開始 06

「おい、舐めてんのか? いま俺らに喧嘩売ったよな?」


「回りくどい事言わなくて良いぜ……頼まれたんだろう? 女の子攫って来いって」


「なっ!?」


 あからさまにうろたえる男達……駄目だね、こんな顔芸出来ない奴を使っちゃ。多分、荒事専門なんだろうな……いや、頭悪いから単純に使えると思われているのか。


「時間が惜しいから掛かって来いよ、全員逃げるなよ?」


「おいおい、こいつマジかよ!! 女の前だからってイキり過ぎだろう?」


 一斉に笑い出す取り巻きの男達。依頼された事がバレて焦っているのは前の男だけのようだ。


「お前ら、こいつは俺達が来る事を知っていたんだぞ!?」


「えぇ? 兄貴、別にやっちゃえば一緒じゃん、何を困ってんの?」


 取り巻きの返答に一瞬悩んだ顔をしたがすぐににへらっと笑い出す。


「それもそうだな、さっさと男殺して女さらってけばいいんだな」


 リーダーらしき男は少しは考えるかと思ったが、やはり馬鹿だったようだ。男がナイフを出すと、それを合図に取り巻き達も同じようなナイフや棍棒を構える。


あるじ!! マリチャパがやりたい!!」


「ん、そうか? 路地は狭いからそこは気をつけろよ」


「うん!」


 笑顔で答えると俺はマリチャパの槍をDSから取り出して渡す。突然現れた槍に男達は驚いたものの、連れの女が戦うと分かると再びゲスな笑みを浮かべて武器を……ナイフの奴はしまい棍棒の奴は……構えた。

 マリチャパは槍を立てるように構えると、その槍が真ん中から割れて二つになった……双槍と言うやつだ。


 獲物が槍のマリチャパが狭い場所で戦うにはどうするかという事で練習させたら予想外に上手く嵌まった感じだ……両手の槍は剣より難しいって聞くんだけれどな。


「お嬢ちゃん、怪我したくなかったら大人しくつくぐあっっ!!??」


 ナイフを降ろして無防備に近寄ったリーダーは速撃沈した。油断しまくって槍柄で腹を殴りつけられた男はそのまま膝から崩れ落ちた……あ~あ、口元から何かしら出ている。


「うわ~食べ物は大事にしないと勿体ないよ」


 大事な食べ物を無理に出させたのは自分だという事を分かっているのか?


 取り巻きの男達がそれに驚いているがマリチャパは容赦なく次の獲物に飛びかかる。体格の良い棍棒の男の膝裏を強打し、崩れ落ちた所にもう片方の槍柄で後頭部も強打。


「遠慮はいらない! マリチャパは全員と戦う!!」


 その声にようやく動き出した他の男達がマリチャパに殺到する……が、誘拐する相手なのでナイフを使わず押さえ込もうと数に任せて突っ込む作戦のようだ。


「マリチャパは武器を使われても構わないよー!」


「うるせぇ!! 大人しくしろ!!」「よし、そのまま押さえ込め!!」


 巨漢のアウトローが犠牲覚悟でマリチャパに掴みかかろうとするが、今度は顎を打ち上げられ上体が仰け反ると、それを踏み台にして相手を飛び越え後ろの男の頭に槍を振り下ろす。


「お前、猪より弱いぞ、もっと修行しろ」


「くそっ、このアマ!!」「一人ずつじゃ駄目だ!! 一気にかかれ!!」「おらぁ!!」


 脳震盪を起こしているその男を追ってくる男共の方へ……その細い脚から信じられないような脚力で……蹴り飛ばすと宙を飛びながら3人巻き込んでいった。


「うそだっぐああっ!!」「このデブ!! どけよ!!」「いでぇ、脚が変な方向にはさんだっ!!」


「何なんだよ!! ただ女さらってくるだけの筈だろ!!」


 取り巻き達は、まとめて倒された男の様子を見てから再びマリチャパに視線を戻すと既に彼女の姿は無く、反対側を見た瞬間……おそらく目の前に迫る槍を見ただろう……マリチャパの槍が眉間に叩き付けられてノックアウト。


「勝負の最中に余所見は厳禁、忠告するマリチャパは慈悲深いと村で噂」


「なめんなっ!!」「今だ!!」


 男の犠牲を見越して両サイドから両腕を広げ、走り迫る二人……マリチャパは駒のように高速回転して槍を振るうと……同時に顎を打たれてその場に倒れ伏した。


「ふわー目が回った……でもマリチャパの勝ち!! あっ!?」


「ひっぃぃぃぃっ!? あがっっ!!」


 俺は仲間が倒されて逃げようとする男の脚を引っかけて転ばせる。そのまま、 二丁拳銃ケルベロスの1丁を取り出してスタンモードで気絶させた。


「よくやった……と言いたいが最後の詰めが甘かったな。全員の人数覚えていたか?」


「ごめん、見える奴を倒せば良いと思ってた」


 俺達は軽く反省会をしつつ男達を拘束する……これだけの騒ぎがあっても誰も気付いていない裏通り、ネジコが選んだ通路なだけあるな。


「ううっ、何も喋んねぇからな」「俺は裏切らねぇ」「いでぇ、いでぇ」


 巨漢に潰された3人はまだ意識があったようだが、尋問にも屈しない姿勢を見せる……おっと、一人だけ違うか。


「あぁ、俺はそんな野蛮な真似はしない。暴力も薬も使わないクリーンな説得でお前達の目的を聞く事にするから安心しろ」


 俺はDSから金属の骨組みで出来ていて、所々に電球のような物が仕込まれている半円状の物を取り出す。

 真ん中にヘルメットのベルトのような物がつていて頭に被せる巨大な帽子のようなものだ。デザインは悪ノリしてレトロなデザインにしてある。


あるじ、それはなに? 新しい武器?」


「これはこいつらが俺達の質問に素直に答えてくれるようになる道具だ」


「へー」


 マリチャパはこの凄さは分かっていないようだ。

 まぁいい、俺は未だ口から何やら垂れ流しながら倒れているリーダーに近づくと……先に手を近づけてリフレッシュ機能を使い垂れ流されている何やらを除去してから……そのゴツイ帽子を被せた。


 すると帽子に付いているランプが点灯する……起動したな。初めて使うが、どうやら大丈夫そうだ。帽子を被ったリーダーは目を瞑りながらむくりと起き上がる。


「兄貴!? 大丈夫か変な物付けられて!?」「オイ兄貴、どうしたんだ!?」「いでぇいでぇ……」


 頭に変な物を付けられているリーダーが突然気絶状態から起き上がると、3人の取り巻き達は……いや、取り巻きの二人は懸命に声をかける。


「無駄だ、お前達の声はこいつには届かない……さて、質問しようか? お前の名前は何だ?」


「……俺は……サーンシータだ」


「「兄貴!?」」


 よし、上手く動いているようだ。取り巻きは素直に俺の質問に答えた様子に驚いている。


「それじゃあ、この女の子を攫ってくるように言ったのは誰だ?」


「……それは、ギーメイの旦那だ」


「兄貴、言っちゃ駄目だ!!」「お、お、おりゃ知らねぇぞ」


 秘密が次々に暴露されてゆきそうなこの状況に、取り巻き達は大慌てだ。


「そいつは誰だ?」


「……誰かは知らないが……貴族さまに繋がりがある……そう言っていた」


「そいつには今回何て言われた?」


「……男は殺して……女は……連れてこいって言われた」


「なるほど、それは何処へ……」




 こうして俺はこのアウトロー達に指示した奴の居場所を確認すると、そのまま待ち合わせ場所に向かう。


 騎士団近くの倉庫のようだが持ち主がよくわからないようになっている。その倉庫の中にいた一人の男を強襲して拘束、そして再びアウトローリーダーに被せた物と同じ帽子を付けて自白させると、その男がギーメイを名乗っているという奴だった。

 一応、アウトローには騎士団の身分を明かさずに偽名で接していたというわけだな。


 そして予想通りそのザメコバは禿げチャビンの命令でアウトローを使ってマリチャパを誘拐しようとしていたようだ。

 そしてこういった事を常習的に行っていたようなので、これはもう容赦の必要は無いって事だろう。


 俺はこれからの準備のために一旦戻る事にした。



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 次の日、騎士団駐屯所の前の広場に人だかりが出来ていた。広場には大きな看板が立ち、その足下に12人の男達が猿ぐつわを噛まされた他に手足を拘束され座っている。


 看板上部には偉そうな顔をしている騎士ハーゲン、その下にギーメイ改め騎士ザメコバ、その下にアウトロー11人の顔写真が写っており、それぞれの顔の横には過去に行った所業が書かれていた。

 そして看板に移る姿絵の精密さに人々は驚いている……まぁ、写真だから当然だ。


 また、親切な事に字が読めない人のため、広場いっぱいに聞こえる大きさで文章の内容を読み上げる声が看板から鳴り響いていた。


「おい、あのハーゲンって貴族の……」「騎士団って身分は関係ないって言っていたんじゃ……」「俺の知り合いの女の子があいつらに連れられていったのは……」「やはりお貴族様は俺達市民の事なんて……」


 最早、広場は既にお祭り騒ぎだ。


 既に足下の人間の拘束を解こうと駐屯所から出てきた騎士達が躍起になっているが、実はただの縄に見えるのは特殊繊維で簡単には切れず、一定時間で多少脆くなるよう設計している。

 さすがに看板は普通の物なので破壊は容易だろうが、それをすると一緒に声も止まる……この世界の技術じゃどういう仕組みで音が出ていたのか解析も出来ないだろう。


 せいぜい群衆にしっかりと事実が周知されるまで、そこで頑張って粘ってもらう予定だ。


「いや~悪い事ってのは必ずバレてしまうものなんだな~」


「エイジ、出来ればこういう事をするのなら、事前に相談をしてほしかった」


 広場の人だかりに紛れていたのに副騎士団長のソニアがこちらにやってきた……何でばれたんだ? その近づいてきた人物を見て周りにいた群衆が割れていく。


「いやぁ、そのつもりだったんですけど、昨日の帰りにいきなり襲われたもので……やはり自分の身の安全は自分で守れないと☆5冒険者になれないと思いますからね」


「本来なら注意をする所だが、あの者達が行っていた所業はあまりにも重い。あのような悪が滅びた事を良しとしておく……次は無いぞ」


「前向きに善処します……ところで、あの看板の主役はどこへ?」


「……既に本国へ強制送還されたよ」


 それはそれは……ざまぁされる本人を直接見れなかったのは残念だ。


 とりあえず犯人の特定が容易な段階で対処出来て良かったと思っておこう……どうせ遅かれ早かれマリチャパを見かければ行動を起こしただろう。

 そして俺達はおそらく冒険者として名を上げて目立つ事になるはずだからな。




 さて、面倒事は終了した……明日からはガッツリ目標に向かって邁進しなければ!!




______________________________________


途中で出てくる自白装置は映画「バックトゥザフューチャー」の、過去ドクが初登場時に被っていたやつのイメージです。

もっともあっちは思考を読み取る装置なので、自白させる事は出来ません……いや、思考も読み取れませんでしたけど。



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