、邪神優華様であらせられますか?」


「そうだが」


「・・・ようやく、見つけました!」


男は感極まった様子で涙を流し始めた。

感極まる男に対して優華は困惑しながら質問する。


「君は?」


「申し遅れました。私は憤怒の魔王軍、参謀長のライデンと申します。邪神優華様にお会いできて光栄です」


「そうか。ところで、君は私を探していたようだが何かようか?」


「はい。実は大罪魔王様方による命令で数万年前から優華様を魔族全体が探しておりまして」


「・・・あの子達も思い切ったことをするな。何かあったのか?」


「いえ。ただ家族は一緒にいるべきだと」


「そうか」


魔王達はどうやら優華を探していたらしい。それも何万年も前から。迷惑かけたなぁ、と思いながら優華はカリーナの頭を撫でる。今はまだ、やるべきことがある。


「だが、まずはこの子を親元に届けたい」


「そちらのお子さんは?」


「この子はカリーナ。人間に奴隷にされていた子だ」


「そうなのですか!? 私どもの配慮が行き届いてないばかりに、申し訳ありません」


そう言ってカリーナに頭を下げるライデンはとても真面目なのだろう。だが、優華からしたら悪いのは人間の方だ。


「君達は悪くない。悪いのは行動に出た人間の方だ。それより、私は魔王城に行きたい。送ってくれるか?」


「拝命いたしました。今からそうかからないはずです。早くその子を親元に送って差し上げましょう」


快く従ってくれるライデンに優華は称賛を送った。

ライデンに送られることしばらくして、とてつもなく大きな城が見えてきた。これが、魔王城だ。

魔王城と聞くとどこか禍々しい城を連想するだろうが、目の前にある城は逆に綺麗すぎて輝いている。

中に入ると兵士や学者などがたくさんいて、優華が生み出した頃とは全然違う。 


「この部屋が優華様の自室になります。今から魔王様をお呼びしますので、少々お待ち下さい」


「わかった。それと少し悪いんだが、カリーナ用の服を見繕ってくれ」


「承知いたしました」


ライデンはまるで執事のように去っていった。

少しするとドタバタという音が聞こえてきた。どうやら、来たらしい。

眼の前のドアが勢いよく開かれる。開いたのは優華と同じくらいの少女だ。

クリーム色の髪を後頭部で結び、目は碧眼、色白の肌を軍服で包んだその少女は、恍惚な表情で優華を見ていた。


「スピー、久しぶりだな」


そう、眼の前の少女こそ、憤怒の魔王、スピリチュアルだ。スピリチュアルは目に涙を浮かべ、敬礼した。


「・・・お久し振りです。優華様」


震える声で、応えるスピリチュアルに優華は微笑んだ。そして勢いよく胸に飛び込んでくるスピリチュアルを優しく抱きしめる。

しばらく優華に抱きついて泣いていたスピリチュアルは今、手で顔を覆っている。なお耳は真っ赤である。


「・・・あぁ、何で私はあんなことを・・・」


ぶつぶつとつぶやくスピリチュアルに優華は要件を話す。


「スピー、今日は君にこのカリーナについて調べてほしくて来たんだ」


「は、はい、その娘ですね。私の推測からすると、その娘、カリーナは以前森ではぐれた子供だと思われます。確かその日は家族全員で森に出ていて、目を離したらいなくなっていたと家族から聞きました」


「なるほど。カリーナ、君は森ではぐれたのか?」


優華の質問にカリーナは少し俯いて答えた。


「はい。わたし、とりをおいかけてたらはぐれました。そしたら、こわいひとたちがたくさんいるところにいて・・・」


「なるほど、そうでしたか。優華様、カリーナが捕まったのはおそらく人間達の基地だと思われます。優華様もご存知のとおり、今は魔族と人間の戦いが起こっております。人間は私達の大陸に上陸しており、そこで基地を作り、私達と戦おうとしています」


「なるほど。人間達はここで基地を作っているのか。前線で戦っているのはどの魔王なんだ?」


「今前線で戦っているのは私とレミエルです。レミエルはサボっていますが・・・」


「わかった。他の魔王には私から会いに行こう」


「了解しました。・・・その、提案なんですが。私共がカリーナを送り届けてはいけないでしょうか?」


スピリチュアルの提案を受けて優華は少し悩んだ。カリーナは自分が連れてきた。なので自分が返すのが道理と優華は考えている。

なのでスピリチュアルの提案にうなずくことはできない。だが、もう少し理由なども聞いたほうがいいだろう。


「その理由は?」


「私達が送り届けたほうがカリーナの親が困惑せずに済むと思ったからです。今、優華様を知らないものは誰もいません。私達魔王が容姿、性格、強さなど諸々流しましたから」


「あれは君達のせいだったか・・・」


「はい。優華様を見つけるためにも、あれは必要でした」


「なんかすまない」


「いえ、お気になさらず。それはそうと、伝説の邪神優華様が来られたらカリーナの家族も困惑するでしょう。優華様よりは魔王軍が来たほうが助かるでしょうし」


「・・・わかった。では、カリーナは君に任せる」


「承知いたしました」


スピリチュアルの行動は早かった。すぐに部下に命令し、カリーナの家族を調べ、カリーナを送り出した。

別れるときは優華も同行し見送った。

そしてカリーナを見送った優華はギルドに帰ろうとしたが、呼び止められた。


「優華様、あの、今日はもう遅いので、その、魔王城に泊まってくれませんか?」


スピリチュアルの提案に優華は少し悩む。正直、ここに泊まる理由はない。明日も朝から仕事で忙しい。何より、あまりスピリチュアルに迷惑をかけたくない。

優華は断ろうとした。だが、そこで優華は気付いた。いや、思い出した。

スピリチュアルは昔から、自分のしたいことなどを積極的に言うことはあまりないことを。作戦などはたくさん言うが、自分の話になると他者を優先してしまう。

そんなスピリチュアルが、優華にお願いをしている。ふとスピリチュアルを見ると、不安と期待が混ざり合った顔をしていた。


「そうだな。わかった。今日は魔王城に泊まることにする」


「!・・・ありがとうございます!」


ハニカムようなスピリチュアルの笑顔に、娘には敵わないなと、優華は思った。

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