初陣 10

 上空に現れた輸送戦艦からEXT イクストが降下してくる。白いボディに大きな翼を背に持つ『神聖エルスタリア銀河帝国』産の新型EXT イクスト『エンジェリヲン』。


 RPGで敵として出てくるEXT イクストで、アーケードモードで後から実装された機体だが、幾ら運営に要望を出してもプレイアブル機体にならなかったEXT イクストだ。


 現実世界で敵勢力のEXT イクストなのだから駄目って事なんだろうな……しかしマズいな、ゲームと同じなら完全に空中戦、あるいは空中から地上を攻撃するのに特化したEXT イクストだ。

 元々この惑星施設を強襲した敵の機体は普通の地上用EXT イクストだったらしいので、新型をこれだけの数投入する事は予想していなかったようだ。

 こちらも遠距離武器を装備していれば『ヴォルトナイト』で戦えるだろうが、配属されたばかりのノーマル状態では装備は近接武器『ナイトソード』防御『ナイトシールド』中距離武器『ヴォルトショット』だ。遠距離武器をもつ『エンジェリヲン』と対峙するには分が悪い。


『総員、指定したポイントに待避だ!! ソニア、新人達ひよっこどもを任せるぞ!!』


『了解、お前達!! 急げ、訓練を思い出せ!!』


 イェーガー隊長の決断は早かった。新人だらけの俺達に出来ることは少ないという事で、近くにある高台を待避ポイントに指定する。高台とはいえゴツゴツとした遮蔽物となる岩も存在するので、この真っ平らな場所よりは断然マシだろう。


 さすがに俺の『フェイタルウィッチ』でも全部隊をフォロー出来ない……欲張らずに仲間達だけに専念しよう。

 俺はいち早く高台の頂上に機体を着地させた。既に施設近辺での戦いは始まっていて、敵EXT イクストの上空からの攻撃に味方部隊が晒されていた。


 苦戦しているかと思いつつもさすがのエリート部隊。地上から牽制する機体とジャンプして攻撃するカスタム機で連携を取って敵と戦っている。


 しかし、敵の輸送戦艦からはまだまだ敵が降下してくる。全部の船に30機のEXT イクストが搭載されていれば大隊クラスに届くくらいの数になるだろう。


 中隊規模の味方部隊では数で押されるかもしれない。しかもそのうち60機ほどは初陣のひよっこ達だ。ちなみに俺はひよっこでもヒクイドリの子供って所かな?


 多勢に無勢、残った部隊で全ての降下するEXT イクストを抑えきれなくなってきた。そして敵の一部はこちらを捕捉して向かって来るようだ。


『来るぞ……無理に当てようとするな。防御を固めて牽制程度に止めておくんだ!! ……まだだぞ、引きつけろよ!!』


 初陣だが腐っても全国から選ばれたエリート達。副隊長の言うことを良く聞いて守りを固めている。


 敵の攻撃が飛んでくる。武器はどちらの軍も使っている『イクシアライフル』。イクシアのエネルギーを攻撃に変換して撃つ長距離攻撃の銃だ。銃の種類によってビームやレーザーなど……SOFでは属性と言われていた……違うので、適切な防御をする必要があり、苦手な属性の防御兵器だとすぐに破壊されてしまう。


 守りをしっかりと固めている『ヴォルトナイト』の盾はしっかりとライフルの攻撃を防いでいるので、属性は問題無さそうだ……とは言え、こちらの攻撃が届かない位置から一方的に嬲られると焦ってくる。


 相手の何機か味方EXT イクストの武器が中距離武器だけだと気づき、空中で静止し射撃を始める。


『嘗めるなよ、落ちろ!!』


 そしてその愚かな行動を副隊長は見逃さずに、敵と同じ『イクシアライフル』で数機を撃墜する。


『やった!! ざまあ!!』『すげー、いっきに3機も撃墜した』『さすが副隊長!!』


 味方の士気が上がる……やはりファーストアタックは重要だな。


『油断するな、敵はまだたっぷり残っているぞ。味方が来るまで耐えろよ新人ども!!』


 味方が撃墜されてから敵も油断しなくなったのか絶えず戦場を飛び回り、攻撃してから飛び去り、更に反転して再び攻撃と射程の長さを生かして安全距離からジワジワといたぶるように攻撃してくる。


 唯一、遠距離出来る副隊長の機体も毛色の違う敵のカスタム機に集中攻撃を受けて思うように反撃が出来ないようだ。


 ちなみに敵の攻撃は俺の所にメッチャ飛んでくる。まぁ、盾でガッチリ防御している中で、盾も持たないEXT イクストがいたら鴨に見えるだろう。だが俺はそれを軽く回避、フワフワ回避&クルクル回避すると、どうやらおちょくられたと思ったのか10機くらい集中して攻撃してきた。いや、この挙動はこのEXT イクストではデフォルトなんだぞ!!


『うわぁ、盾が限界だ!!』『だ、誰か!!』『ぎゃあ、被弾した!!』『もうだめだ!!』


 そろそろ味方も限界か? なるべく敵を引き寄せてからにしたかったが、出し惜しみをしてもしょうがないな。次に敵をやり過ごしたら反撃開始だ。


「アイリ、ガット、フレーナ……俺のフォローよろしく、なんだかすっげー撃たれてるんだよ」


『そりゃそうだよ~ エイジの回避は挑発してるようにしか見えないもん』


『見てて面白いけどな、絶対に敵さん顔を真っ赤にして怒ってるぞ』


『ほら、あなた達、早くエイジの近くに来なさい』


 俺の『フェイタルウィッチ』が両手を広げると、その手元に新しい『ナイトシールド』が。イクシア耐性 (弱)を施した、さしずめ『ナイトシールド改』と言った所か?


『よ~し、これで心置きなく防御に専念出来るね』


『まさか、こういう使い方をするなんてな』


『エイジのやる事は本当にいつも驚かされるわ』


 俺は自分のDSの中から新しい『ナイトシールド改』を取り出したのだ。そう、俺がDSを拡張した理由はこれだ。


 本来はDSは生身でしか使うことが出来ない……と思われていた。過去にEXT イクストの機乗した状態でDSから装備を取り出してパイロットごと機体が大爆発を起こしたという悲惨な事故があった為、EXT イクストの中にはDS使用出来なくなるリミッターが設けられている。


 だが俺はDSの容量をあり得ないほど拡張する事と、人機一体とも言えるほどの精度でEXT イクストを制御出来る能力を鍛え上げた事によって、安全に完璧にEXT イクスト内からDS使用出来るようになった。


 いや~、これを出来るからリミッター外して貰うのには苦労した。隊長、副隊長に嘆願して、技術者を交えて検証して貰い俺なら100%安全のお墨付きを貰ってようやく可能になったんだよな。

 あと、情報は秘匿されていたが、どうやら俺と同じ事を考えて成功させた頭のネジが飛んでる奴もいたらしい。


 おっと物思いに耽っている間に俺の周りを両手に盾を装備した『ヴォルトナイト』が囲んだ。


「頼りにしているぜみんな。これで防御は完璧、あとは……反撃開始だ」


 『フェイタルウィッチ』のカボチャ帽子にある複数のスリットが開くと勢いよく何かが飛び出していく。この機体特有の兵器……遠隔誘導兵器があるのだが、ただの兵器じゃない。


「行け『インビジブルファミリア』!! 全ての敵を屠れ!!」


 俺の命令を受けた何かは空へ舞い上がってゆき、そして戦場に飛び去って行った。



『うわ、もうだめだ限界だ!!』


 いくら優秀な操縦技術と腕を持っていようと延々と敵の攻撃に晒されていればいずれ限界は来る……物理的にも……精神的にも。

 『ヴォルトナイト』は半壊した盾を空に向けながら、ライフルを構える天使の姿を見て絶望的な気分を味わっていたのかもしれない。


 だが、次の瞬間爆発したのは『ヴォルトナイト』では無く、空から地上にライフルを向けていた『エンジェリヲン』だった。


『あ、あれ? 助かった?』


『ヴォルトナイト』のパイロットは夢でも見ているかのように助けてくれた仲間を探しているようだった。


 そして同じような現象があちこちで起こるようになる……次々と敵の『エンジェリヲン』達が倒されていくのだ。まぁ、俺がやっているんだけどな……俺は今、人間の命を奪った……だが、そのかわり仲間の命を救ったんだ。


 ……迷いはない……次に俺達の命を脅かそうとする奴は誰だ!?




□□□ 資源惑星アクリスファ、研究施設97区上空 (10分前):ゼルファ □□□




 本来の作戦は資源惑星を占領後、敵の増援が来る前に施設のゲートを利用、そして敵に備える予定だった。


 だが、何と言う事だ、異教徒どもはハイエナのように作戦を嗅ぎつけたのか、既に施設が奪還された後のようだ。


 既に基地内の同胞達の応答は無く基地の周りを異教徒どもが囲んでいる。おお、我が同胞が最後に命をかけて繋いだこのゲートを無駄にしては主の御心に背く事になるだろう。


 異教徒ども……その傲慢な行い、死を持って償うがいい!!


 既に降下した同胞達はそれぞれ接敵した相手を攻撃しているようだ。どうやら我が相手はもういないようだ……む、遠方にも敵集団がいるようだ。まさか怖じ気づいたのか?


 どちらにせよ異教徒どもは全員生かしておく訳にはいかない。


「行くぞ、我ら使徒が主の名にしたがい異教徒どもを殲滅するのだ……我に続け!!」


 我が主からあたえれし天使『エンジェリヲン・ツヴァイ』は使徒専用のカスタム機体。異教徒どもの木偶人形では相手にもなるまい。


「我が神の軍勢の力、とくと思い知らせてくれる!!」


 我が部隊は敵に強襲をかける……が、なんとも歯ごたえのない。鈍亀のように守りを固めるだけで反撃すらもしてこない。いや、動きの統制が甘いな……さては話しにあった覚醒者とやらか? つまりはまだ雛鳥と言う事か……まだ異教徒どもの醜悪な文化に染まっていないのなら改宗して同志として招くという選択肢もあろう。


 我は同胞に殺さぬよう、しかし油断せぬよう指示を出す……だが、我が意志を読めぬ同胞が地上からの攻撃で命を落としてしまった。おのれ異教徒め……見ると改良を施していない木偶人形に改良木偶が混ざっているようだ。奴が指揮官か? ならば一騎打ちにて敵の士気を地に落として見せよう。


 我は同胞に手を出さぬよう命ずると、敵指揮官の木偶人形に向かって武装を展開した。我が機体『エンジェリヲン・ツヴァイ』の持つ『ハイロングレンジライフル』と翼から圧倒的なエネルギー弾を発射する『ウィングブリッド』、この二種類の武器を使い攻撃を開始する。


「どうした、動かねば命が消えるぞ……貴様のような異教徒の命でも主は温かく迎えてくれるであろう」


『はっ、存在もしない張りぼての石像をありがたがるお前らの気が知れないね!!』


 なんと!? 木偶人形に乗っているのは女だ……何とも汚らわしい。曲がりなりにも我らの神を模倣した天使もどきに乗っているというのに、聖戦の場に女を連れてくるとは……やはり異教徒どもとは相成れぬ存在だ。


 汚らわしい女など改宗する必要も無い、我が手でその薄汚い命を散らしてくれよう!!




 攻撃は一方的だ……我の攻撃を健気にも躱していた木偶人形は、部下の様子を気にするあまり我との戦いに集中出来ていないようだ。やはり所詮は汚らわしき女の身……聖なる戦いの場に相応しくないようだな。


 既に相手の木偶人形の足は砕かれ、移動もままならないようだ……さて、ひと思いに命を散らしてやろう。それが我が出来る慈悲というものだ。


 我が止めをさそうと背中にマウントされていた長槍『ダムネーションランサー』を構えるとそれは起こった。

 同胞が……我の大事な同胞達が一気にその存在を消失させたのだ!!




 次々とレーダーから同胞の反応を示す光が……命の光が消えて行く……一体何が起こったというのだ!?




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伏線の正体はお馴染みのアイテムボックスをロボット状態で使うというものでした……バレバレでしたね。


ちなみにフェイタルウィッチのデザインはバーチャロンのエンジェランに大きなカボチャ型王冠帽子をかぶせた感じのイメージです。

エンジェリヲンはエヴェンゲリヲン(今更ですが名前にてます)の旧劇場版量産型エヴァのボディに3号機の顔でイメージしています。


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