入学 03

「それではこれから入学試験を受けてもらいます」


「え? 試験なんてあるのか?」


 既に入学が決まったと思っていた俺にはまさに寝耳に水……リリアも知らない様子だった。


「はい、正直、☆5冒険者の方にはあまり意味が無いレベルの実技試験なのですが、基本的には力不足の王族をふるいにかける意味合いが大きいです。このルールが出来たのはここ最近なので知らない方も多いようです」


 なるほど王族と言うだけで入学資格があるから、無能な人間を学院に入れないための措置か。


「これから失われた中央ロストセントラルへ入るためのパスを仮発行しますので、それを使って試験用ダンジョンの最奥まで到達して下さい」


「全員で行って良いのか?」


「ダンジョンエリアによって入場人数制限が決まっています。今回の試験ダンジョンは合計6人となりますので、上手く人数を分けて入場して下さい」


 受付嬢は説明が終わるとパスを取りに行ってくると一旦離れていった。俺達はパーティー分けをする事にしたのだが、その時ネジコが……


『ダーリン、面白い話が聞けるニョ……今再生するニョ』


 ……と、とある音声ファイルを再生してくる。


『試験用のパスを入れ替える……あぁ、上級クラスが探索している最深部のパスを渡すんだ……この不幸な事故により哀れなワレワールの姫は行方不明となる……心配いらん、生体認証データーでパスのデータが書き換わる……だから、しっかり頼んだぞ』


 なるおど、早速仕掛けてくるか、あの……えーと、名前忘れたけどファーガスのおっさんは。だが、いきなり最深部を探索出来るのは悪くないな、せっかくだからリリアを含めて最強PTで探索してみるか。


 俺はリリアにそっと事情を告げると……


「それは面白そうじゃの!! 賛成じゃぞ、ファーガスの阿呆どもの度肝を抜いてくれるわ!!」


 ……と、大賛成してくれた。


 メンバーは俺、リリア、フレーナ、カムチャパ、マリチャパで行こうとしたのだが……


「私も行きます!! 姫様のお側を離れるなどあり得ません!!」


 ……と、エイシャも一緒に加わった。


 まぁ、エイシャもリリアと合流後に地獄のパワーレベリングを済ませているから問題は無いだろう。

 他のメンバーには骨伝導フォン経由で俺達だけ深層部探索になるので、きっと遅くなるが心配するなと伝えておいた。


「お待たせしました、それでは失われた中央ロストセントラルへ案内します」


 しばらくして大きな鞄を持った受付嬢がやってくると俺達を先導して歩き始めた。目的地までは大分距離があるようだが、自動遊歩道のような通路のお陰でそこまで歩かずにたどり着けるようだ。


「凄いぞあるじ!! 歩かなくても勝手に動くぞ!!」


「ボクらの乗ってきたバスの方が凄いんだけどね」


「オラもそう思った」


「あちしも~」


 移動中も大はしゃぎのマリチャパ……他の新たに合流したメンバー達も仲良くやれているようだ。

 やがて俺達は目的地へ辿り着いた。そこには見覚えのあるものが見えた。


「ん、これは……」


「イクシアゲート……に見えるね?」


「なんじゃ? 知っておるのか?」


「リリアがワレワールの遺跡からアンドの遺跡に飛んだゲートみたいなものだよ」


「おお、言われてみれば似ておるの……つまり、ここから失われた中央ロストセントラル内部に飛ぶという事かの?」


「よくご存じですね、ここは失われた中央ロストセントラル内で見つかった超遺物アーティファクトです。本来なら目的地まで歩くとかなりの距離なのですが、このゲートが見つかったお陰で探索に掛かる時間がかなり短縮されました」


 昔は毎回入り口から目的地まで徒歩で移動だったようで、長い時間をかけて探索する必要があったらしい。


「今はさして苦労もせず最高到達点からの探索が出来ます。先人に感謝してこの超遺物アーティファクトを使って下さい」


 話が終わると、ゲートのパスと思われるカード……というか、シールのようなものが配られた。身体の邪魔にならない所に貼り付ければゲートが使えると言う事だ。

 肌の露出している場所に貼れ、という事で各々が適当な場所にシールを貼り付けた。


「パーティーごとにバラバラの場所に転送されますので、最奥のゲートを潜ってここへ戻ってきて下さい……それではご武運をお祈りしています」


 早速、パーティーを組んだ俺達はゲートの上に歩き出した。


『IDを確認、所定の場所に転送します』


 ゲートから機械音声が流れる……どう聞いても俺達のいる世界の言葉だよな。ある程度、翻訳して内容を把握しているかも知れない受付嬢はともかく、他のメンバーは首をかしげている。

 床から光があふれ出すと視界が真っ白になって何も見えなくなる。




 気がつくと機械的な壁面が見える建物の中に転送されていた……ふと、腕に柔らかくあたたかい感触を感じる。


「あーーーーーっっ!! どさくさ紛れに腕組んで!!」


 フレーナが指を指した先には俺の右腕に組み付いているリリアがいた。いや、気付いていたけど、あえて止める理由を思いつかなかったんだ、うん。


「す、すまんの……ちょっと驚いてしまったのじゃ」


「謝 る 前 に は な れ る ! !」


 フレーナに引っ張られたリリアは名残惜しそうな顔をして腕を放した。俺も名残惜しいなんてちょっとしか思っていないぞ。


 そんな事を思っていると、今度は両腕に柔らかくあたたかい感触を感じた。


「ぬわーーーっ、人に注意をしておいて其方らこそ狡いぞ!!」


 俺の両腕に組み付いたフレーナとマリチャパを見て怒り出すリリア。


「駄目だよ、ボクはエイジの恋人だからこうする権利があるもん……リリアは違うから駄目だよ」


「マリチャパも平和的な平等を好むと村で噂」


「ずるいのじゃ~ずるいのじゃ~!!」


「姫様、いい加減にして下さい、ここは既に失われた中央ロストセントラルの内部ですよ!!」


 騒いでいるとエイシャに怒られた……確かに緊張感が足りなかったな。


 とはいえ、既にネジコがインセクト型のドローンを索敵に向かわせているので、危険があればすぐに分かるのだが。


「さて、一応、最深部と言う事だ、ちゃんと装備を整えておくんだ」


「「「はーい」」」




 準備を整えた俺達は早速探索を開始した。


 ダンジョンの天井には薄ら照明が灯っていて、明るすぎず暗すぎずの状態を保っていた。壁や床の材質は何かの金属……というか合金のようで、ネジコが興味津々だ。


 ダンジョンはかなり広いようで真っ直ぐの通路が続いている。探索データも更新されているが、特に敵も発見されずにしばらくはこのまま進むだけのようだ。


「何にも無いのぅ」


「ちゃんと索敵はしているが敵はいないし、通路はまだまだ真っ直ぐ続くようだぞ」


「いつも思いますが、その索敵能力はいったいどういう魔法なんですか?」


「うーん、説明するのが難しいんだよな……簡単に言えば索敵と探索を兼ねた超遺物アーティファクトを使っている」


「また超遺物アーティファクト……外の大陸にはそれ程の数があるというのですか」


 説明するの面倒くさいから、困ったときはいつも超遺物アーティファクトで誤魔化している。まぁ、この星の人間にとって俺達の技術はまさにソレだから問題ないだろう。


『ダーリン、突き当たりに大きな扉があったニョ。ゲームで言うとボスルームの扉っぽいニョ』


「(なるほど、探索の末にボスの部屋らしき場所が見つかったから、そこで引き返した場所って感じか)」


 俺はネジコの報告の内容を簡単に説明をした。


「大丈夫でしょうか……最深部と言う事は、かなりの強敵の可能性がありますよ」


「多分、問題ないと思うけどな。最悪な場合はEXTイクスト使うという手があるしな」


「そうそう、部屋が狭くてもパワードスーツもあるし大丈夫だと思うよ」


あるじがいれば何も怖くないぞ」


「オラも負けないぞ」


「あちしも~」


「うむ、精霊もおるようじゃし、何とかなるじゃろう」


 レイドガーディアン組である俺とフレーナは巨大なボスと戦う事には慣れているのでそこまで心配していない。ムカチャパ組は……あまり考えていなさそうだ。リリアも俺達と一緒にいた時間の長さか自分の実力にも自信を持っている。


「そうですか、皆様がそう仰るのなら私は何も言う事はございません……命に代えても姫様を御守りするまでです」


「エイシャは相変わらず心配性じゃの~」


 リリアが脳天気すぎるという気がするが言わないでおこう。そんな事を話しているうちに突き当たりの扉の前に辿り着いた。


「おお、本当に扉じゃ……しかも大きいぞ。確かに大物が待ち構えていそうじゃの」


「ただならぬ気配を感じます……やはり油断は出来ません」


「じっくりと心構えをしてくれ……全員の準備が出来たら行こう」


 各々が装備や技の確認を始めている。俺もDSから二丁拳銃ケルベロスを取り出しておく。

 全員が準備を終えて、その視線がぶつかり合うとコクリと頷く。




「さ、いわゆる前哨戦だ……行ってみようか」 




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