初陣 06
ファクトリーから帰った俺は割り振られたホテルの部屋に戻る。しばらくすると来客のコールメッセージが表示される……アイリにはこの部屋番号を教えていたっけ? とりあえず扉を開けた。
「アイリか?」
「残念~ボクでした~」
悪戯成功! 的な顔をしているフレーナの隣から良い笑顔な男が続いて顔を出す。
「アイリか? (キリッ) とか、どんだけ日常の当たり前になってんだよ……って待て待て」
黙って扉を閉めようとしたがガットが足をガッと突っ込んで止めてきた。二人の後ろで申し訳なさそうな顔のアイリが顔を出す。
「ごめんなさい、最近は訓練以外で顔を合わせないし、久しぶりにどうかって誘われたの」
「うーん、そう言われればそうか……このまま初期任務以降はいつゆっくり出来るかも分からないかもしれないしな」
「話が分かるじゃないか……今日は飲んで語り合おうぜ」
ガットはDSから炭酸系飲料を取り出す……これはビールと同じエフェクトを楽しめる飲み物だ。身体に負担をかけずに酔った感覚を再現する事が出来て、どれだけ酔うかは事前にボディモニタリングアプリで設定可能だ。
みんなを部屋に入れテーブルに案内すると、俺は人数分のコップを用意する。既にガットは買ってきた大量の飲み物とつまみを広げていた。
「会話に支障が無い程度に気分が高揚する設定にしておこう」
「ボクは甘いのが良い~」
「分かってるぜ、女性にも人気なカクテルやサワーもあるからな」
「あなたはすぐに貴重なイクシアを使うんだから……あとで割り勘するから、いくらか教えなさいよ」
……こうして初陣前のささやかな交流が始まった。
「え~、本気でマイファクトリー作るの~? あれ冗談だと思ったのに~」
既に空になった容器が何本もテーブルに……更にテーブルから転がって床に落ちている。最初はお行儀良くコップを使っていたが、いちいちコップに注ぐのが面倒になったのか直接飲むようになっていた。
コップのタッチパネルボタンを押すだけで中がリフレッシュされる高機能が形無しだ。
「5年とか待つの無理だしな~ ファクトリーの人にメッチャ止められたけど、絶対に作るぜ」
「おぉ~ じゃあ俺の剣も作ってくれよ~」
中身が入った容器を振り上げ、少し溢しながらガットが要求してくる。飲み物を振り回すな、こっちに飛んでくる。
「まかせれ、お前達の装備は優先的に作ってやる」
「わーい、エイジだいすき~!!」
フレーナがふざけて抱きついてくる……テーブルに乗っている空の容器がまたいくつか床に落ちる。むむむ、何か凄い柔らかい何かが凄く当たっているぞ? あいた……アイリがつねってきた。何故不埒な事を考えている事が分かった?
「俺も好きだー!!」
ガットが俺に襲い掛かろうとする前に足で顔を押しのける。大男の抱擁とか誰得だよ!!
「やめれ、お前絶対アプリの設定おかしいだろ!?」
「あなた達、これは私のよ……フレーナ、その手を離しなさい」
アイリがフレーナの反対側からきゅっと抱きついてくる……フレーナの手をぺちぺち叩いて牽制しているようだ。むむむ、何か柔らかい何かが……
「いやだ~ずるい~」
抱きつく腕の力を強めるフレーナ……幸せな柔らかさが俺を包み込む。
「そうだぞ、横暴だぞ!!」
抱きつく隙間を探さがすガット……おぞましい悪夢がにじり寄る。
一応本人の名誉のために言っておくが、こいつにそっちの気はない……ただ友情を感じると「心の友よ!!」とか言って抱きついてくるタイプだ。
「ウザい、絡むな!! 全員一旦リセットしろ!!」
「「「いや!!」」」
一旦酔いをリセットした後、みんな落ち着いたのか穏やかな会話が始まった。
「それで訓練所で稼いだイクシアの半分以上も使ったの?」
アイリが少し頬を赤らめ艶っぽい瞳で見つめてくる……ちなみに今度は皆コップを使って飲み直している。
「おう、思ったより安く済んだ……と言ってもハイクラスの
「えーと、それって幾らくらいだ? ちょっとこっそりお兄さんに聞かせてみ~」
「それはな……ごにょごにょ……くらいだ」
「まじかーーーっつ!? お前凄い金持ちだったのな!? シャチョさんデスカー」
一旦リセットしても酔ったガットのキャラは訳が分からない。勢いに任せて酒をコップにドクドク注ぎ足している。
「ふっ、過去形だけれどな……」
「えー? じゃあ残りはレベルアップに使うの~?」
「いや、ファクトリー以外に殆どDS拡張につぎ込んで更にファクトリーの1個や2個程度は楽に入るくらいにしてある」
「ちょっと!? 思い切り良すぎよ、近接戦闘はどうするの?」
「多分、俺は
俺はその試みが成功したら、更なる高みに達すると期待に胸を膨らましている。シミュレーターでは出来なかったが実際の
「もう、その顔をする時はいつも驚かされる時だわ」
「んふふふ~ 何するのか楽しみだね」
「いや、俺は今度こそ驚かずに耐えてやるぜ」
「ガット~ それは驚きフラグだよ~」
「なにおぅ~」
……そんなこんなで気の置けない仲間同士の夜は更けていくのだった。
翌日から次の予定日まで俺はアルバイトを始める事にした。がっつりシミュレーターで訓練しまくるのも一つの手だけど、仮想の訓練と僅かばかりのイクシアを稼ぐよりも、更に効率の良い方法だったからだ。
「軍のお偉いさんがやる仕事じゃ無いんだけどねぇ」
『安全第一』と書かれたヘルメットに作業着っぽい黄色のボディースーツを着た中年男性が戸惑っている。
「いえ、俺達はまだ実物の
「そうかい? そう言う事ならしっかり頼むよ」
基地外、宇宙空間のデブリ回収、資材運搬のアルバイトだ。この作業には専用
「ここに来ているのボクたちだけみたいだね」
「本当によくこんな仕事見つけたわね」
「さすがエイジ、
「おお、追従とかガットは難しい言葉を知っているな」
「だろう? インテリっぽいだろ俺」
「そうだね~ インテリインテリw」
チームの皆を誘ってみたら喜んで着いてきた。初陣前の貴重な実戦経験……一応事前に実戦訓練の時間は挟むらしいが……かつイクシアもシミュレーターより断然稼げるチャンスを逃す手はない。
『あれ~ これ操縦桿がゆるゆるなんだけど~』
「使い込まれているし、レバーに遊びがあるから深く倒さないと入力が受け付けられないな」
『専用機が決まるまでは共用の
『あれ? これブーストペダル……ゲージも無いぞ?』
「作業用
全員、作業用のイエローボディー、腕は長いがずんぐりした体型の
『いやーやっぱり軍のエリートさんは違うねぇ~。普通はこの作業、1週間くらいかけてようやく覚えられるか? って内容なんだけどね』
「ありがとうございます、教え方が丁寧でわかりやすいからです」
『お世辞でも嬉しいよ。でも今日は念の為、4人まとまって作業してね。何かあったらすぐ連絡するんだよ』
『『『「了解しました」』』』
俺達は4機まとまって移動する……俺以外はオート制御をオフにした移動は慣れないのでちょっと歩き方が危なっかしい。移動を続けると予定していた資材置き場……資材専用のファクトリーの側、山のように金属板の資材が並べられている……にたどり着いた。
『おお、ここだな? これを運べば良いんだな?』
『たしか二人で10枚くらい同時に持てるっていってたね~』
『10周くらいすれば終わりそうね』
良い感じに人目はない。手前の資材ならカメラに映る事もないだろう……よし、早速試してみよう。
「ちょっと試したい事があるんだ、少し離れていてくれ」
『うん? わかった』
全員俺の
『え? お、お前!? 何やったんだ!?』
『まさかエイジ、その為に……信じられないわ』
『え? え? 何それ? うそ!?』
ただ資材を回収しただけなのに皆は大げさに驚いている……とりあえず成功だな。逆に資材を置いてみたが問題なかった。普通の軍用……戦闘用
「よし、これなら俺の思った事が出来そうだ」
『本当にあなたは信じられない事をするわ……下手したら命に関わるのよ』
『こんな事試すのエイジくらいだよ!』
『すげー、すげーけどこれが何の役に立つんだ?』
「まぁ、それは後でのお楽しみだ……それよりこいつを運んじまおう。そして余った時間を練習に使わせて貰おうぜ」
俺達は仕事をこなしつつも余った時間を仲間達は
……こうして瞬く間に1週間は過ぎ、基地を旅立つ時がやって来た。
______________________________________
主人公がなにをやったかバレバレかもしれませんがネタバレや予測コメントは無しでお願いします。伏線回収も少し後になります。
面白かったら★★★、フォロー、応援、レビューなどなどお願いします……物語を紡ぐ原動力となります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます