潜入 04

『ダーリン、ハイな気分の所を悪いけどリミッター解除して無理矢理動かしているせいで、残りの稼働時間は5分切ってるニョ。イクシア残量じゃなくて機械的に疲労しすぎて動けなくなるニョ』


「残り5分で5機を倒せだと……そんな……」


 ……楽勝だな。


 その間にもフックショットを巻き取り始めている……あ、戻ってきたフックに剣が付いてない。外れちゃったか?


『い、今だ! 敵は丸腰だ!!』『うおおっっ!!!』『よくも仲間を!!』


 こちらが丸腰だと分かった途端に一気に3機が剣を抜いて距離を詰めてくる……素早い判断自体は悪くないが迂闊だ。


 そのまま目の前の袈裟切りされた戦操兵ウォーレムの腰の剣を抜くと……それは死角になっているから見えない……再びフックにセットする。


 今度は砲丸投げのように円を描くように回転しながらフックショットを発射するとタイミングを合わせて薙ぎ払った。


 一番前を走っていた戦操兵ウォーレムの上半身と下半身が泣き別れになった……そのまま上半身を置いて下半身がしばらく走っていたが、やがて膝を着いて倒れる。


『なんだ!! 一体何が起こってるんだ!!』『うおおおっ!! コレは夢だ!!』


 今更、止まる事も戻る事も出来ずそのまま走り続ける2機。今度は戻ってきたフックの先には剣は付いていた……それを右手に装備するとそのまま2機を迎え撃つ。


 手前の戦操兵ウォーレムが下から剣を切り上げる……多分、こちらの剣を切り上げて隙を作り、後ろの2機目が攻撃という所か?

 だが甘い、甘すぎるぜ! お前らこっちの素早さを見ているだろう、先に攻撃したら負けだと分からないのか!?


 敵が剣を振り上げる前に俺の加速したショルダータックルがヒットする。タックルを受けて後ろによろめいた1機目は、そのまま2機目の進路に被さるようにぶつかってしまう。


 次の瞬間には俺の戦操兵ウォーレムから放たれた剣が2機の腹を同時に貫いた。

そして剣を抜くと残りの2機の方を確認する。


『ゴヴェイ様、ここは私が食い止めます、お逃げ下さい!!』


『う、うむ、頼んだぞ』


 ゴヴェイの乗る豪華な戦操兵ウォーレムは背中を見せて逃げ出すと、足止めを買って出た戦操兵ウォーレムはその場で剣を抜いて待ち構えている。


 自分より早い相手にカウンター狙いなので少しは賢いようだ……だが、馬鹿正直に敵が突っ込んでくるとは限らないぜ。


 俺はフックショットを発射するとその可能性を考慮したのか最低限の動きで回避する。だが、そのフックは敵やや後方で止まると急速に引き戻される。

 俺は腕を左に振りながら調節すると戻ってくるフックは敵の剣を見事に引っかけた。予測もしなかった後ろからの攻撃に思わず剣を離してしまう敵の戦操兵ウォーレム。俺は相手の剣と一緒に戻ってきたフックからそれを空中で外し器用に掴み直すと、二刀流でそのまま敵にダッシュ。


 相手は自分もフックショットを撃つか防御するか一瞬だけ躊躇して、最後には両手をクロスさせて防御をする。


『それは不正解だ』


 俺の二刀の剣は敵の両腕、両足を切り落とした。


『無茶な可動のせいで残り1分切っているニョ』


 可動限界の時間が計算より短くなっている……だが、問題ない。


 そのまま両手の剣を振りかぶると前方でマントを靡かせながら背を向け走っている指揮官戦操兵ウォーレムに向かって投げ放つ。

 二本の剣は風を切り裂きながら飛んで行き、見事両足の脹ら脛ふくらはぎから地面に貫通して突き刺さり、大きな地響きをあげながら転倒していった。


 そして、止めとばかりに俺の戦操兵ウォーレムはダッシュの後に飛び上がると、敵の背中に馬乗りするように着地する。


『残り稼働時間ゼロ……終了だニョ』


「よし、まぁまぁだな」


 とりあえず敵の戦操兵ウォーレム部隊を制する事が出来たようだ。うん、やはり対人戦は盛り上がるぜ。


 ゴヴェイは何とか上半身を持ち上げコックピットのハッチを開きそこから這い出てくる。俺はその目の前で待ち構えていて、ジゴロウを突きつけた。


「よう、楽しい戦操兵ウォーレム戦闘だったな」


「なっ、貴様だったのか!? こんな事をしてただで済むと思っているのか!!」


「おお、すげー。この状況でよくも上から発言出来るな……それとも状況を把握出来ないほど頭が悪いのか? お前なんでこのまま生きて帰れると思ってるんだ?」


「ま、まさか、私を殺す気か!? 本国が黙っていないぞ!!」


「アホな騎士団長は森に火を放ち、その最中エルフに戦操兵ウォーレムを奪われて返り討ちにあい行方不明になりました~」


「ひっ」


 ゴヴェイの目の前にジゴロウを突き刺すと引きつった声を上げる。


「だが、俺は何とか奪われた戦操兵ウォーレムを倒して見事に行方不明の団長の敵は討ちました、めでたしめでたし~」


「わかった、金か? 欲しいものを用意してやる、私を殺さない方が得だぞ」


「俺が欲しいものは最初からクエスト完了の承認で、それは別にお前じゃなくても良いんだよ」


「待ってくれ、大丈夫だ、承認する……だから一度街に戻らせてくれ」


「戻る前にどうやって承認するか言ってみろよ、一応聞いてやろう。

 30秒でお前がやらかした事を誤魔化しながら俺にクエスト承認を出す方法を提案しろ……30……29……28……」


「なっ、待て待て、くっ、うぐぐっ……えーと、あれだ……そのな……ぐううっ」


 唸るだけでその口から建設的な提案などは出てこなかった。


「……2……1……0! 時間切れだ。何とかこの場を凌いで誤魔化す方法しか考えていないから思いつくはず無いよな?」


「くっ」


「今まで何でも思い通りに好き勝手してきたのかもしれないが、残念、それはここでおしまいだ……自分の浅はかさを後悔しながら残りの人生を過ごすんだな」


「がっ」


 そのままゴヴェイを気絶させると体を縛って拘束し、DSから出した鉄格子付きの馬車の中に放り込んだ。


「さてと……いるんだろうシャルド」


「!? 気付いていたんですね、それにその馬車はどこから……」


 木の陰からシャルドが現れる……その顔には畏怖の表情が見え隠れしている。どうやらシャルド以外の人間はいないようだ。


「そりゃあな、馬車なんてどうでも良いだろう……それでお前はどうするんだ? このままゴヴェイと一蓮托生か?」


「その言い方は別の方法があるような問いかけですね?」


「察しが良いのは嫌いじゃないぜ……これを見ろ」


 俺はDSから大きな革袋を取り出すとシャルドに投げ渡した。空中で受け取った袋と俺との間で視線が往復した後、袋の紐を解いて中を確認する……


「うっ……これは!?」


「討伐証明だ……オークと一緒だろう」


 その袋の中にがぎっしり詰まって。一つ一つ大きさが違い、物によってはピアスなどの装飾品も付いたままだ……しかし、その僅かに血の滴る切り口は、まるで鋭利な刃物で切り取られたかのように綺麗だった。


「あなたという人は……団長も恐ろしい方を考えも無しに敵に回してしまったようですね」


「アンタは血迷った団長の行動を俺と一緒に止めて、見事にエルフの討伐を完了し、今後エルフがこの地で活動は出来なくなった……こういうシナリオはどうだ?」


「いえ、まったくもって異存はありません……団長は助かりたいが為に冒険者のあなたに罪を着せようと騒ぐ事になりそうですね」


 どうやらシャルドは分かっているようだ……こうして俺達は互いの利益のためにを行った。もしもの時のためにゴヴェイの『森に火を放って冒険者に罪をなすりつける宣言』のボイスを収録したボイスプレーヤーもプレゼントしておいた。


 それを見たシャルドは自分が裏切った場合の証拠も在る事を察し冷や汗をかいていた。今回は不幸な事は起こったが結果的にはエルフの抵抗はなくなったのでファーガスにとっては良い結果だっただろう。


 森はドローンに何故か消火されて大事には至らなかったし、何故か戦操兵ウォーレムの残骸はどこかへ消えてしまったが、ファーガスにとって力の象徴である戦操兵ウォーレムの無残な姿など存在しない方が色々都合が良いだろう。


 こうしてシャルドは戦犯のゴヴェイと負傷者や今回の犠牲者の遺体と共にファーガスへ帰還していったのだった。



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「まぁ、こういう感じだ……最終的には文句なしの結果だと思うぜ。ほら、この通りクエスト完了の承認も貰ってある」


「は~、やはりお主はメチャメチャやりおったな」


「さすがあるじ!! マリチャパも一緒に行きたかった」


「今回の相手は戦操兵ウォーレムだったからな……戦操兵ウォーレムの相手は戦操兵ウォーレムでやらないとな」


 シャルドと別れた後に俺はレジスタンスの拠点に戻り事の結末を説明した。エイシャなど一部半信半疑の様子だったが、現場で抵抗していた俺が助けたエルフの証言によって真実だと証明された。


「しかし、あの、耳には驚いたの~妾には本物にしか見えなかったのじゃ」


 シャルドに渡したエルフの耳はモンスターの肉から培養したそれっぽい偽物だ。それでも拠点にいるエルフ達全員の耳から型を取って本物の様に仕上げた物なので気付かれる事もないだろう。


 超遺物アーティファクトから発覚する可能性もあるが、少しの間時間が稼げれば問題は無い。シャルドがファーガスの王都に到着しそこから中央セントラルまで掛かる時間は1ヶ月では効かないはずだ。


「何もかも計算尽くとは……エイジ殿のような方が姫様の味方になってくれて良かった」


「ふふん、妾とエイジは運命で結ばれておるのじゃ」


「!? どういう事ですか!? まさか、エイジ殿、姫様と何か!?」


 ちょっとまて、なんで褒められていたのに、一転して問いただされるような流れになるんだ!? そして、その問いに俺はリリアへ薬を飲ませる時や諸々の事を思い出してしまった。


「……何もないぜ」


「何ですか今の間は、そしてその『あっ』って顔は!! いったいどういう事ですか!!」


「駄目なのじゃ~妾とエイジの秘密なのじゃ♡」


 リリアも火に油を注ぐな!


「エイジ殿~事と場合によっては……覚悟をしてもらいますよ!!」




「せっかくめでたしめでたしのハッピーエンドなんだから勘弁してくれ!!」




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