4.
バルバスとラルラーを乗せた橇は、ひとまず
ラシエンは硬い表情で一行を見ていた。
「それで……
「彼を知ったが、彼は秘密を守るだろう」 « Sorkhoch'f voi, ó el'golvoch'f Firérna vík. »
バルバスの答えに、
ラルラーは橇から降りてすぐバランスを崩した。お尻がじわじわする。
ラシエンが歩み寄り、彼のそばに膝をついた。
「大丈夫か?」 « Artz urot gariir? »
「うん」 « Lá. »
ラルラーは二人の目の高さが同じということに気づき、数日前に覚えたキスをラシエンの頬にやってみた。
ラシエンは目を瞠り、ぴくりとしてラルラーから離れた
ラルラーは首を傾げた。
「嫌だった?」 « Artz parot nartze kía? »
「……」 « …… »
ラシエンは首を振り、立ち上がってラルラーと手を繋いだ。
バルバスは愛馬との別れを惜しんでおり、一連の出来事に気づいていなかった。
結局、バルバスはコマーズから外套を借りたままだったのもありディーリニに一乗りしてから戻ることにしたため、ラルラーはラシエンと
ラシエンはかなりゆっくりと
「
「元気。歌が上手」 « Urof etaliir. Ó Réya gariir. »
「そうか……」 « Ná…… »
「バルバス、火を吹いたよ」 « Bárbath dj'fulof Gerói. »
「……そんなことができたのか」 « Sorkhoch' nartze girnof gartz. »
「あのね、
「そうか」 « Hmm. »
「オロシュが美味しかった」 « Ofhoš dj'afúlof kumeriir. »
「オロシュ?」 « Orhoš? »
「
特に脈絡なく話すラルラーに、ラシエンは淡々と相槌を打っていた。
「ラシエンは、元いたところに友だちはいるの?」 « Artz kadrof Tfároi, hérkár dj'uroch't?
「かつては……今はいない」 « Dj'kadroch'…… nartze udjer. »
「みんな?」« Nosk'eri urof nartze? »
「ああ」 « Lá »
「みんな?死んだの?」 « Nosk'eri? Dj'arðoch'f? »
「死んだ者もいる……」 « Flig sea vie, lá…… »
なんとなく聞いても教えてくれなさそうな雰囲気を感じたラルラーはそれ以上の問いかけをやめた。それから、友だちがいないラシエンはともかくバルバスはどうして仲間のもとを離れたのだろう、と思った。
その時。
「おお!!それが
馴染みのない声にラルラーがびっくりしていると、なんだか奇妙な人が現れた。いや、きちんとあつらえられた旅人の服装をした壮年の見た目はさして奇妙ではなかったが、何やら形容しがたいオーラを放っている。
ラシエンが少し顔を顰めた。
「静かに……この生き物はとても神経質だ」 « Urte Dilim…… Ki urof lor kain djaniir. »
「おお、すまん」 « A'y, el'ronanó. »
ラルラーはこの人物が、彼が
「帰ったわけじゃなかったんだね」 « Lor, dj'aiganoch'f nartze. »
「ああ……」 « Lá…… »
ラシエンは本当は
その人はラルラーに手を差し出した。
「君が例の子どもだな!私はレイレ・セア=ネーメル・セン=ケールメジシャ(水の生まれ、狐の丘の)、生物学者だ」 « Té yezartz urót kér Koll! Uró Léire sea-Némér sen-Kérmezísia, Nátzaleya Šaborimea. »
「
レイレはラルラーと握手しながら、既に
「そう──ラシエン、さっそくこの生き物に乗ってみてもいいかね?」 «Lá — ló, garz el'arkó Lúkia, Rašien? »
「ああ、だが──」 «La, ev— »
すると、当然というべきか、それが気に障った
レイレは五クリシュ(約5.4m)ほど吹っ飛び、明らかに何らかの
ラルラーは目を丸くし、ラシエンを見上げたが、彼はやや迷惑そうな顔をしてレイレを眺めているだけだった。
「いてて……」 « Ó g'óš…… »
レイレは呻きながら上半身を起こし、身震いした……それで折れたり外れたりした骨はあらかた正しい位置に戻ったようだ。服は少し赤く染まっていたが、もう血は止まっているらしい。つまり、彼はかなり強い治癒の祝福を持っているようだ。
ラシエンが言った。
「だから
「すまんすまん、つい興奮してしまって。しかしこれでもう嫌われてしまったな?残念だ」 « El'ronanó, uróf Sèfer rúma. Ev'i yezartz yeveróch'f eói, ná? Háš módriir. »
レイレは土埃を払い、血痕を見て「やれやれ ( Ná-'a…… ) 」と呟いた。
後から聞いたところによると、彼は学問都市アリトゥリの研究者で、
「
ラルラーが尋ねると、ラシエンは答えた。
「……そんなはずはないと思うが」 « ……Urof n'ezartze. »
ラルラーの《
「言葉の神グロサーラよ、かの者に数多の語彙を与えたまえ……」 « Glosárha, ramontó via Glósoroi malii…… »
「癒しの神コマスよ、かの者に毀たれぬ肉体を与えたまえ……」 « Komas, ramontó via Ankoi neglinúsa…… »
「農耕の神ダナハよ、かの者に豊かな種を与えたまえ……」 «Danakha, ramontó via Lilmérna feganii…… »
「知略の神ロローサよ、かの者に出来事を見通す目を与えたまえ……」 « Lorósa, ramontó via Aronwi kér aynü meyanoi……
「狩の神ヴォヤよ、かの者に優れた手腕を与えたまえ……」 « Voyya, ramontó via Saverna it'khee…… »
「幾何の神ニヴォーよ、かの者に美しき神秘を教えたまえ……」 « Nivó, šatontó via Grunoi lionii…… »
「発明の神ダウケマよ、かの者に未知の閃きをもたらしたまえ……」 « Dáukema, véselontó via Vendim nesorkhiir…… »
「音楽の神レイダよ、かの者に途切れぬ歌を与えたまえ……」 « Réida, ramontó via Réimoi nadjimak…… »
「家屋の神セーよ、かの者に破られぬ守りを与えたまえ……」 « Thé, ramontó via Hanamói negwinúsa…… »
「諧謔の神アオイよ、かの者に喜びをもたらしたまえ……」 « Aói, veselontó via Finói…… »
本来は、それぞれの
レイレは漬けこまれた
彼が連れている生き物は
ソルハから許可が降りたため、ラルラーは生物学者と一緒に
レイレはラルラーが集めているものにも興味を示し、いくつかの
「これでなにが買えるの?」 « Háš gartz petlo oés kíe? »
ラルラーが尋ねると、ソルハは答えた。
「まあ、二週間は食うに困らないでしょうね」 « Ná, síonof gartze meya éše-Vänkio. »
ラルラーは感心して銀貨を眺めた。中央には穴が空いており、淵には三角の溝が彫られている。刻印されているのは
「あなたがここを出る時に役に立つでしょう。ちゃんとしまっておきなさい」 « El'drídof hét el'rorof érha. Harimte krwi rásen. »
ソルハの忠告通り、ラルラーはそれを箱にしまった。
生物学者レイレは一年ほど
別れ際、ラルラーは拾った
「君がいつかアリトゥリに来ることがあれば、ぜひ私を訪ねたまえ!」 « Het el'turelof hár Arituria, el'anrakof eia! »
レイレは
彼と入れ替わるように、ニスミレが
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