潜入 02

 俺達はワレワール残党が潜む森にやって来た。シャルドも何人かの護衛を伴って付いてきている。


「シャルドさん、昨日も言いましたが残党を見つけた場合は逃さないためにもあなたの事を構わずに追いかける可能性が高いです。

 決して護衛から離れないようお願いします……俺達の依頼にあなたの安全は入っていないのですから」


「大丈夫です、お気遣いありがとうございます」


 相手を気遣う素振りを見せつつも、しつこく言質を取る俺……これだけ言えばさすがに後で文句言われる事はないだろう。

 さて、森に入って10分程か……既に森の外に広がっていた草原は見えない。日の光も差さない夜のような暗い空間すら存在する。


『3人ほど付かず離れず監視しているニョ』


「(もうこっちに気付いたのか……凄いな。もしかしたら精霊の力って奴か?)」


 リリアの方を見るとこくりと頷く……どうやら本当らしいな。ならばちょうど良いか、全力ダッシュする大義名分が出来るってものだ。


「(みんな良いか? 俺の合図で全力ダッシュだ)」


 俺はタイミングを見計らうと声を上げる……


「あ、エルフだ、残党だ、急いで追いかけろー(棒)」


『ダーリンそれはあんまりだニョ』


「それじゃシャルドさん、また後で……」


「あ、はい……お気を付けて」


 俺達は森を全力ダッシュで走る。俺は例の如くパルクールアプリでアクロバティックにダッシュする……リリアは森が自分のフィールドとも言うだけあって颯爽と走っている。


 そして恐るべきはムカチャパ族だ……彼等はアプリなど無いのに、本能で森を駆け抜けている。元々森に住んでいた事もあるが、何と言っても野生の勘というものか?

 瞬時に適確なルートを導き出して走って飛んで爆走している。


「これは負けていられないぜ」


「ほー、みんなやるのう! 妾も負けんのじゃ!!」


あるじの走り方格好良い!! マリチャパもクルリって走る!!」


「オラは凄いぞ!! 天才的だぞ!!」「あちしも~!」


 みんなが森を疾走する……なんか当初の目的を忘れている気がするが……とにかくダッシュだ!!



 ……しかし、青春のパルクールもそう長くは続かなかった。



 突然、俺達の足下に何本もの矢が突き刺さる。


「動くな薄汚い人族ども!!」


 俺達を包囲するように何人ものエルフ達が木の上からこちらを狙っている。下手な動きをすれば脳天を貫く勢いだ……まぁ、いる事はわかっていたんだけどな。こんなに早く目的を達成出来るとは俺もツイているぜ。


「我々はお前達ファーガスの支配などに屈しはしない……その首を奴らに送り届けてくれる」


「そりゃ怖いな……だが、俺達にも目的があってな。お前達を中央セントラルに連れて行かなければならない」


中央セントラルに? 不可解な事を言う……ファーガスに連れて行くのだろう?」


「悪いがあいつらにお前達をくれてやるつもりはない。なぜなら、お前達のあるじはここにいるのだからな」


「……いったい何を言っている」


 怪訝な様子を見せるエルフ達の前に、リリアがスッと前に出た。そして外套を被ったまま皆を見上げると両手を広げて語り出す。


「皆の者……よくぞ生き残ってくれた……妾は嬉しいぞ」


「そ、その声は!? まさか?」


「そうじゃ、妾こそ……リリアーヌ・エル・ワレワールじゃ!!」


 そしてリリアが外套を脱いで……木の上から見下ろしているエルフ達にその顔を見せた。




「誰が姫様だ!! 死ね偽者が!!」


「似ても似つかぬわ!! 痴れ者が!!」


「お前のような醜女 しこめが姫様を名乗るのは不届き千万!!」


「マジで許さん!!」


 エルフ達の大ブーイング。おかしい、感動の再開の予定だったのだが……解せぬ。


「ぎょわーっ!! 撃って来おった!! 何をするか無礼者が!!」


 俺達にもの凄い矢の雨が降ってくる。俺は最低限の動きで躱す。ムカチャパ族も自分の獲物で矢を撃ち落としている。


「リリア、顔! 顔が……変装したままだからな!!」


「おおおっ、そうじゃった!!」


 急いでリリアがマスクを外すと、そこに美しいエルフの顔がプラチナゴールドのきらめく髪が現れた。


「おのれ!! いまさら姫様の顔に変装するとは何て不敬な!!」


「ぬわあああ!! また撃ってきよった!!」


 火に油を注いだのか矢の雨は寄り激しい豪雨となった。


「これは正体を明かすタイミングを違えすぎたな」


 仕方がない、あまり乱暴な事はしたくなかったが……俺は 二丁拳銃ケルベロスを取り出すとエルフ達の足場となっている木の枝を撃ち抜いていく。


「ぬあ!!」「なんだ!?」「相手の矢か?」「精霊の力か?」


 エルフ達は次々と足場を失い地面に着地するが、すかさずムカチャパ族達がせまり、武器を突きつけその場に止める。


 ふと、背後に殺気を感じて 二丁拳銃ケルベロスで受け止める。どうやらダガーで不意を打とうとしたようだ。

 相手は女性……リリアに程ではないが綺麗なプラチナヘアに気の強そうな顔立ち……やはりエルフらしく美人だった。


「くっ、私の気配に気付いただと!?」


「まぁ、普通に分かったからな」


 すぐにバックステップ後、再度こちらにダッシュすると、寸前で直角にターンして側面から襲ってくるが、 二丁拳銃ケルベロスの片方を向けて発砲。


「うあっ!!」


 スタンモードのエネルギーの弾丸がヒットしてその場に膝を着く。


「くっ、殺せ!!」


「それは騎士じゃないと言ってはいけないセリフだ」


「何を訳分からない事を」


「やれやれじゃな……相変わらず頭に血が上ると人の話を聞かないのう……エイシャは」


 俺の隣にゆっくりとリリアがやって来る。


「それは姫様がいつも心配をかけるから……って姫様!?」


 ようやくリリアの事を認識したのか目を丸くして顔を見つめる。


「ふふん、そうじゃ、妾がリリアーヌ・エル・ワレワールじゃ……反対側の大地からはるばる故郷まで戻ってきたのじゃ」


「ひめさまぁぁっっむぐっ!?」


 リリアに駆け寄ろうとしたのだが、まだ体が痺れているせいで、バタリとその場に倒れてしまった。


「やれやれ、しまらないのう」


 ちょっとしたアクシデントはあったが、何とかリリアを故郷の仲間と合流させる事が出来たのだった。




 エルフ達残党……と言うのも聞こえが悪い。ここは格好良くレジスタンスとでも言っておこう……達は、リリアが転送されたと言われる遺跡を拠点に抵抗活動を続けていたらしい。


「すると姫様はこの遺跡の罠が発動した後、反対側の大地……マルヴァースの大森林の大地に飛ばされたのですね」


「そうなのじゃ、もしもエイジがいなければ妾はとっくにファーガスに送られ殺されていた事じゃろう」


「そうだったのですね……姫様のお命を救って頂いてありがとうございました。どうか初対面時の無礼をお許し下さい」


「あぁ、構わないさ……リリアと再会できて本当に良かった」


 だがエイシャは感謝の表情を一変させる。


「ところでエイジ殿、姫様に対して愛称で呼ぶのは少々馴れ馴れしいのではございませぬか?」


「そうなのか? 本人の希望だったんだが?」


「そうじゃ、妾が許したのじゃ。それにエイジ自身も王の資格を目指す男。いずれ妾と対等になる男なのじゃぞ」


「ぐぬぬ、そうですか……姫様がそう仰るのなら仕方がありません」


 ぐぬぬて……微妙に納得しがたい表情でこちらを睨むエイシャ。俺は嫌われているのか?


「それにしてもエイジよ、エイシャ達と合流出来たのは良いが、一体どうやってファーガスを……依頼を達成したと納得させるのじゃ?」


「あぁ、それはだな……「大変です!!」」


 突然男性エルフの大声に俺の言葉は遮られた。そのエルフは息を切らしている……どうやらかなり急いで走って来たようだ。


「ファーガスが……戦操兵 ウォーレムが森を……森を燃やして攻め入ってきます!!」


「何ですって!?」


 ファーガスは森を焼く事を良しとしなかったはずなのだが一体どういう事だ? 何か急な方針転換でもあったのか?


『ダーリン、現場にドローンを飛ばしてそれっぽい所を見つけたニョ』


「(見せてくれ)」




 ドローンから送られてきた映像には、森の手前の草原で待機している何体かの戦操兵 ウォーレム。そして火炎放射器のような超遺物 アーティファクトを手に持った兵士達が森に火を放っている。


 並んでいる戦操兵 ウォーレムの中心にいる男が……ゴヴェイだ。そしてそのかたわらにいるシャルドが必死に何かを訴えているようだ。


『ゴヴェイ様!! 森に火を放つなどおやめ下さい!! 本国からは決して火を放ってはならないと!!』


『ええい、黙れ!! 俺はこんなワレワールなんぞにいつまでもいるつもりは無い、さっさとエルフ共をなぶり殺して本国に帰らねばならんのだ!!』


『こんな事が知れたらそれこそ、ゴヴェイ様が咎められます!! どうかお考え直し下さい!!』


『咎められる? 私が? どうして? 森に火を放ったのはがやった事だ』


『ゴヴェイ様……まさか彼等に責任を……』


『おっと、滅多な事を言うな……エルフどもを殺し、冒険者どもの口を封じさえすれば誰も咎められる事はない……むしろ冒険者を利用しようと提案した宰相どもの責任だ』


『あ、あなたという方は……』




 なるほど、そういう筋書きか……やれやれ、ここまでがスンナリ行き過ぎていたと思ったら、どうやら反動が来てしまったようだな。

 ま、こうなったらせいぜい俺の目的に花を添えて貰おうかな?


「どうするのだ!? 森を焼かれてしまったらわたし達は……」


「それにこのままだと奴らの戦操兵 ウォーレム隊と戦う事に……」


 エルフ達が大声で論議を始める……だが、なかなか良いアイデアが出ないようだ。俺はそこでパンッ! と手を叩く。


「ここは俺に任せてくれ……サクッと追っ払ってこよう」


「なっ! いくらエイジ殿が強いと言っても戦操兵 ウォーレムに叶うはずが……」


「まぁ、やりようはいくらでもある。ここは是非ともリリアが認めた俺の力を見せておこう……そちらとしても俺の事を知っておいた方が良いだろう?」


「むっ……」


 エイシャを初めとするエルフ達は考え込み、顔を見合わせると頷いた。


「分かった、エイジ殿……お任せする。ただし、我らが無理だと判断したら、即座に介入させて貰うぞ」


「お好きなように……それじゃ行ってくるか」




 ……俺は燃えさかる巨人達が待つ森の入り口に向かって歩き始めた。




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