第101話 この思いにけじめを
「好きです。俺と付き合ってください」
俺は唯さんにそう言った
酷い緊張からか
逃げたい
俺の頭に浮かんだのはやっぱりその四文字
だけど反対に逃げちゃだめだとも聞こえる気がした
「なんで、」
唯さんから漏れたその言葉
やっぱり恋はうまくいかない
けどしっかり聞かなきゃ
先ほどとはまるで反対の勇気が何故か生まれた
さっきまでは逃げたかったのに今は聞こうとしてる
何故なのか俺にはさっぱり分からなかった
「なんで、私なの、」
唯さんは俺のことが嫌いだったのだろうか
現に今唯さんは悲しそうな顔をしている
多分振られたのだろう
「唯さん俺のこと嫌いですか」
普通は泣いたり、叫んだり、どうにか自分の心のモヤモヤを消し去ろうとするのだろうか、
さっきまでの迷いはどこかに消えたように俺はまっすぐ唯さんにそんな質問をすることができた
「どこが駄目でした?あはは、」
半ば自傷のように質問をした
人から嫌われるのは慣れている
そうだった
いや、そう思ってきた
そのほうが楽だった
親も、友達も、みんな自分のことを嫌っていると
そう思って一歩引いたところにいるのが楽だった
けれど唯さんに対しては違ったらしい
慣れていると思っていたはずのことが
今回はだめだった
唯さんに嫌われている
そう認識したとたん体から水がなくなったような感覚と頭がおかしくなりそうな感覚になる
あまり言語化できないが頭を横から強く押されているような感覚と体が芯から干からびるような
自分の中からなにか出ていくのがわかるそんな感覚
「そうじゃない、そうじゃないんだよ、」
唯さんのひどく弱くて、ひどく悲しそうな声が響いた
「えっ、」
どういうことだ?
そうじゃないとは?
わからない
俺の頭ではまるで考えることができない
俺は唯さんの答えを待つしかなかった
「私は純平くんのことが本当に好きだったの、好きで好きで仕方ないくらい」
今にも目から大粒が零れそうな唯さんの表情は俺の心にナイフを突きつけられているのかと錯覚するほど胸が痛めつけられる表情だった
「なら、なんで、」
「私じゃだめだよ、」
唯さんの言葉にはさっきの俺の自傷とは比べ物にならないほどの悲しみを感じた
「人の弱さにつけ込むようなそんな私じゃ駄目だよ、ほら優愛ちゃんは?あの子いい子じゃん」
途中から取り繕ったような笑顔になる唯さん
「嫌です」
そう断る
優愛が嫌いなわけじゃない
けど、俺が好きなのは唯さんだ
俺がきっぱりと断ると唯さんはポカポカという擬音が似合いそうな力で俺の胸を叩いてきた
「私、純平くんとお別れしなきゃいけないから今まで断ってたお見合いにも参加したのに、絶対私より優愛ちゃんのほうがいいに決まってるよ!」
さっきまでの切なさがすべて怒りに変わったようなに見えるほど唯さんの言葉は感情的になっていた
「けど、俺はお別れしたくないです」
「こんな私でもいいの?歳の差もあるし、それに私重いと思うよそれでもいいの?」
さっきまで怒っていたように見えたが
今は少し頰を赤くしている
いや、赤よりピンクのほうが近いか
「今どき年の差なんて気にするほうが少ないですよ、愛は重いぐらいがちょうどいいですし、俺はそういう唯さんを好きになったんですよ」
あとから聞いたら恥ずかしくて死にそうなセリフを吐いた
「ありがとう」
そう言ったゆいさんの目からは大粒の涙がこぼれていた
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