初陣 09

 1週間の訓練もいよいよ終わろうとしている。さすがに全国から選び抜かれたエリート達だけあって、戦闘用EXT イクストのマニュアル操作も問題なくこなせるようになっていた。

 白兵戦が得意で無かった奴らも本物の戦闘さながらな死にゆく痛みを伴う訓練のお陰で実践で戸惑うことは無いだろう。そして死を疑似体験した俺達は、例え相手が人間であろうと躊躇はしない……さもなくばあの恐ろしい疑似体験が本物になるのだから。


 俺? 白兵戦は下から数えた方が早く、数回しか勝っていない。何度擬似的に死んだかも思い出せない。射撃武器だけの相手なら何とか命中精度と回避力で俺が勝った感じだ。


 何にせよやれる事はやったと言えるだろう……厳しい訓練を終えて俺達の初陣が明日に迫っている。皆の顔には緊張の色が見えている。



「あー緊張するな~」


「エイジ、そう思うならもっとそれっぽく演技してよ~」


「いや、何か俺だけ仲間はずれみたいじゃないか」


「おいおい、そもそもフレーナも普通にしか見えないぞ」


「やだな~乙女は心の内を簡単に表へ出したりしないんだよ! ね~アイリ」


「そうね、でも変に緊張するより全然良いと思うわよ」


「乙女www あだっ蹴るな!!」


 フレーナが遠慮無くガットを尻キックする。白兵戦訓練でこれ以上無い痛みを知った今、容赦が無くなっているようだ。


 俺達のチームは特に緊張した感じでは無いな。何というか大会前の空気感が近い気がする。いくら現実だゲームだって言ったって結局やることは同じだからな。ただ、失敗したら死ぬって所は怖くはある。


 だがEXT イクストさえあれば絶対に死なないという確信は未だに消えていない……自分でも何故こんなに自信過剰なのかと不思議に思う。

 でもこのくらいの気持ちでちょうど良いだろう……俺の手の届く範囲で仲間を死なせたりはしないぜ。




 そして……いよいよ時間となった。



 部隊ごとにブリーフィングルームへ集まっている。人数は約120人程か? 仮想現実世界かこの知識に当てはめれば中隊規模の部隊といった所か?

 この人数の作戦は……ゲームでは99vs99の大規模戦闘までで……経験したことがない。全体の作戦内容とベテラン勢各小隊? の役割が次々と提示されてゆく。


 簡単に言うと今回の作戦は施設の奪還だ。各銀河で巨大な連合を組んでいる『ギャラクシーアーク』。だが世界は、銀河は一枚岩で無く。人類の敵である『ヴァルシアン』がいる今も人間同士の争いを止められないでいる。


『神聖エルスタリア銀河帝国』……今回の敵勢力だ。初めての相手はエイリアンでもモンスターでも無く人間だ。


 自らの神を最上とし、それを認めない勢力を異端者と称して侵略を繰り返し領土を伸ばしているやっかいな国だ。いつの時代、どの世界でも宗教はやっかいなのだ。


 そして今回の俺達覚醒者を迎えるための準備、防衛戦力が一時的に抜けた隙を見計らって資源惑星を占拠してしまったようだ。どうにも内部にスパイが潜り込んでいる様な話をしているが、そんな事は俺達に関係ないけどなガッハッハッと隊長は笑っている。


 今回、資源惑星の主なエリアを同時に強襲をかけて取り返すという作戦のようだ。俺達の仕事はその取り返したポイントを戦闘終了まで防衛するというもので戦闘は無いとの事だ。


 拍子抜けではあるが、いきなり初めての戦いで新人を投入は無いらしい。「とりあえず戦場の空気を感じておけ」という有り難いお偉いさんのご指示なのだ。


「万が一、敵を目の前にしても躊躇をするな……もっともお前達は自分と仲間の命を優先出来る人間だからこそ、この場に覚醒者として立っているんだぜ」


 そう言う事なのか……俺はこの世界で目覚めてからEXT イクストで戦い相手を倒すかもしれない事に何の躊躇も感じなかった……ぶっ壊れているのは俺だけじゃ無かったのは少し安心か?


「本来なら俺も大暴れしたい所だが、大事なお前達の御守おもりをしないといけないから一緒に留守番だ」


「戦闘が無いと言っても気を抜くことがないようにな。そういう奴から順番に死んでいくんだ……それでは各自持ち場にて待機!!」


 隊長と副隊長の有り難いお言葉をいただき、ブリーフィングは終了した。




 今回の作戦は全員EXT イクストでの参加で基本的に白兵戦は無い。俺達は旗艦からヴィーナス級戦艦に移動、そして更にその艦内に搭載されている輸送戦船プルート……プルート級というクラスが過去にあったのだが、同クラスの戦艦が増えて準戦艦扱いとなり、○○級という呼称は無くなったのだが、名残でプルートと呼ばれている……に搭乗した。


 俺達は輸送戦艦に詰まれているEXT イクストで指示があるまで待機となる。俺達に与えられたEXT イクスト『ヴォルトナイト』。ゲームではRPGパートをある程度進めると手に入れることが出来るカスタム無しのEXT イクストでは最強の機体と言って良いだろう。

 騎士の甲冑を彷彿させる勇ましい姿。SOFユーザーは強さ以外も格好良さでこのEXT イクストを好んで使う人も多い。


 本来なら指揮官クラスの為の特別な機体なのだが、エリート集団であるこの独立遊撃部隊の標準EXT イクストというのだから贅沢な話だ。


 そして俺は今自分の機体に目を向ける……カボチャのような王冠、括れたウエスト、殆ど足を覆い隠すような真ん中から割れたローブスカート。手にはいかにも魔法使いと言えそうな杖のような武器。


 俺のEXT イクストだけ『フェイタルウィッチ』だった。遠隔操作できる誘導兵器を操る特殊機体。


「ねぇ、なんでこのEXTにしたの?」


 不思議そうな顔でこちらを見るアイリ……別に魔法少女が好きだからとかじゃ無いぞ。


「念の為だ。ヴォルトナイトは1対1では強いんだけど、広範囲を守ろうとすると手が届かないからな」


「心配性なのね……私達の作戦はお留守番なのよ」


「だから念の為だって。用意した秘密兵器を使わずに済むといいけどな……おっと、そろそろコックピットで待機だ、また作戦の後でな」


 俺は床を強めに蹴ると『フェイタルウィッチ』のコックピットへと飛んでいく。宇宙航行中のEXT イクストのハンガーは低重力となっているため、エレベータで上がる必要が無いのだ。


「エイジ」


「ん? うわっ!?」


 名前を呼ばれて振り向いた途端にアイリが俺に飛びついてきた。そのまま開かれたままのEXT イクストコックピットに二人で飛び込む形となる。だが勢いは止まらずに俺はコックピット内の壁面に頭をぶつけた。


「いてて、どうしたんだよアイリ……んっ!?」


「んっっ……んっ、ぷぁ……エイジ……気をつけてね」


 いきなり情熱的にキスをされる。不意打ちで軽くされることは度々あったがこんなに熱烈なのは久しぶりだ。


「俺は絶対に大丈夫だし、アイリも……仲間も絶対にやらせはしない」


 アイリの瞳を強く見つめながら頬をそっと撫でていると彼女の唇が再び近づいてきた。俺達はしばしの別れの時間を過ごしたのだった。




「さて、そろそろ先発部隊が強襲フェイズを終了させている頃のはずだ」


 コックピットの中で大雑把な戦況報告が入ってくる。どうやら俺達の担当する施設の奪還は成功したようでこの艦も惑星へ降下するようだ。よく考えたら軌道エレベーターで宇宙へ上がったけれど、降りるのはもろに大気圏に突入するわけだよな……むしろそっちの方が緊張するぜ。


 モニターで状況を確認すると既に降下を開始しているようだが、EXT イクストのコックピット内では重力の影響を殆どカットする為か揺れを全く感じない。強襲部隊は既に引き上げて他のエリアへ援軍として向かったようだ。

 どういう仕組みなのか想像も付かないが揺れで気分が悪くなる奴もいるかもしれないし良しとしておこう。




 惑星への降下が完了し、目標上空に船がたどり着くと足下の床が開く。EXT イクストをマウントしたアームが開くと俺達は地面に向かって急降下を始めた。ゲームでは感じた浮遊感は無い……少しは残しておいても良かったんじゃ無いかと思いつつ、地面が近づいてきたタイミングでバーニアを噴射してゆっくりと着地した。


『しっかりと付いて来れたようだな、各機、指定の位置にて待機。指示があるまで索敵を続けろ』


 視界に表示されたマップに自分の担当するポジションのマーカーが打たれている。俺はバーニアを噴射して指定の場所までひとっ飛びした。この『フェイタルウィッチ』の挙動はやや慣性が掛かるようなモッサリとした動きで慣れないと余計な移動をしてしまったりとかなり癖がある。


 しかし俺は一発で指定の場所に着地する……当然だけどな。


『ほぅ……散々だけあるな。見事な機体制御だ』


「お褒めいただき光栄です副隊長」


『与えられたハイクラス機を使わずに汎用機を選んだ時は何を考えているのかと思ったがな……まぁ、せいぜいあたし達に楽をさせてくれよ』


「了解です」


 いきなり副隊長がメッセージ入れてきて焦った。でもまぁ悪い感触では無いから良しとしよう。俺の周りのEXT イクストも戸惑いつつ所定の場所に着いたようだ……後は完全に作戦終了までここで待機。


 俺達は所定の施設を囲み外敵から守るように配置されている。施設自体はだいぶ前に白兵戦部隊が突入して敵は排除済み。現在は施設のシステムを点検中らしい。俺達の立っている場所は障害物もない平原のような場所だ……敵が攻めてくればレーダーを見るまでも無く一発で分かる。


 そもそもこの施設はイクシアを利用した転送ゲートの研究施設のようで、その技術奪取が敵の狙いだったようだ。ゲームでは当たり前のように出来た技術が実は難しいらしく、使用自体は問題ないのだが消費するイクシア量が膨大らしく、便利な移動手段として使うことが出来ないようだ。

 現在はその転送に使うイクシア量をいかに減らすかを、イクシアが豊富なこの惑星で研究していたらしい。




 俺達が所定の位置に付いてから30分ほど経過しただろうか? 現在も大雑把な作戦状況が視界に表示されている。どこも予定通り作戦が進行されているようだ。仮に手強い相手がいようと、まだ予備戦力もあって負け様がないだろう。

 それこそゲームの世界じゃないのだから突発的ピンチになるようなイベントが起こるはずも無い……あ、これはフラグじゃ無いよな?


『緊急連絡です!! 現在施設の最下層に到着、イクシアゲート制御コンピューターを発見したのですが、今現在も稼働中です!! ああっ、ゲートからイクシアエネルギー反応が増大しています!!』




 ……そして俺達のいる施設の上空に6隻ほどの輸送戦艦が現れた……いやいや、俺のせいじゃないよな?




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ロボットアクションものなのに初陣で何も起きなかったお話にならないですよね!


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