第37話 自分との戦い


「痛ってぇなぁ」


今度は裕翔が俺を壁に叩きつけた


「っが」


痛かった

痛かったけどここで逃げたらだめなまんまだ


「痛くて何も言えなくなったかwww」


裕翔が半笑いで俺をバカにしてくる


「黙れクズ」


体が痛い

授業開始のチャイムが遠くに聞こえる

喋ると余計に痛くなる

だけど伝えなきゃ自分の言葉で


「は?何?黙れだと?調子乗ってんじゃねぇよ」


次の瞬間俺は床に寝そべっていた


「ぁがっ」


痛い

泣きたい

逃げたい

なんで俺が

なんで俺が

なんで俺が

ここで逃げれば楽になれる

ここで助けを呼べば優愛は無理でも少なくとも裕翔は連れて行かれるだろう

そうしようかな、


俺は助けてもらおうと芽依さんの方を見ようとした


その時不意に


「行ってらっしゃい」


そう言って笑顔で送り出してくれた唯さんの顔が頭に浮かんだ



逃げちゃだめだろ

自分に勝つために

助けを呼んじゃだめだろ

正々堂々やるんだ

相手と同じところまで落ちるわけにはいかない

さっきは感情に任せてしまった

でも、暴力はだめだ


「なんでお前なんかが、お前もあの女と一緒だ」


裕翔はそう言って床に寝そべった俺に追い打ちをかけてくる


痛いけど

逃げたいけど

俺は暴力をしない

自分の言葉で反撃をする


「黙れクズ、唯さんはお前なんかが語っていい人じゃないんだ」


「元はといえばお前が優愛を取ったんだろ、

このクズ」


「俺はお前から優愛を取った、だから俺のことは好きなだけ殴れ、だけど唯さんのことを悪く言うな」


「わかったよ、それじゃあ気が済むまで殴ってやる」


そう言って裕翔はさらに俺を殴ってくる


痛い

結局楽な方に逃げてしまった

まだ自分のことを言葉で表すのは難しい

だけど唯さんのときだけはすぐに言葉が出てきた

その違いを考えられないくらい体が痛い



「先生、こっちです」


芽依さんの声とともに2人ぐらいの足音が聞こえる


「何やってるんだ君は」


先生はそう言い俺から裕翔を引き剥がした


「白石先生、純平くんいましたよ」


白石先生という俺の担任の名前が呼ばれる


芽依さんが俺の近くに駆け寄ってくる


「ごめんな、先生を呼びに行く前の音声は録音したんだけど、こんなことになる前に呼びに行けば」


「大丈夫です芽依さん、録音ありがとうございます」


俺がそう言うと芽依さんは俺の体を起こしてくれた

その後担任の先生が来た


「桜井、何があったかはこのあと聞く、だからまずは保健室に行こう」


「はい、」


俺は先生に肩を貸してもらい保健室に行くことになった


一方二人はというと

裕翔は体育科の先生に取り押さえられていた

起き上がったときに見た優愛は顔を青くしてただそこに立っているだけだった


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