開始 07

 さて、マリチャパの奴隷解放は達成した。


 次にやるべき事は……冒険者ランクの上昇だな。

 これが達成されなければお話にならない。☆5の条件は開示されていないがおそらく高難易度の依頼を狙っていけば良いのではないだろうか?


 資金調達はたぶん中央学院 セントラルアカデミー入学後に必要になってくると予想する……こちらは後回しだ。


 もっとも、中央セントラル付近にあまり強いモンスターはいなさそうだが、ここは余所の国がどうなっているかだな。

 大地の端の方へ行かないと現れないモンスター討伐などは普通は難しいが、俺達の移動速度は普通ではない……他の奴らに出来ない事を平然とやってのける、そこに勝機がある。

 あるいは未開拓の大地なら中央セントラル寄りでも強いモンスターがいるかもしれない。


 ……まぁ、何にせよギルドに行ってみてからだな。


「今日は妾も一緒に行くぞ……何せ冒険者としての行動だからの」


「マリチャパも頑張る!!」


「オラも!!」「あちしも~」


 俺達は5人でギルドに向かった。



「残念だが高難易度なんて依頼は無いぞ」


 俺の期待を裏切る言葉がマークスさんから飛び出してきた。少しくらいは遠くでも問題ないと話してみるが、今の所はないそうだ。


「何てこった……あれ? でも、これとか☆5難易度って書いてありますよ?」


「おいおい、それは大きくなり過ぎたモンスター集落を討伐する大規模依頼だぜ。

 冒険者100人以上でまとめて討伐する依頼だから無理だ……んー、まだ、今の所は10人くらいしか集まっていなから、まだまだ開始まで時間が掛かりそうだぜ」


「ふむ、ちなみに勝手に受けてクリアしても問題は無いんですか……ルール違反とか?」


「無いが……っておい、本当に止めろよ、フリじゃねぇぞ? 有望な新人を無謀なクエストに駆り立てたとなったらギルドでも大問題だからな」


「ああ、たとえばの話なのでお気になさらずに……とりあえず受けておきます」


「わかった、依頼板で受けておいてくれ……いいか、くれぐれも単独で行くなよ?」



 必死に釘を刺されたが心配御無用で問題ないだろう。大丈夫だ、さすがに俺でも危険でクリア不可能な依頼は受けない……でも、クリア可能ならその限りではない。

 

「よし、俺はマークスさんの言いつけをちゃんと守っているから偉い」


「何を言っておるのじゃ? 良い依頼はあったのか?」


「おう、俺達の強さと目的にピッタリなのが見つかった……えーと、コレだ」


「推定50体以上のオークの集落じゃと!? こんな数は妾たちだけでは無理……でもないのかの?」


 実際に中央セントラルへ来る途中の訓練で、狼の群れ100匹以上の戦いまでは試している。

 多分、あの辺りの狼はしばらく何処探してもいないんじゃないかな?


「マリチャパやる!! 最近、火の魔法も上手になってきた」


 既にマリチャパの強さもSOF ゲームのエンジョイ勢より強いくらいにはなっている。


「オラの土魔法が火を噴くぜ」「あちしも~」


 カムチャパ、土の魔法が火を噴いてどうする……いや、マグマの魔法とかあったか。あとアナチャパは風魔法だろうが。


 ……と言う事で、全員一致でオークの集落討伐を決めたのだった。




 翌日、俺達はオーク集落が存在する大地への門へ向かった。

 その大地は未開拓の大地であり、本来は各国が予算を出して定期的に冒険者に駆除を依頼するのだが……優先順序などの様々な問題で間引きが間に合わず、モンスターが集落を作る事態が起きてしまったようだ。


 今回は俺達5人のPTがメインで討伐。

 残りは10人のムカチャパ族に着いてきてもらい、討伐漏れが無いよう後詰めをして貰う予定だ。


 中央学院 セントラルアカデミーに入学資格者は俺達5人なので、昇級も俺だけで良いのだが、サポートしたパーティーも評価されるので、彼等の評価を上げておいても無駄はないだろう。


「そろそろ大丈夫だろう……それじゃあバスを出すから順次乗り込んでくれ」


 中央セントラルの門を潜り、ある程度街道から外れた人目のない辺りで俺は軍用バスをDSから取り出した。


「いつ見ても凄いのう」


「マリチャパのあるじは凄いのだ」


 マリチャパよ、いつまであるじと呼ぶのだ……ともかくだ、俺達はバスに乗り込むと目的地を目指して出発した。




『飛ばして約1時間ほどで到着するニョ』


 バスはネジコによる自動運転でかなりのスピードだ。舗装された道ではないが車体が地面に設置しないで走るので揺れを感じない……安全に素早く目的地に着くだろう。


 その間、現地の集落の様子をマップに移しだして作戦会議になった。


「こんな感じで俺達は集落を囲むように5方向から中心に向かい進んで行く……合図はいつもので伝えるから先走るなよ」


 俺はこめかみを指さし、皆に装着されている骨伝導フォンの声をよく聞くように伝えると、4人とも黙って頷いた。


「残りのみんなは俺達が打ち漏らした敵を片付けてくれ」


「「「「「我らはあるじ様に従う!!」」」」」


 ちょっとまて、なんだそのノリは!? 奴隷から解放した辺りから皆の態度がこんな感じになってきているので戸惑うぜ。


「真の王たる者、資格を得る前から風格がにじみ出るものなのじゃ」


「出ないわそんなもの!!」


 ……色々誤解はあったようだが俺達は目的地へ到着したのだった。




「さて、俺の声は聞こえるか? 聞こえたら右手を挙げろ」


 4人とも一斉に右手を挙げた……よし、しっかり聞こえるようだな。敵はオーク、この星の住人では50匹以上のオークにこの人数で挑むのは無謀なのだろう。

 だが、俺の仲間達は異常なスピードで成長し、この星ではあり得ない水準の武器、防具を装備して高度な魔法技術を会得している。


 基本的には負けないだろう……万が一時は空中に待機しているドローンが援護に入るのだが、それに頼らないようその事は仲間には伝えていない。


 訓練は上々、あとは実践でその成果を試す時だ……よし、全員位置に付いたな。


「作戦開始だ……全員速やかに集落の中心を目指し敵を殲滅していく。俺の指示を聞き逃すな!!」


 マップのマーカーを確認すると全員一斉に進み始めた。



 俺は通常の徒歩で歩いて行く……敵を発見、3体なら一瞬だな。俺はDSから 二丁拳銃ケルベロスを取り出すとサイレンサーモードに切り替えて一気に3連射する。

 その瞬間マーカーの反応は消えた……他のメンバーの様子も似たようなものだ。


「カムチャパ、そっちは5体……少し人数が多いな。少し待機して背後を付け」


 俺は自分の戦いを行いながらマップで仲間の状況を確認して指示を同時に出す。ふっ、SOF ゲームを思い出すな……本来この役割はアイリだったな。あいつの作戦はいつも文句なしにクールで効率的だった。


 おっと、感傷に浸っている暇は無い……俺は頭で複数の事を考えながらも 二丁拳銃ケルベロスのトリガーを引く指を休めなかった。


 今の所取りこぼしはないな……待機組は退屈で申し訳無いが、俺達にとっては良い結果だ。


「そろそろ、敵が密集してくる……もしも敵にバレたら俺の指示を待たずに一気に殲滅だ」


 ウヴォーーーーーッ!!


 遠くで獣のような叫び声が聞こえる……どうやら集落への侵入者の存在に気付いたようだ。俺は歩く速度を速めた……仲間達も同じように中心部分に向かって走り始めたようだ。


 既に森が開けた場所に出て集落の外縁部に到達している……緑色の肌をした豚のような顔の亜人がこちらを指して叫び声を上げている。


 ドーーーーンッ!!


 俺のいる真向かい側から大きな爆発音が聞こえる……たぶんリリアの精霊魔法だろうか? その音に気を取られて俺から視線を逸らしたオーク達は再び俺の姿を見る事はなかった……その理由は俺の両手の 二丁拳銃ケルベロスが知っている。


 既に集落の中に侵入し、特に警戒をせずに早歩きで進んで行く……刹那、粗末なテントからオークが槍を持って襲ってくるが、俺は両手を広げて左右のオークを同時に撃ち落とす。


 俺の歩く速度は変わる事は無い。目の前の大きなテント前に10体くらいのオークがこちらを指さして叫んでいる。何体かこちらに向かい槍を投げてくる。


 8本の槍のうち命中コースは2本だけ……俺は構わず歩いて 二丁拳銃ケルベロスを掃射しながら進む。俺のすぐ隣に何本かの槍が地面に突き刺さり、何本かはバウンドして転がっていく。


 俺は体を45度横を向きを変え、片手は元の方向を撃ち続けもう片方の手は不意打ちで襲ってこようとしたオークを撃つ。背中に触れるか触れないかのギリギリの位置を槍が通り過ぎる……更にまた45度向きを変え元の進行方向とは逆側に向き直し、後ろから5体の増援のオークを撃つ。


 増援が倒れた事を確認する前に大きくカラダを捻りながらジャンプすると、その足下に槍が刺さる。俺はカラダを捻りながら 二丁拳銃ケルベロスをテント前に向け、残りのオークに掃射し残敵を掃討し終えた。


 もう集落で侵入者に気付いていないオークはいないだろう。だが、その侵入者を気にするオークもどんどん減っている。


 ヴォグオオオオオオオッ!!


 亜人達の集落が出来る場合は大概リーダーとなる上位種がいるらしい。そこには一回り大きな体格で、粗末とは言え金属のブレストプレートを付けたオークがいる……多分オークリーダーと言う奴か?


「マリチャパがやりたい!!」


「お主はこの前街で暴れたのじゃろ、妾に譲るべきじゃ」


「オラが倒す!! 部族の栄誉はオラが貰う」「あちしも~」


 みんな既に集落の中心に集まっていた……全員、怪我ひとつ無いようだ。


「早い者勝ちだ、行くぞ!!」




 ……こうして本来なら100人以上集めて討伐するオークの集落は、俺達5人によって30分も経たずに壊滅したのだった。




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