潜入 01
3日後、ワレワールに向かう準備を終えた俺達は、ワレワール側の外縁部に向かっている……この場所はワレワールという国の文化を他国に見せる顔とも言えるエリアなのだが。
「ひどいぞ、ボロボロじゃないか」
マリチャパが憤慨するほど、その姿は無残にも破壊されている。もしかしたらワレワールの残党を探すための見せしめだったのだろうか? ここに住んでいた人々は何処へ行ったのだろうか? その疑問に答えられる人間はここにいない。
「……っっ」
リリアはフードの下で小さく震えている……今は耐える時だ。
『マルヴァースの大森林側の探索、索敵ドローンを順次、
俺達が最初にいた場所はマルヴァースの大森林という名前だったらしい。3馬鹿達の拠点が気になる所ではあるが今はこちらが最優先だ。
ワレワール側の門の近くの建物が無事に残っている。俺達はまずはそこでファーガス側の依頼主に会わないといけない。もちろん依頼主は国という形だが、代理の誰かに会う事になるのだろう。
「ふん、冒険者風情の力など必要ないというのに……宰相達は何を考えているんだ」
おいおい、不機嫌そうな顔を隠そうともしない、いかにも武人ですといった風貌の……獅子の
「俺はゴヴェイ……ファーガス南部騎士団の団長だ。お前達は滅びたエルフの国の残党を捕縛か討伐をしてくれば依頼達成だ。あまり時間はやれん、1ヶ月以内に達成出来なければ失敗だ。無理そうだったらさっさと泣きついてこい」
「問題ないです。じゃ、直ちに向かいます」
「おい、待て……」
てっきり何か言い返されるのかと思ったのか面食らったように止めてくる。
「何か?」
「お前、何か言う事は無いのか? お前達、本当にエルフ達をどうにか出来ると思っているのか?」
「はい、出来るから依頼を受けたので……それじゃ行きますね」
「待つんだ、お前達を自由に元ワレワールを歩かせるわけにはいかん! 案内の者を付ける!」
やれやれ、
こちらの事を信用は出来ないのか、手柄の横取りでも考えているのか……この時点では分からないな。
ノックの後、部屋に一人の男が入ってくる……頬の痩けた優男といった感じだ……その眼光は鋭く見える。
「シャルドと申します。ワレワール内は私が随時案内致しますので、疑問などがありましたら仰って下さい……ところで……」
シャルドと名乗った男は俺の隣にのリリアに視線を向けると……
「そこの外套を羽織られている方……申し訳無いですが顔を拝見して宜しいですか? 不快かもしれませんが、これから行動を共にする上で顔を知っておく必要がございますので」
ビクッとしたリリアがうろたえた様子を見せる。
「どうしました? 何かお顔を見せられない理由でもありますか?」
「おい、冒険者風情が……依頼主に顔も見せられぬのか?」
不機嫌そうに黙っていたゴヴェイがシャルドに便乗してくる……これは顔を見せないといけない流れか。
リリアはおずおずと外套を外すと……そこには、眼鏡の向こうにまるで顔を顰めているような細い目と、ピンクの髪をボサボサッと無造作に伸ばした髪型の……素顔が現れた。
「はっ、勿体ぶるような顔か……つまらん」
心無いゴヴェイの言葉に傷ついたような素振りで外套を被るリリア。シャルドは何かを察したように申し訳無いような顔をする。
「彼女は素顔を見られる事を好まないのでこの位で許して下さい……それに、冒険者としての実力は容姿に関係ありませんから」
「ふん、だと良いのだがな……口先だけではない所を見せて貰いたいものだ」
「それでは有言実行と行きましょうか……今度こそ失礼します」
通路を歩きながらシャルドが喋りかけてくる。
「ゴヴェイ様がもうしわけありません。ワレワール攻略が上手くいっておらずに連日ご機嫌が悪くて……
「あくまで依頼人と冒険者の関係なのでお構いなく……戦力を減らして大丈夫なんですか?」
「全体の作戦に関しては私は何とも……どちらにせよ皆様に残党を何とかして貰えれば問題解決ですから期待しています」
詳しい話はぼかされたな……まぁ、知った所で何があるわけでも無い。
「外で待たれている方達を合わせて15人で宜しいですね? 事前に確認していた人数ちょうどですので、人数が乗れる馬車を用意しています」
俺達はファーガスが用意した馬車に乗って半日……ワレワールで一番
よほど移動手段は自前のがあると言いたくなったが、まだアレをこいつらに見せるわけには行かないからな。
「こちらの宿をお使い下さい……この2階のフロアは全て貸し切ってあります。別の階は我が国の兵士が利用しているのですが……その、あまり皆様の事をよく想っていないよう何でできる限りは……」
「あぁ、なるべく関わらないようにします……願わくば向こうから絡んでこない事を祈っていますよ」
「はい、わたし達の方からよく言ってありますので……それでは予定が決まりましたら私は1階の102号室にいますので、そこにお願いします」
一通りの説明が終わるとシャルドは部屋を出て行った……さて、この部屋は安全か?
『上の階の人間が一生懸命この部屋のお話を聞きたがっているニョ』
「(盗聴されているって事か……何をそんなに心配しているのやら)」
とりあえずリリアやマリチャパ達4人には同じ部屋に来て貰っている。何かを話そうとするマリチャパを手で制すると、俺はこめかみに指を当てた。
「(みんな聞こえるか? この部屋は盗聴……盗み聞きされている。なるべく必要以外の事は話さないように。特にリリアの事は絶対に口にしないよう気を付けろ……そしてどうしても会話が必要な筆談か場合は
目の前の4人はこくんと頷いた……別の部屋の人間にもしっかり聞こえたはずだ。リリアが予め渡してあった電子メモパッドを取り出すと何やら書き始めた。
『エイジの言うとおり顔を確認させられたのじゃ。あぶなかったのう』
そうなのだ、俺はそれを危惧してリリアには変装用の
『マリチャパ、あのオジさん嫌い』
『オラも腹立った! もう、喰らえオラの左フックを!! って感じだった』『あちしも~』
あのゴヴェイっておっさん、マリチャパ達の評判もかなり悪いようだ。もちろん俺もいい気はしなかった……というか、アナチャパのそれは、わざわざ書く必要あるのか?
「(まぁ、あういうムカつく奴の裏をかいて悔しがらせるのもまたスカッとするぞ)」
『妾もわかるぞ
しばらく俺達は内緒話を続けたが……でも、あまり会話がないとが役に怪しまれるかもしれないな?
「とにかく今日はゆっくり休もう、何せ半日も馬車に揺られて尻が痛い。探索は明日からだ」
俺の尻が痛いと言う辺りで両サイドの部屋から失笑が聞こえた。カムチャパなんかは鼻の奥をブグッっと鳴らしていた。
……ワレワールに到着した最初の夜は沈黙と共に過ぎていったのだった。
次の日、俺達はシャルドの部屋を訪ね、現在のワレワール残党の情報を確認しに行った。
「あの、昨日は来られませんでしたが、そんなにのんびりしていて大丈夫でしょうか? 残りの機嫌は1ヶ月もないですよ?」
「問題ないです。それよりも現在の状況は……ファーガスは一体何に困っているんですか?」
「はぁ、それでは現在の状況は……」
ワレワールの大地は中央を広範囲にわたって連なっている森が特徴的だ。そして、残党達はその森に立てこもって抵抗を続けているらしい。
「彼等は森の中を異常な速度で移動が出来るようで、我々の
「なるほど……追いかけても追い付けないと?」
「いくら精強な
「森を焼いてしまうのは?」
「あの森はワレワールの恵み……資源の半分が集約されていますので、それをしては何のためにこの国を手に入れたのか分からなくなってしまいますよ」
「なるほど、こちらの弱みにつけ込まれているわけですね……それで、常に縦横無尽に移動しているわけじゃないですよね? 相手の拠点の目星は?」
「それが未だに分かっていません。
「つまり、何も進んでいないって訳ですね? わかりました、こちらの準備ができ次第すぐに取り掛かりましょう……ただ、俺達の足は速いですから、ここぞと言う時はあなた達に構わず相手を追いかけますから、そこは了承して下さい」
「それはもちろんです、その時は遠慮はいりません」
「とにかく、俺達が必ず……最終的にワレワール残党の抵抗を無くして見せます」
「はい、期待しています」
よし、言質は取ったぞ……森の探索の途中にダッシュで蒔く……みんなにもそう作戦を伝えた。
既にネジコがドローンを使った探索でワレワール残党、拠点の位置を掴んでいる。俺達は街から一番近い森の入り口へ向かったのだった。
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冒頭にプロローグを追加しました。
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