潜入 03

 俺は森を役ファーガス戦操兵 ウォーレム部隊の元へ走っている。今回の作戦には人数はいらない単純な作戦だ。


「(ネジコ、1機だけ頼んだぞ)」


『了解だニョ。インセクト型を侵入させて乗っ取るニョ』


 作戦の準備を進めつつ俺自身は森を駆け抜ける。



 やがて、静かだった森の先から騒がしい喧騒が……どうやら目的地は近いようだ。ネジコから送られてきた映像を確認すると、もう歩兵による森の焼却は終了しているようで、あとは勝手に燃え広がるのを待っているようだ。


 そして、その後ろでは起動準備をするために、しゃがんでいる戦操兵 ウォーレムに乗り込む兵士の姿も見える。


 最初はなんでわざわざ待機状態になっているんだ? なんて思ったが、戦操兵 ウォーレムの操縦はパイロットの体力と精神力を消耗するから予備のパイロットも随伴して交代して戦うとアンドが言っていた。


 俺が操縦した感じでは特に消耗を感じなかったけどな……ここら辺は進化した人類の特性なのかもしれない。


 そして、その状況なら俺の目的も達しやすい……パイロットが乗り込んでいる状態では面倒くさそうだったしな。



 走りながら向こうの様子を見ていると、状況に変化が訪れた。


『うぎゃああああっっ!!』『エルフが精霊魔法を使ってきたぞ!! 急いで戦操兵 ウォーレムを起動しろ!!』『おのれ、性懲りも無く襲ってきおって、返り討ちにしてくれる!!』


 どうやらレジスタンスの拠点にいたのとは違う、別働隊のエルフが強襲したようだ。燃えさかる森を放ってはおけなかったのか……急がないとな。




 次々と起動していく戦操兵ウォーレム。アンドの所にあった機体より洗練されたフォルムだ……ウェストが括れて人間らしい体格となっている。

 ボディは青色で統一されており腰には剣を、それに左腕から手の甲にかけて武器らしき物が付いている。

 そして歩き出す戦操兵ウォーレム達……1機だけ座ったままの機体がいる。


『ゆけ!! エルフどもを皆殺しにしろ!!』


 戦操兵ウォーレムの拡声器で大きくなったゴヴェイの声が辺りに響く。ゴヴェイの機体は指揮官機らしく頭には立派な羽根飾りが、背中にはマントが付いており、腰の剣は装飾が施された立派な物になっていた。


 エルフ達は戦操兵ウォーレムが出てきたせいで大苦戦しているようだ。なにせ精霊の力が通用しない……もちろん弓の攻撃など言わずもがな。


『ふはははははっ、弱い……弱いぞエルフども……この私を邪魔しおって!!』


 左手に付いている武器を発射すると、そこから先端にフックの付いたワイヤーが飛び出して、炎に巻かれた木を倒しながらエルフに向かい攻撃をしていく。


『さすが、本国から送られてきた最新鋭の機体……ヴォルケンだ』


 さっきから拡声器で喋っているけど誰に向かって語ってんだろうね? 自画自賛とかして悦には入るタイプだなアレは。


 そして、ゴヴェイの戦操兵 ウォーレムだけではなく、その部下達の戦操兵 ウォーレム達も次々に隠れているエルフをあぶり出すためにフックショット……勝手に命名……で攻撃を始めている。


 本気で急がないといけないぜ……よし、目的地に到着だ。




「くそ! くそ! なんで動かないんだ!!」


 ひとりポツンと残されて座っている戦操兵 ウォーレムのコックピットで、若い兵士は必死に操縦桿を動かしたり、操作パネルをいじりながら頑張っている。

 先程まで動いていたはずの戦操兵ウォーレムがピクリとも動かなくなったのだ。


「くっ、このまま動けず終いで作戦が終わってしまったら、あのゴヴェイ様に何を言われるか分からない! それどころか甲殻の可能性だってある……何とかしなければ!!」


「よし、それなら俺が何とかしてやろう」


「へっ? うがっ!!」


 俺はその兵士を気絶させコックピットから引きずり降ろすと適当な木の陰に拘束して寝かした。そして再び戦操兵ウォーレムのコックピット内に戻ると操縦シートに座った。


「ネジコ、システムロック解除だ」


『了解だニョ……いつでも愛しのダーリンが動かせるように起動シークェンスは進めてあるニョ』


 お世辞にも大きいとは言えない正面左右に設置されているモニターから外の様子が映し出された。さすがにEXTイクストと違うとは言え、再び人型機動兵器に乗り込んだ俺の心は高ぶってきた。


「起動シークェンス完了……さぁ、お前の力はどんな物か見せてみろ!」


 俺は戦操兵 ウォーレム……ヴォルケンだったか? ……を立ち上がらせると、既に交戦中の機体を追い始める。




 俺が追いついた時には1体の戦操兵ウォーレムのエルフの男性をその手で捕まえていた。


『ぐあああああっっ!!』『くっ、離せ!!』『やめろ!!』


 仲間のエルフが必死に矢で戦操兵ウォーレムの肘の辺りを狙って攻撃するが、健闘も空しく始まれてしまっている。


『はははっ、負け犬のくせに無駄な抵抗をするから……悲惨な死に方をする事になるんだ!!』


 その巨大な手が華奢なエルフの体を握りつぶす前に……その腕がちぎれ飛んだ!!


『なっ!!』


 飛んでいく腕からこぼれ落ちたエルフは再び戦操兵ウォーレムの腕に収まったが、今度は乱暴に扱われる事もなく、そっと地面に降ろされた……まぁ、俺の戦操兵ウォーレムなんだけどな。


『なっ!! お前!? なにをするだーーー!!!』


 いきなり味方に腕を切り落とされて噛みながら抗議する片腕の戦操兵ウォーレム。俺はエルフを降ろしたのとは反対の手に握った剣を構える。


『裏切り者だと!? まさか、奪われた……中にエルフが乗っているのか!?』


 俺はその答えを行動で示してやろうと相手に向かい走り出す……おお、アンドの所で乗った戦操兵ウォーレムに比べてずいぶん早い。最新型とか言っていたもんな……EXTイクストで言えばメガフォートよりは早くデイウオーカーよりは遅い感じだな。


『なっ、早い!? 同じ戦操兵ウォーレムのはずだろ!?』


 驚くのも無理はない……俺の機体はリミッターを解除しているから通常の3倍ほど早いはずだ。そのまま真っ正面へ突っ込む直前で敵の側面に飛んで回り込む。


『消えた!? どこだ!?』


「ここだよ、そしてさよならだ」


 そのまま敵の脇腹に剣を突き刺す……きっとコックピットの中は悲惨な事になっているだろう。だが、こいつはエルフを握りつぶそうとしていた……因果応報だ。


『なんだと!? 裏切り者だと!?』『乱心したか!!』『ええい、相手はたった1機だ!! 囲め!!』


 俺に気付いた敵、戦操兵ウォーレムが3機こちらに向かって来る……いいね、燃えてくるぜ。


 左右に展開した2機がこちらの動きを封じ込めようとフックショットを撃ってくる。俺は右側にターゲットを決め、そちらに飛び込みつつ上半身をそらしてフックショットを躱すと、勢いよく伸びていく鎖を左腕で掴む。


『なんっ!?』


 敵の驚きの声を聞き終える前にそれを思い切り引き寄せると、腕を伸ばしながらつんのめってくる。

 前に倒れそうな敵の顔を剣で一刀両断!! その首は遙か遠くに飛んでいった。


 首のない戦操兵ウォーレムの背中を振り向きざまに蹴り飛ばすと、フックショットを撃っていたもう一機の鎖を巻き込むように倒れていった。


 味方に絡まれた鎖をを外そうと引っ張る1機を放置して俺はすぐに剣を抜いてこちらに向かって来る戦操兵ウォーレムにターゲットを変更、低い姿勢からのダッシュをする。


『ばかな、その速さ指揮官機か!?』


「同じだよ……ちょっとチートだけど多対一なんだから許せ」


 俺が敵の間合いに入った頃には、剣を振り下ろすタイミングを見誤って振りかぶったままの両腕を一閃……剣ごと切り落とす。そしてそのまま剣を振り切った勢いを生かして追撃の回し蹴りを頭に叩き込む。


『!!!??』


 おそらく何が起こったかも分からないまま機体が激しく叩き倒され、パイロットは昏倒してしまったのだろうか戦操兵ウォーレムはそのまま動かなくなった。


 振り返ると、ようやく味方に絡まった鎖が外れたのか、フックが左腕に巻き上げられているようだ……まぁ、ゆっくり見ている義理はない。

 俺は相手目掛けて剣を投げつけるとその無防備な首に突き刺さった。更にフックショットを発射し敵を捕らえるとこちらに引き寄せる。


 引き寄せられた敵の体を足で受け止めると、首に突き刺さった剣を抜き、振りかぶりながら袈裟切りにする……敵、戦操兵ウォーレムの左肩から脇腹にかけてずり落ちていった。


『何なんだ貴様は!? 一瞬で4機も……化け物か!?』


 ようやくボスのゴヴェイも味方戦操兵ウォーレムの暴走に気付いたようで残りの5機を伴ってこちらを包囲しようとしている。


 今度は5機が一斉にフックショットを放ってくる。俺は素早く今し方いましがた切り捨てた半身切り落とされた戦操兵ウォーレムを前に差し出すと、俺の代わりにガッチリとフックショットに拘束されてくれた。


 左手のフックに剣を仕込むと一番左手の敵に振りかぶってからフックショットを発射、剣は上空に飛んで行く。


「ここだ!!」


 俺は絶妙なタイミングでフックを止めると剣は上空から一気に下降する……まるで長い腕で振り下ろされるが如く敵の体を真っ二つに両断した。


「よっし、ドンピシャだな……さすが俺」


『あ、ありえん……戦操兵ウォーレムでこのような動き……』




 ……敵は俺のEXTイクストで培ってきた尋常ではない操縦技術にただただ戦慄しているようだ。




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