なぜ俺は女子と教室に二人きりなのか

「言ってないよ」


「はぁ……良かった……」


うすうすそんな気はしていたが

あの絶望的なまでに恥ずかしい話はどうやら聞こえていなかったみたいだ。

だがそこで一つの疑問が浮かんだ

「(じゃあいったい絵澄はどうやって俺が考えていることを……)」


「一体どうやって俺の考えてることが分かったんだーって顔してるね」


「ああ、俺お前に自己紹介の話したっけか?」


すると絵澄は窓のほうを向いて


「いわれてないかな……」


と寂しげに一言

まるでそれは

男が辛い思いをしていたのが彼女にばれてしまった時のようで

なんでそんな辛い思いをしていたのに言ってくれなかったの

と泣きながら聞いてくるような

そんな『私あなたの彼女ですけど』ムーブを感じた

これは萌える


「いや……言わなくてもいいかなって。

高校入ってからほとんど喋らなくなったし、クラス違うし」


「それでも!言いに来なさいよね!」


彼女は力強くそう言って

少し照れながらも


「一応あんたの幼馴染だし……

何か辛いことがあったら少しでも力になれるかなって」


「絵澄……」


こんなにもテンプレ通りのツンデレが世の中にはいるのだなぁと

感心してしまった

本人には言わないけどね絶対

明日には存在消されちゃうもん


「とは言っても……あんたほんとに友達いないのね。

自己紹介の話なら学年じゃ知らない人いないわよ」


「はい?」


今こいつなんて言った?

まっっっっっさか学年じゃ知らない人はいない

とか言ってないよな

そんなことになってたら僕死んじゃう

死因 恥ずか死

とか嫌なんだけど

そんな俺にかまわず絵澄は言う


「あんたが自己紹介であつーいあつーいオタトークをしたって話はだれでもしってるわよ。

あとあんたとは長年の付き合いだから顔見れば考えてることは大体分かる」    


「あっ……やめて黒歴史を掘り返さないで……」


「でもあんた全然いじめられてる感じもしないし元気そうだし安心した」


「悪い悪い心配かけちゃったな。今度この恋の新刊貸すよ」


「ん、サンキューまだ新刊変えてなかったから助かる」


ここで捕捉

この恋とは『この恋が叶うのならば……』のことである

正統派学園ラブコメラノベで主人公栢野土岐かやのとき

様々な女の子から好意を抱かれていく話である

また言葉の使い方や世のオタク共に刺さるシチュエーションなどから

とても人気な作品である

もう一つ補足だが

絵澄もオタクである

こいつとはラノベの感想の言い合い新作アニメの同時視聴

ギャルゲーの貸し借りなど色々やってきた

傍から見たら付き合っているように見えるが

全然そういうのではない

オタクというのはそういう生き物なのだ

好きなものが同じなら語り合うそういうもの


「あんたこの恋には感謝しなさいよー病んでた時に救われたんだからさ」


「分かってる。新刊出るたび特装版通常版合わせて二冊ずつ買ってる」


もちろん保存用三冊読む用一冊


「あれ、あんたが小説書き始めるきっかけになったのも

この恋のおかげだっけか?」


俺は最近あまり手が進んでいないことを思い出し

それを隠すように少し口ごもりながらも


「そうだよ」


といったのだが

やはり絵澄の目はごまかせなかった


「どーせ行き詰ってるんでしょ」


「うっ……痛いとこついてくるなぁ……絵澄さんは」


マジで一文字も進んでない

どれもこれも俺のせいだ入学と同時に自己紹介でやらかし理想の学園生活が送れなくなった俺のせい

女の子から話しかけられていい展開になるどころか白い目で見られる

かなし

俺のラノベ作家になる夢はここで終わってしまうのかと

本気で思っていた

高校に入るまでは自分がラノベ作家になったところを想像して

たくさん案も思いついて

こんなシチュエーションはどうかな?とか

こういう表現はどうかなってぽんぽん重いついたのに

今は頭が全く回らない

結構軽いことのように思えるが俺にとっては重大なことなのだ

今までスランプというものを経験してこなかった俺からしたら

どう抜けたらいいのかもわからない雲の中をひたすらかき分けている

そんな状況がずっとつずいている

せめて何かきっかけがあれば……


「夕暮れの教室で二人きり……今まで生きてきた中でこんなにも緊張したことは  なっただろう」


「彼女は夕日に照らされ頬か赤く染まっていた。鼓動が鳴りやまない。大事なとこ    ろで噛んでしまいそうな気がする。でも、ここで言わなければ……僕は……僕は、一生後悔するだろう」


「だから」


「大好きです……そう一言。彼女に向けて心を込めて言った。

 この恋の告白シーンだよな?絵澄」


「うん。そう。ほんとあそこまで長かったわよね」


「でもそのじれったさがいいんだよ!!過程が大事なんだ!過程が!」


「はいはい。わかったわかった。

それにしても……ここのシーン本当にいいよね

情景がすぐに思い浮かぶ」


「すごいよな……技量というかなんというか……実際に自分がそこにるような感 

覚に陥るっていうか」


「私もそんな感じだった」


「俺もこういう体験ができたらなぁ……」


と本音を漏らす

誰一人俺に付き合ってくれる人なんていn


「私が手伝ってあげよっか?」


「は?」


あまりにも衝撃的な一言に固まってしまった


「だから、私があんたのネタ探し?手伝ってあげよっかって」


「えっと……それはどういう……」


「あんたの思い描くシチュエーションを再現する……とか?」


その言葉を聞いた瞬間俺は生まれて初めて頭を地面につけた

このチャンスを逃したら俺の夢はかなわないと

ゴミみたいな人生を送ることになると

そう思った

そして


「よろしく……お願いします」


と誠心誠意心を込めていった













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妄想オタクは(3次元で)恋をするっ! 奏羽 @kanau_

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