入学 04

 扉はかなり大きい……もしかしたら戦操兵ウォーレムで戦う前提のボスなのかもしれないな。


 それどころかレイドボスのようなアライアンスを組んだパーティーでの戦い前提なのか? 今のとこと俺が用意しているEXTイクストは2体だ。アンドの街救出の時に使ったフェイタルエッジと練習用のデイウォーカー。

 以前ファーガスの最新型と言っていたヴォルケンだったっけ? の性能から考えれば汎用型EXTイクストの方がまだまだ性能は上だろう……ならば実践練習だな。


「よし、おそらく敵には戦操兵ウォーレムが出る可能性が高い。さすがにフェイタルエッジだとピーキーすぎるから、いつものデイウォーカーで実践練習するぞ」


「まさか、深層部のボスを相手に実践練習などと言い出すとは……いえ、エイジ殿の事ですから深く考えたらいけませんね」


 どういう意味だよ……まぁいい、場所を作ってもらって俺の乗るフェイタルエッジとデイウォーカーをDSから取り出した。


「俺は万が一のためにフォローするから順番に戦っていくぞ……まずはリリアだな」


「うむ、妾に任せておくがよい」


 ふんすっと息荒くデイウォーカーに乗り込んでいくリリア。俺はフェイタルエッジに乗り込んでEXTイクストを起動する。


「準備ができ次第ボスに挑戦だ……もしも、小型の雑魚がいたら他のメンバーで対処だ。予想では雑魚は数で攻めてくるだろう。範囲攻撃で一気に殲滅でいいだろう」


「わかったよエイジ。範囲攻撃ならボクの得意だしね」


「マリチャパも炎の魔法で沢山攻撃するぞ」


「それなら近づいてくる敵はオラが魔法で足止めするぞ」


「あちしも~」


「私も広範囲の攻撃を精霊に願いましょう」


 よし、大雑把に作戦決定……あとはぶっつけ本番だな。それじゃ行くぜ。


 全員が扉の前に立つと機械音と共にゆっくりと左右に開いて行く。デイウォーカーを先頭に全員で扉を潜って行く。扉の奥は広い部屋となっており、いかにもボスがいますよと言う雰囲気がある。


 部屋の中央あたりから両端に剣を構えている甲冑騎士のようなオブジェがズラーッと奥まで並んでいる。

 そして中央奥には巨人……重装甲タイプの戦操兵ウォーレムが立っていた。両手には凶悪なメイス。両肩には身体の半身を守れる大きさのシールド。背中には身長の二倍ほどの槍を装備している。


「攻防共に得意なタイプっぽいな。見た目通り動きは速く無さそうだから、そこを気を付けて戦うように」


『わかったのじゃ』


 デイウォーカーに登場したリリアから返事があると、最中に折りたたまれたバックパックがマントのように身体を包み込み、再び元に戻る……そしてその両手には細身の剣レイピアとシールドが装備されていた。


 名前の由来になっているドラキュラのマントのような状態になるバックパックで装備を換装する仕様、これで色々な場面に対応出来るEXTイクストというのが最大の特徴となっている。


 ボスの戦操兵ウォーレムが起動するとフェイスガードの隙間から単眼の光が漏れる……それを合図に壁際に待機していた騎士達が動き出した。


 騎士達はリーダーである戦操兵ウォーレムとリリアの乗るEXTイクストの戦いを邪魔しないつもりなのか、中央のスペースを空けたまま両サイドからこちらに隊列を組みながら進行してくる。


『よし、妾が一気に倒してやるのじゃ』


 ……と、意気込んでいるのは良いのだがその歩き方はぎこちない。ゆっくりと一歩一歩踏みしめるように歩いて行く。

 リリアには最初からマニュアルモードで操縦を覚えさせている。マニュアル操作が基本の戦操兵ウォーレムが存在する世界でオートモードなんて楽を先に覚えてしまっても良い事が無いからだ。


 まぁ、危なくなればすぐにフォローすれば大丈夫だろう……何事も経験だ。


 生身の白兵戦組はどうやら二手に分かれて戦うようだ。左側に前衛エイシャ、後衛フレーナ。右側に前衛カムチャパ、後衛アナチャパでそれぞれ左右で敵を迎え撃つつもりのようだ。

 マリチャパはリリアの次にEXTイクストに乗ってもらう為に俺の側に待機している。


「私の横を通れると思わないで下さい」


「頼もしいね~ボクも頑張らなきゃ」


「敵がいっぱいだな、なんだかオラわくわくしてきたぞ」


「あちしも~」


 士気は上々、みんなやる気だ。そしてしばらくは俺の出番は無さそうだな。


 すると中央で大きな衝突音が聞こえた。リリアのEXTイクスト戦操兵ウォーレムの側面に回り込んでレイピアで攻撃するが、腕に装着されている盾で防がれている。

 戦操兵ウォーレムはそのまま身体を捻るようにしてメイスをEXTイクストに繰り出した。


「ぬわーっ!! 危ないのじゃ!!」


 EXTイクストが大きくバックステップしてメイスを回避する。しかし息をつく暇も無く戦操兵ウォーレムは間合いを詰めて両手のメイスを振り回してくる。

 移動速度は遅いものの、メイスを振る速度はなかなかのもので、リリアも攻撃の隙を見つける事が出来ない。


「姫様!!」


 その様子に気を散らすエイシャ。騎士の攻撃はしっかり回避しているものの、イマイチ戦いに集中出来ていないようだ。


「エイシャ、リリアは大丈夫だ……俺を信用しろ。むしろお前がそんなだとリリアの方が心配するぞ」


「くっ、申し訳ありません」


 エイシャの動きがマシになってきた。そのタイミングでフレーナの準備が完了したようだ。


「いくよ~、インフェルノレーザー」


 エイシャの対峙している騎士のやや離れた位置に赤い炎が出現する。その刹那、部屋の奥に向かって赤い線がほとばしると壁に並んでいる騎士を一気に貫き消し炭にしていった。


「な、なんて威力!? これでは私の力など……」


「この魔法はかな~り時間が掛かるから、前衛の人には頑張って貰わないと使えないんだよ~」


「わかりました!」


 エイシャはその言葉に応えるように迫ってくる騎士の残党を翻弄する。騎士の剣を躱したと思ったら次の瞬間には背後に回り込んで鎧の隙間にダガーを差し込む。すると糸が切れた人形のように騎士は地面に倒れてゆく。


 続いて反対側からゴオオッと風の唸る音が聞こえた。アナチャパが使った竜巻の魔法だ。そしてムカチャパがそこに土の魔法で作った岩を放り込んでゆく……切り裂く風にとんでもない速度で飛んでくる岩の合成魔法に騎士達は為す術もなく倒れて行く。

 

「さて、両サイドは問題無さそうだな……リリアはどうだ?」


『狡いのじゃ、ずっと守ってばっかりで!!』


 どうやら亀のように守りを固める戦操兵ウォーレムに苦戦しているようだ。まぁ、チョイスした武器も重装甲の相手向きじゃ無いからな。


「リリア、回避に専念して、ここぞと言う時に攻撃しろ」


『わかったのじゃ』


 俺のアドバイスを聞きそれに習って回避に専念するリリア。少し危なっかしいが、デイウォーカーの速さなら敵のメイスを回避するのも難しくない。


 そしてチャンスがやって来る……戦操兵ウォーレムがしびれを切らせて両腕のメイスを同時に振り下ろしてきた。その隙を見逃さず、リリアは最低限の後退で2本のメイスを回避し、すぐにレイピアで敵の顔を突く……その切っ先は見事にフェイスガードの隙間を通し敵の目を貫いた!!


「よし、リリアそこまでだ……選手交代」


『なんじゃと!? ここからが良い所なんじゃぞ!!』


 俺はフェイタルエッジを背中から放出。出力を絞った空飛ぶ刃は戦操兵ウォーレムに向かうと肩、足、胴体などに次々と攻撃を当てていく。戦操兵ウォーレムはよろけながら徐々に後退していった。


 その間に後ろへ下がったEXTイクストのパイロットを交代させる。


『次はマリチャパの出番……どんな事でもそつなくこなすと村で噂』


 マリチャパの乗ったデイウォーカーがバックパックマントひるがえしたかと思うと槍を振り回して戦操兵ウォーレムへ向かって走って行く……相手も背中の槍を手に取るとマリチャパを迎え撃つように構えた。



 ……こうして実践形式の練習を全員分実行したのだった。



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 デイウォーカーの持つ両手のダガーが敵戦操兵ウォーレムの首を両断した……しかしその姿はズタボロで動きを止めたのが首を失ったせいなのか、ダメージで限界が来たのか判断が難しそうだ……うーん、敵ながら哀れだな。


『まさか、失われた中央ロストセントラルの深層部のボス相手に実践練習なんて……非常識すぎます』


 EXTイクストに搭乗して、ラストのとどめを刺したエイシャは一連の行動をまるで夢でも見ているような気持ちで感想を述べた。


「お疲れ様だな……実践を経験しておけば怖いものはないさ」


「妾がとどめを刺したかったのぅ」


「まぁ、練習だからね。そのうち嫌でもEXTイクストで戦う事になると思うよ」


 ちなみにフレーナは慣れているので実践練習はしなかった。ちなみに俺は状態の良い敵の騎士……中身は自動人形 オートマタのようだ……をDSに回収している。傷は酷いが戦操兵ウォーレムも貴重なパーツとなるのでもちろん回収する。


あるじ、奥の扉の色が変わったぞ」


 マリチャパの言葉を聞いて俺は奥の扉を見ると、先程まで扉のランプが赤色に光っていた所が緑色に変わっていた……多分、ロックが解除されたんだよな?


「よし、一休みしたら行ってみよう」




 ……どうやら俺達の入学試験が終わりに近づいてきたようだ。




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ストックを使い切りました。ここから週1~2回ほどの更新になると思います。


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