第7話神の自己紹介

雅彦達が召喚された次の日、雅彦達はまた説明を受けた。

曰く、産業系の称号を持った人は国で働き、戦闘系の称号を持った人は魔王討伐に備え特訓をするらしい。

クラスメイトの中で戦闘系の称号を持つ人は四人しかいなかった。勇者の称号を持つ雅彦、剣士の称号を持つ照真、魔法士の称号を持つ莉々奈、そして聖女の称号を持つ愛流だけだ。

他は全員産業系だったので国で働くことになっている。

雅彦達は戦闘系なので今日から特訓をするらしい。特訓の相手は今話題のAランク冒険者らしい。城の訓練場で待っていると二人の男女が入ってきた。

男の方はどこか柔い印象を受ける見た目で、腰には長剣を帯びている。女の方は少しキツイ印象を受ける見た目で、こちらは短剣を二本腰に帯びている。

男は雅彦達を目視したあと話し出した。


「お前達が勇者か。俺はドルージバだ! 今日からお前達の師匠! 腕がなるぜ!」


「調子に乗らない。そんなんじゃ、また師匠に怒られるわよ。はぁ、こんなバカでごめんね。私はリン。これからよろしくね」


それから、雅彦達の地獄の特訓が始まった。朝食を食べてすぐに城の外周十周。終わったら素振り百回。走り込み百回。腕立て伏せ百回。模擬戦五十回と、ハードすぎる訓練を毎日続けた。

ちなみにこれは男子だけの訓練で、女子は主に魔力操作などをしていた。

この訓練を考えたのは二人の師匠らしい。特訓の合間に二人の師匠について少し聞いてみたことがある。


「師匠か? あの人はすげぇ人だけど変わった人でな。普段から目立ちたくないって言ってんのに今じゃ冒険者最強なんて言われてるんだぜ。変だろ! でもものすごく強いんだ。俺やリン、他の奴と戦っても傷一つ付かずに勝つんだ。俺だって攻撃を当てたことすらない!」


「・・・化け物ですか?」


「だいたい合ってるな。ま、お前らもどっかで会うだろ!」


あの二人の師匠は常識を逸脱しているのだろう。そしてその師匠から教わった二人も十分常識を逸脱している。

この訓練からは逃れられないのかもしれない。




噂されている優華は少し苦悩していた。それは自分に伸し掛る責任についてだ。今優華は冒険者最強という地位にいる。当然期待もされるし依頼も送られてくる。それが面倒で仕方ないのだ。

なぜ優華が冒険者最強になったのかというと、情報集めに熱を注ぎ過ぎた結果だ。冒険者ランクは町への貢献度で上がる。

そして優華は冒険者ギルドで食堂を開き依頼を受けながら活動している。この行動はランクを稼ぐのにはとても効率がいい。いや、良すぎる。

気付いたらAを超えてSランクになっていたほどだ。たかだかSだろうと油断していた優華だが、ある日王都のギルドから使いを寄越された。

曰く一度王城に来てほしいとのことだった。渋々行くとそこはキチガイの根城だった。初対面の者に突っ掛かってくるSランク冒険者にはじめ、脳筋で戦闘狂の騎士団長と賢者。事実を絶対に呑まない貴族など、害悪ばっかりだった。

優華は初対面で決闘を申し込まれた。結果挑んできたSランク冒険者と騎士団長、賢者に完勝してしまったのだ。

おかげで冒険者最強という迷惑極まりない称号をもらってしまった。後で戦った連中がSランク冒険者達と知ったときは頭を抱えたことだ。

なので最近は王都に行く機会はあまりない。王都に行けばファンが詰め寄ってきて歩くことすらままならないからだ。

最悪ギルドを特定されてこのギルドにまで詰め寄ってくる可能性もある。なので最近は外出するのは依頼の時だけになってきている。

なので冒険者の間では幻影のシンと言われている。

曰く依頼の時しか現れず話しかける前に幻のように消えていくとのことだ。

ただ優華がコミュ障なのだが。

冒険者最強は大変だなぁと優華はいつものように伸びていた。するとまた扉を叩く音が聞こえてきた。だが今回は少し違う。来たか、と優華が扉を開けるとそこには神の茶会の案内役、ヤクザメイド、イリスが立っていた。


「優華様、主様がお呼びです」


(随分と遅かったな)


口に出したら怖いので言わないが普通五年も掛かるのだろうか?

疑問に思った優華だったが黙って付いていった。そして、またあの不思議な空間に出た。


「前回以来じゃな、優華よ」


親しげな声に振り向くと、そこにはキチガイ神達がいた。


「儂らは名を考えてきたぞ! それに人間達は名前と一緒に特技なども話すそうだからな。それも考えたぞ!」


「そうか。良かったな」


「まずは儂じゃ! 儂はヘラ。特技は料理じゃ!」


「次は私ですね。私はセクメトです。特技は、そうですね、あまりないのですが強いて言うなら魔術ですね」


「次は僕だね。僕の名はイツァムナー。かっこいいだろう? 特技はナンパ。優華ちゃん、この後ど・・・」


「ようし! 俺だな。俺はアレース。特技は戦闘だ。改めてよろしく」


「最後は僕だね。僕はエレボス。特技は暗殺。よろしくね」


「さぁ、これで良いじゃろ! 優華、最上位神になってもらおう。最上位神は良いぞ〜。他の神を顎で使えるし、世界の支配もし放題じゃからな!」


全員が名乗り終わったあと、ヘラという幼女はこれでもかと優華にアピールする。そして優華はそれに笑顔で答える。


「断る」


「なにーーーーー!?」


それはもう愉快な声を上げながらヘラは予想外という顔をする。だが優華からしたら当たり前で、驚く意味がわからない。


「たしかに名前を考えてこいと言ったが、最上位神になるとは言ってないだろ」


幼女を嗜めるように優華が言うと、ヘラは頬を膨らませて睨んできた。でも全く怖くないので優華はそっと見つめ返してやる。


「はぁ、わかった。今日は諦めるしかなさそうじゃ。じゃが絶対に最上位神になってもらうからな!」


「それはそうと、なぜメイドのイリスにははじめから名前があったんだ? 君達にはなかったのに」


「しっかりスルーしてくれおった! はぁ、イリスは儂の眷属じゃからじゃ。眷属には名がないと不便じゃからのぅ。人間を真似て付けたのじゃ」


「まずは自分の名前を考えてほしかったな」


優華が呆れ顔で見るとヘラはあからさまにそっぽを向いていた。

それから少し他愛もない会話をして過ごした。どうしてこんなにも遅かったのかと聞くと、これが普通だろと言われた。

どうやら時間感覚が違うらしい。優華もそんな時期があったぁとぼんやり考えていると、ふと気になることが頭の中に浮かんだ。

あまり些細なことでもないが、行く価値はある。なのでそろそろお暇することにする。


「では、私は帰ることにする」


「優華ちゃん、送ろうか?」


「いやいや、ここは俺が」


「いーや僕だよ!」


「いえ私が」


「いや儂じゃ!」


キチガイ神達が騒いでいる間に優華は門を潜り帰るのであった。

優華は帰宅するとすぐにフードと仮面を被り、呟く。


「・・・どうせなら、新しい勇者の顔を拝むとするか」




勇者は大変だ。朝からの休み無しの特訓は、本当にきつい。だが、今日は特訓は無しらしい。どうやら師匠のリンとドルージバは今日大事な用事があるらしい。

だから今日は好きにしていいとの事だ。莉々奈と愛流は城でゆっくりするらしい。照真はせっかくだからと城の探検をすると言っていた。

突然の休みに困惑していた雅彦も王都を巡っている。王都は中世ヨーロッパのような町並みで、ここが異世界なのだと実感させられる。

しばらくブラブラと歩いていると、何やら賑やかな声が聞こえてきた。気になって覗いてみると、そこには驚きの光景が広がっていた。

鎖の繋がれた首輪を付けている少女を、皆が見定めるように見ている。明らかに元の世界にはなかった光景に、雅彦は絶句してしまった。

気を取り直し耳を澄ますと周りの人の会話が聞こえた。


「あいつ、魔族か?」 「見てみて、あの角、本当に恐ろしい」 「あ、睨んだわ。怖いわねぇ」 「でも、育ったら性奴隷くらいにはなりそうだな」 「やめとけ、体が汚れる」 「これだから男は」


聞いていると耳が痛くなった。だが、状況は理解できた。どうやら少女は魔族のようだ。魔族は人間と相反する存在。だけどこのような扱いは許されるべきではない。そう思い抗議しようとしたその時、少女を買う者が現れた。

それは、仮面とフードを身に着けた真っ黒な姿の者だった。明らかに異質、そして明らかに別格の雰囲気を放っている。雅彦は心の底から恐ろしいと感じてしまった。


「私がその子を引き取る。異論はないな?」


「はい、ありがとうございます。あなたのような方に買ってもらえてこいつも幸せでしょう」


声を聞く限り恐らく男だ。そして仮面の男は少女を連れて帰ろうとしている。雅彦は仮面の男に気づかれないように後を追う。

仮面の男を見失わないように、しっかりと見張りながら。男は人気のない路地裏に入ると言った。


「出てこい。いるんだろ?」


どうやら、気付かれていたらしい。雅彦は少し緊張と警戒を持ちつつ、男の前に出る。


「何のようだ?」


男はこちらに問いかけてくる。雅彦はその問いに逆に問いを返す。


「その子に、何をする気だ? 答えようによっては、ただじゃおかない」


雅彦の問に仮面の男は驚いたのか首を傾げ、告げる。


「この子に何をしようと、私の自由だろう? 私が取引でこの子を引き取った。それが事実だ」


「でも、取引をしたところで、何をしてもいいとはならないだろう!?」


雅彦は抗議していた。声を荒げて、思い切り。けれど男に焦る様子はなく、淡々と告げていく。


「なるんだ。この国ではな。この国の法律では、奴隷を買った者に、その奴隷の権利、尊重、全てが委ねられるとある」


「それでも! どうしてその子が酷い目にあわなきゃいけないんだ!」


法律など、雅彦は知らない。けれど、目の前の小さな子供が、こんなにも大変な目にあっているのだ。それを見過ごすわけにはいかない。


「はぁ、君はなにか思い違いをしている。私がこの子に何をしても法律では許される。君が異議申し立てをする余地はどこにもない」


「でも・・・」


わかっていない雅彦に男は諭すように告げる。


「いいか? 法律は絶対だ。法律を破れば厄介な事に巻き込まれかねない。この国の法律は、守らなければならない」


正論だ。自分達の世界にも法律があったように、この世界にも、この国にも法律はある。それは守らなければならない。頭ではわかっている。だが、やはり、受け入れられない。


「はぁ、少し大人気なかったな。要はこの子が心配なんだろう? それなら安心しろ。私は今からこの子を安全なところに送り届けようとしていたところだ」


「そうなのか? てっきり、なにか酷いことをするものかと」


どうやら雅彦の勘違いだったらしい。この男は酷いことをするのではなく、保護しようとしていたのだ。

それを理解した瞬間、雅彦は赤面した。そして思い切り謝った。


「すまない! 俺の勝手な思い違いで迷惑かけてしまって」


「別にいい。私は魔族を気にかけてくれる人間がいて嬉しい。………では、またどこかで会うだろう。その時までにこの世界に馴染むといい。またな、勇者雅彦」


そう言って男は少女と共に消えてしまった。去り際に名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだろうか?

最後に少しの疑問を持って、雅彦は城に戻るのであった。

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