第100話 頑張り方
心臓の鼓動はどんどん早くなるばかりだった
運動をしたあとよりも
なにか大勢の前でしなければいけないときよりも
多分今後こんなに早く心臓が鼓動を打つことは無いんじゃないかとさえ思うほど心臓の鼓動は早くなった
「どうしたの?」
目の前にいる唯さんが心配そうにしている
唯さんの声からは悲しい雰囲気が漂っていた
大丈夫です
いつもならすぐに出るはずのその言葉が喉にストッパーがかかっているかのように出すことができない
「っ、」
言葉を出そうとしても出ない
唯さんを安心させるための一言さえも
「本当に大丈夫?」
一分ごとに唯さんの声はさらに悲しい雰囲気を増している
今、今だ、
心のなかで思ってもなかなか行動には移せないもので、それは俺も例外ではなかった
「汗かいてるよ?」
唯さんはそう言うとポケットからハンカチを出しそれで俺の汗を拭ってくれた
もう秋も終わりに近づきそろそろ冬がやってくる
外はあまり暑くないし普通だったら汗をかかないほどの気温だった
多分唯さんもなにかあることは多分わかっているだろう
「よし」
唯さんは汗を拭い終わったハンカチをポケットにしまい、不安そうな目で俺を見ていた
俺はいつもそうだった
大事なときほど一人では何もできない
頼ることも大切だとはよく言うけどそれでも俺は頼ってばかりだなと自分でも思う程だ
告白というのは絶対成功するものではない
俺は身長が高いわけでもなく、顔が良いわけでもなく、頭が良いわけでもない
多分取り柄のある人の告白時の心の中は7分の自信と3分の好奇心のように不安なんてものはなく、その後の事に思いを馳せているのだろう
けど俺は不安で不安で仕方なかった
こういう表現をすると少し良くないかもしれないけど、俺の今の希望は唯さんで、唯さんのお陰で今生きていると言っても過言ではないだろう
もし振られてしまったら俺はどうすれば良いんだろう。
「あの、」
口をゴニョゴニョ動かしやっと一言
スタートラインに立つことができた
けれど不安だ、不安で不安で仕方ない
少し前までの俺だったらここで逃げ出してしまうだろう、だけど今の俺は頑張り方を知った
教えてくれたのは目の前にいる唯さんだ
「どうしたの?ゆっくりで良いよ」
さっきまで不安そうだった唯さんの声が変わった
ずっと聞いていたいような、
いつも通りの、そんな安心する声だった、
そういえば前唯さんと夜ふかししてやったゲームも師匠を主人公が倒してたっけ、
なんて考えることができる余裕が生まれた
本当に感謝してもしきれないだろう
前に唯さんから言われたことを思い出した
「ごめんじゃなくてありがとう」
大人になったあとも絶対に忘れたくない言葉
それに習ってさっきまでの不安は一旦忘れた
いや、正確には忘れたわけじゃない、もう考えないことにした。
だって、頑張ってる人はみんな目の前のことに全力だから。
俺は心からの笑顔になり唯さんにこう言った
「好きです。俺と付き合ってください」
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