開始 03

「ワレワールが滅びていない? 噂ではワレワールの王様がファーガスの建国式典に行って、そのまま宣戦布告して捕まったって聞いたぜ?」


「おまえっ!!? それを何処でっっ!!」


 マークスさんは声を荒げ、慌てて周りを見回しているけれど、むしろその声でみんなこっち見てるから。そしてコホンと咳払いをすると……


中央セントラルにはまだ戦争があった事すら情報は流れていない。ギルドには戦争の事実くらいは伝わっているが、お前のその話は上層部にしか回ってきていない……一体何処で知った?」


「アンドって奴にワレワールのお姫様を探せって言われてな……その後、たまたま偉い奴らの話を聞いたんだよ。今それはどうでも良いだろう、俺はその話を聞いてこの場合、王の資格とかどうなるのかなぁ~って気になったんだよ」


「はぁぁぁぁぁっ、これだから田舎の領主は困るぜ……その話は周りにはするなよ。そこまで知っていて他の奴に聞いて回られるのは困るからな……秘密厳守だぞ」


 俺とリリアは頷いた。マークスさんは神妙な顔で語り始める。


「本来なら現王が倒されて、大地中央の遺跡を押さえればその国は滅びて、攻めた側の物となる……だが、そうなっていないって事は、理由はひとつだろう」


「ファーガスで捕まった王が現王では無かった……だから、おそらく王位が継承されたお姫様をファーガスは必死こいて探しているってわけか?」


「そう言うこった……ワレワールのお姫様も今期の中央学院 セントラルアカデミーに入学するって話だから、中央セントラルのワレワール側の門を押さえておけばいずれ捕らえられると思われていたんだが、未だに捕まっていないらしい」


「でも、王の資格をまだ持っていないのに継承とか出来るのか?」


「一応、抜け道があるらしいぜ。例えば王が病に伏せった時に、万が一を考えて仮継承をしておいたりな……とは言え、仮継承した者が中央学院 セントラルアカデミーに入学できなければその仮継承は消滅だ。ファーガスもお姫様捜索に奔走している訳だ……しかし反対側の大地にまで捜索の手を広げるとはな」


「必死過ぎてで笑えるよな、卑怯で汚い手を使って侵略したのに詰めが甘いとか」


「おおいっ、国の批判は止めろよ……いくら俺達がファーガスの国民じゃ無くても、あの国の王族、貴族とかに聞かれたら、かなり面倒になるんだからな!」


「いや、悪い悪い、でも一般市民からどう見てもファーガス王国が悪者だろう……そういう評判って全然関係ないのか?」


「だからこの情報規制なんだろう……まぁ、規制できてないがな」


 ジト目で俺を見てくる。いや、それは情報を簡単に漏らした……という設定の……アンドが悪いんだろう。そんな目で俺を見るなよ。


「それじゃ、ワレワールのお姫様の中央学院 セントラルアカデミーへの入学資格ってまだ有効なのか」


「建前上はそうだろう……まぁ、今期の入学式に間に合わなきゃ仮継承と共に失効するだろうけどな」


「ふーん、それで逆に間に合ったらどうなるんだ?」


「ファーガスがガッチリ見張ってんだから無理だろう……まぁ、仮に間に合って入学出来ても暗殺されるのがオチだろう」


「暗殺されたら明らかにファーガスの仕業なのにか? それやった時点で他国から総スカンだろう?」


「自分も身を守れない奴に王の資格は無いって事だよ……で、こんな事を聞いて何がしたかったんだ」


「いや、お姫様見つけて家臣として入学出来れば冒険者のランク上げる必要ないかなって思ったんだけど、悪逆国に目の敵にされるんじゃな~。こりゃ地道にランク上げる方が良さそうだなって思い直した」


「お前言いたい放題だな……あの国に恨みでもあんのか? だが、それはそれで道は険しいぞ……何せ入学式まで約1ヶ月だ。未だかつて、1ヶ月で☆5になった奴なんてい……来年だったらまだ望みはあるぞ」


「俺達なら問題ない」


「……本当にやりそうで怖ぇな」


「わ、ワレワールの王は……どうなった……のじゃ?」


 堪えきれなくなったのか、リリアが質問をする……その表情はフードを深く被っているせいかよく見えない。


「ワレワールの王は……殺されたらしい」



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 そろそろ太陽の光がオレンジ色に輝き始める頃、仲間達と茫然自失なリリアを連れて外部アウターを歩いていた……マリチャパは心配そうにリリアを見ている。


 外部アウターの土地は、中央セントラル側の管理施設のような場所があり、格安で借りる事が出来た……これで住む場所は問題ないだろう。


 俺はネジコに調べてもらった、中央セントラルへの門に近く、殆ど人目の無い広場に到着すると、DSからコテージやコンテナハウスを設置し始める。


 既にムカチャパ族も慣れているのか各々が自分の家に入り荷物を置くと、広く残した中庭的な場所で夕飯の準備を始める。俺は調理済みの料理をどんどんDSから出して行くと、非戦闘員の女性達がそれをテーブルに配膳していく。


「みんな、今日はお疲れ様だ。明日からは本格的に行動開始だ。冒険者登録しなかった人も商人ギルドに登録して色々やってもらう事はあるから……とにかく、今日は食べてゆっくりと休んでくれ」


 俺の言葉と共に食事が始まった。今日のディナーはモンスターの合成肉から作った鳥っぽい唐揚げ&ライスにアンドの街で購入した野菜のサラダ、そしてコーンスープとなっている。

 食べ盛りは多いのでおかわりできるよう大鍋で出しているので、食べ足りない奴らが大鍋の前に行列を作っていた。


 そしてディナータイム開始から今の時間までリリアの前にある食器はなにひとつ動いていなかった。


「リリア、早く食べろ、食べないならマリチャパが食べちゃうぞ」


「……食べて良いぞ、妾は……食欲が無いのじゃ」


「うぅっ……」


 俺達は中央外部セントラルアウターアカデミーに入学すると言う事で、俺、リリア、マリチャパを含む5人はよく行動を共にしていた。

 中でも初対面の出来事が嘘のようにリリアとマリチャパは仲が良くなっていた。それだけにマリチャパはリリアの事が心配で仕方がないようだ。


「マリチャパ、後で俺が話しておくから、自分の分はしっかりと食べておくんだ」


「……うん、わかった」


 素直に返事をすると食事を再開する……だが、いつもの元気な様子は無い。やれやれ、どうしたものかな?




 ディナータイムも終了して夜……皆は自分の割り当てられたコンテナハウスに帰っていった。いつもコテージは俺とリリアとマリチャパが使っていたのだが、彼女にはカムチャパとアナチャパのハウスに泊まってもらう事にした。


 リリアがリビングのソファに座ってボーッとしている。俺は向かいに座ると一瞬だけ視線をこちらに寄せたがまた元に戻ってしまった。

 父親が死んだという事実にどんな慰めの言葉をかけようとリリアの悲しみを癒やす事は出来ないだろうと思い、それならいっその事ダイレクトに切り込む事にした。


「それでどうするんだ?」


「……何がじゃ?」


 気怠げにこちらに視線を送ってくる……よし、話を聞く気はあるようだ。


「国を取り戻すのは止めるか?」


「なっ、そなたは何を……」


「覚悟は出来ていたはずだろう? なのに何故そうやって座り込んでいるんだ……諦めたのかと思うだろう?」


 リリアはガタッと立ち上がると、初めて出会った時のように俺を睨み付ける。


「何じゃそなたは!! 妾がどれだけ……父上が死んだと聞かされて……なのにそなたは……何で妾に、そんな言葉をかけるのじゃ」


「リリアがただの女の子だったら優しく慰めたかもしれないな……でも、リリアは王女だ……民の上に立つ象徴であり指導者という立場だ……違うか?」


「くっ……そなたは酷い男じゃ、少しくらい慰めてくれたった良かろうに」


「俺達には時間が無い……1日だって惜しいんだ。リリアが自力で立ち直るまで待つ事は出来ない。

 だから無理にでも背中を押して歩かせる……もしも、立ち上がる事が出来なければ、リリア抜きで事を進めるほか無い」


「無礼じゃ!! なんなのじゃ……妾は王女じゃぞ!! もっと優しくしろ!! 何で慰めてくれぬのじゃ!!」


 リリアの感情がダムの水が堰を切ったようにあふれ出す。きっと自分でも支離滅裂な言葉を放っている自覚は無いかもしれない。

 彼女は俺の目の前に来ると握った両手を俺の胸に叩き付ける。


「妾は今まで一生懸命やってきたのじゃ!!」


 ドンっと再び叩き付けてくる。


「父上の期待に応えるために、民の期待に応えるために!!」


 ドンドンっと繰り返し叩き付けてくる。


「エイシャも誰もいなくなって……そなたしかいないのに……妾に……優しい言葉をかけてくれぬのじゃ」


 頭を俺の胸にトンっと押しつけてきた。


 その頭を優しく撫でてやりたくなったが、彼女はアイリやフレーナとは違う。いつ道が別れるか分からない人間だ……万が一にでも俺に依存してはいけない存在だ。


「俺はお前の家族でも部下でも恋人でも無い……対等な協力者だ」


「何でも無くは無かろう、そなたは妾に懸想しておるから……接吻したのであろう!」


 げっ!! 忘れられていたと思ったのに、思い出したのか!?


「あ、あれは自己紹介の時にも言ったが人命救助だ。薬を飲ませなければ死んでいたからだ……というか覚えていたのに黙っていたのか」


「夢かと思っていたのじゃが本当じゃったか……そうか、あれは夢じゃ無かったのじゃ……そうじゃ」


 カマ掛けられたのかよ……俺はこの手の事に引っかかりやすいなオイ。しかし何やらリリアが難しい顔をして呟いている……逆上して怒ってこないのは良いがどういう状況なんだ?


「……ふぅ、すまぬエイジ……もう大丈夫じゃ。いや、正直へこたれそうじゃが、今はやせ我慢の時じゃ」


 顔を上げたリリアはいつもの自信に満ちた表情だった。何かリリアのスイッチが切り替わったのかもしれない……何にせよ前を向いて立ち上がったのだ。


「ああ、それでこそ王の資格を持つに相応しい、立派な人間だ」


「ふむ、そうじゃ……そうじゃ、もっと褒めろ……慰めてくれぬのなら、もっともっと妾を褒め称えるのじゃ!!」


「リリアは偉い!! 凜々しい!! 神々しいぜ!!」


「そうじゃろそうじゃろ……他には?」


「まさに妖精!! 世界一美しい女神!!」


「んふふふふふ、もっと、もっと褒めるのじゃ!!」



 ……その夜、俺はリリアの事をこれでもかというくらいヨイショさせられたのだった。




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