第17話 凄腕占い師のサンロクのママ

「件名:ママには会ったか?

本文:俺だ。サンロクのママには会ったか?」


「件名:会った

本文:店に来た。仕事ってことでいいのか?」


「件名:仕事だ

本文:そうだ、仕事だ。10月23日にママをバイクに乗せてアシカリベツ大観音まで連れて行くのが仕事だ。そこでアスナミコが殺される。お前はママと一緒にその場にいてママのサポートをしてくれ。当日は俺と田島と行貞も行く」


違和感。殺される?自殺じゃないのか?それに行貞?とちょっと考えた。ああ、忍者だ。そしてメールを返した。


「件名:理由がわからない

本文:アシカリベツまで車で行くのか?じゃあ、ママもその車で送ってあげればいいんじゃね?あと、自殺するんだろ?殺されるんじゃなくて?」


「件名:ママに聞け

本文:バイクでしかダメだとよ、理由はママに聞け。とにかくアスナミコが死ぬのを防げ」


というわけで買物公園にある雑居ビルの3Fにやってきた。「サンロクのママ」の占いは激烈な人気があり、俺は若い女の列に入ってしばらくまった。待っている間、ジジイの気持ちを考えた。


60歳ほどであろうジジイの人生。ヤクザとシャブとバイクと飲食店経営をしていることしか知らないが、それだけでも相当な紆余曲折があり、鉄火場をかいくぐり、ピンチがあって、チャンスがあって、人に叩き潰されたり、逆に叩き潰したりしてきたのだと思う。だからこそ、家庭をもっている姿は想像できなかった。アスナミコの年齢からしても、40を過ぎてからの子供だろう。そりゃかわいいはずだ。アスナミコのインタビューでも「家は自由が信条」って言ってたものな。「自由にやれ」と言っておいて、田島さんを後ろからボディガードにつけていたとか・・・うん、やりかねんな。あのジジイなら。


階段を一段上がる。ニコニコした女が下りてくる。


アスナミコはジジイの仕事を知っていたのだろうか?ひょっとして、ただの飲食店をいくつかもっているグループの社長としか思っていなかったのかもしれない。いや、それはないか。田島さんともあっているだろうし、あの雰囲気の人間を見て普通のサラリーマンと思うのはムリがある。子供ならまだしも、アスナミコは高校生だ。きっとどこかで気づいたのだろう「ウチってヤバイ仕事してるんじゃない?」と。女子高校生をやりつつ、youtuberの仕事をしながら、ご当地アイドルにまでなれたのは、父親の後ろ盾があったと考えるのが普通だ。アスナミコはバカじゃない。


階段を一段上がる。ニコニコした女が下りてくる。


それにしても、なぜ、自殺を公表したのだろう。というか、あのWEBページはなんだったのだろう。アスナミコの公式HPやyoutubeチャンネルには一切自殺について触れていない。それはもちろん、自殺をほのめかしただけでチャンネルが停止したり、サーバーから公開が止められたり、そもそも警察がやってきたり、教育委員会が心配したりするだろう。


階段を一段上がる。ニコニコした女が下りてくる。


アスナミコは「命を絶つ」といい、ジジイは「殺される」と言った。この違いはなんだろう?もちろん、愛娘があんな笑顔で「死ぬ」というのだから、父親としては「洗脳されている!殺されるんだ!」と思うのは自然かもしれない。


階段を一段上がる。1人おりてくる。


洗脳。と聞いて思い浮かぶのはオウム真理教だ。俺が生まれる前の話だが、オウム=カルト宗教=洗脳というイメージがある。アスナミコが入信している永遠の塔だっけ?あれもカルト宗教なのだろうか。


階段を一段上がる。だれかがおりてくる。


洗脳の方法も聞いたことがある。たしか洗脳される人間を取り囲んで、その周りの人間がそいつを否定しまくるのだ。それを毎日やると、やられる側は心神喪失のような空っぽの状態になるらしい。そうなってから「でも、ここにいればきっといいことがあるよ!君ならできる!」と救いの手を差し伸べるというヤツだ。


階段を上がる。なにかおりてくる。


でもなあ、カルト宗教と洗脳はセットなはずで、なんで人は入信してしまうんだろう?「あ、今私洗脳されてる」って気づくだろう。普通の警戒心さえあれば、カルト宗教に入信なんてしないだろに。


階段をあがる。なにかがいる。


「心に傷のない、能天気な男だね」と目の前のママが言った。


コーン!と頭の中で何かが響いた。俺は体が動かなくなり、その場で倒れた。

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