初陣 05

 施設で座学、訓練などをみっちりと1ヶ月掛けて行った。訓練結果から順位なども容赦なく情報公開されている。


 総合1位はアーサーだった。あいつは座学、近接戦闘、EXT イクストの全て高水準の成績をたたき出している。次点でアイリだ……アーサーとはEXT イクストで差が付いているようだ。多分アーサーはちゃんと筐体でプレーしていたんだろうな。


 アーサーの近接戦闘は強い。守りを中心に強烈なカウンターを叩き出すスタイルで、まともにダメージを与えられるのは俺達のチームでガットとフレーナくらいだろう。ただし1対1になるとフレーナは近づかれるとアウトだから、そう言う意味ではガットくらいしか勝てないだろう。


 そんなガットは座学が残念な結果になっているので総合成績はそれほど良くは無い。


「俺は剣一筋!!」


 おまえ、学校ではその剣とやらもパっとしなかったんじゃ?


 俺? 俺の近接戦闘はお察しという奴だ。装備出来る武器が弱すぎて話にならない。イクシアを使ってレベルを上げれば強力な銃を使えるようになるのだが、この後いったい何にどれだけイクシアが必要になるか未知数だ……可能な限り温存しておきたい。


 ……とは言えEXT イクストの成績が抜きん出ているので、かろうじて総合TOP20には入っているから全体で見ればそう悪いわけでは無いだろう。




 いよいよ今日は訓練の結果、成績を元に配属先が決定される日だ。皆が初日に集まった講堂へ集まっている。各々がどこへ配属されるのか、期待と不安が半々といった所だろうか?


「あなたはいつもと変わらないわね、エイジ」


「そうか? こう見えても緊張しているぞ」


「絶対嘘だ~」


「お前が緊張している所なんか見た事無いぜ」


 酷い言われようだ……俺だってEXT イクスト戦で緊張する事だってあるかもしれないだろう? そんな事を話している間に講堂の舞台上に初日にのおっさんの立体映像が現れた。


おっさんの有り難いお言葉が終わった後、視界に配属先の情報が提示された。どうやら、俺達の配属先は最前線でも惑星開拓地でも無く、どこへでも行って何でもやる遊撃部隊のようだ。


 要はSOF……ゲームのプレイヤーと同じ立場って事だ。


 もちろん全員では無く、俺達『C07』と、次に高い能力が評価された『C03』のクレイシュが遊撃隊に所属となった。


 一応、設定的にはエリートだけが所属する遊撃部隊だという事で、みんな素直に喜んでいるようだ。まぁ、俺はEXT イクストに乗れさえすれば文句は無い。


「やったー、またみんなと一緒だね」


「ああ、大丈夫だと聞いていても、俺だけ頭悪かったから別所属にならないか不安だったぜ」


「そんな事言われたら俺は近接戦さっぱりだからな」


「でもエイジ、密かに強くなったって言っていなかった?」


 あまりお披露目する機会が無くて忘れそうになるが、ある程度強力な銃を装備すれば生身でもそれなりに戦える……のだがそれを知る人間は少ないし、俺もEXT イクスト戦ばかりやっていたから、そこにはこだわっていない。


「とりあえず所属先でやりたい事をやる為にどれくらいのイクシアが必要かだな……ゆとりがあればレベルアップしながら銃を作成するよ」


 この一ヶ月は暇さえあればシミュレーターでイクシアを稼ぎまくっていた。ゲーム基準で見れば1戦で序盤の雑魚モンスター1匹と同等クラスのショボい量しかもらえないのだが、それこそ雑魚戦と変わらない速度でEXT イクスト戦をこなしたり、初回一人だけが貰えるアチーブメントをゲットしたりで俺はかなりのイクシアを保有していた。


「どちらにせよEXT イクスト関連が最優先で、生身の装備は二の次だな」


「本当にエイジはブレないね~」


「移動みたいよ……行きましょう」


 アイリは自然に俺の腕を取って自分の身体に引き寄せてくる……俗に言う腕を組むという奴だ。


 この1ヶ月はアイリと会わなかった日は無い。普段クールな彼女からこれだけ真っ直ぐに好意を向けられれば、最初に考えた……などと鈍感系主人公のような事は思わない。漠然とこのまま行けば男女の関係になるのだろうな……なんて想像もするようになった。クーデレヒロインとか最高かよ。


 そして仲間の二人も最初の頃こそ揶揄からかったりしていたが、最近は俺達を優しい眼差し (?)で見守るようになってきた。それはそれでウザい。


 そして忘れていたが、覚醒してから1ヶ月たって未だに俺達以外の生きている人間を見てはいない。




 ……などと思っていたのだが、そんな事は杞憂だとばかりに輸送機に乗って到着した軍の中央基地ではちゃんと若い男性の軍人さんっぽい人が基地を案内してくれた。周りの皆も初めての生身の人間に会えて安心していたようだ。


「皆様はこれから宇宙へ上がっていただきます。そこから各地の配属先へ向かう事になるでしょう……遊撃隊の方々は衛星軌道上の宇宙基地で待機となります」


 余談だが、覚醒者である俺達は軍の階級ではそこそこ高い所に位置するようで、案内してくれた人よりも俺達の方が階級は上らしい。明らかに年上の男性に敬語を使われてかなり居心地が悪かった。



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 そして翌日、基地の中央広場に多くの軍人が並んでいる前で、俺達が覚醒する時に見た軍の総司令のおっさんが立っていた……もちろん生身だ。


『……今日ここに新たな同志を迎える事になった。我々と共に、力なきものを守るために戦って欲しい』


 なっがいスピーチは続く……きっと普通の高校生の体力だったら何人もぶっ倒れていた事だろう。俺はあくびを噛み殺しながら時間が経過に身を任せた。




宇宙そらに上がって、1週間後に初陣……それまでは各々準備か」


「ドキドキするね~ ボク宇宙に行くの初めてだよ~」


「知ってるか? 大昔は大金かけてロケットで上がってたんだぜ」


「私は何度か行った事があるけれど、普通に軌道エレベーターで上がるだけよ」


 

俺達は軌道エレベーターに向かうバスに乗り込み、宇宙に上がるのかと息巻いたのだが、あっさりそのままバスに乗った状態で気付いたらそのまま空に上がっていた。ここの乗り物は何でも揺れずに静かすぎて、俺達のワクワクした心を気遣ってくれない。


 地上から100km、エレベーターの最上階にあるステーションからシャトルに乗って軍の宇宙基地に向かう。




 そして基地に到着して俺は真っ直ぐにEXT イクスト作成ができるファクトリーに向かったのだった。アイリ達が何か言っていた気がするが気にしない……これが俺の最優先事項だからな。




「はっ? アークキャリバーは作れない?」


 ファクトリーの技術者……俺達のボディーアーマーに似た素材のつなぎを着た女性技術者に俺の最優先事項を伝えた所、返ってきた答えは俺を失望させるものだった。


「いえ、作成できないわけでは無いです。覚醒者エイジがSOF内で設計したものは……SOFゲーム内で設計出来るEXT イクストは十分実現可能なものしかありません……むこうで作成された時点でこちらに設計図は上がってきています……ただ」


「ただ?」


 彼女が手に持ったペンの様な物で眼鏡をクイッと上げると……この世界は視力が悪くなる事は無いので別用途のアイテムなのだろう……難しそうな顔で答える。


「大量に必要なレアメタル、最新のナノチップなどの素材……これはまぁ、何とかなるでしょう。しかしSSSレベルのファクトリーでしか作成出来ない特殊技術、ただいま可能な範囲で作成待ちに割り込みをかけていますが、それでも完成はおおよそ3~5年後になるでしょう」


「マジか……さん……いや5年とか長すぎる」


「もっと汎用性があるEXT イクストなら現在のものを破棄しても作成を視野に入れると思いますが、何分あのEXT イクストをまともに操縦出来るのは軍全体から見ても1割いないかと……どうしても優先順序は下がってしまいます」


「こいつはヘヴィーだ」


 どうする? 待っていればいずれは俺の目の前にアークキャリバーは現れるだろう。だがそれまで俺は生き残れるのだろうか? いや、嘘は止めよう、俺は全く命の心配をしていない……ただ待ちきれないだけだ。


 3年から最長5年を馬鹿正直に待つくらいならいっそゲームと同じようにマイファクトリーを持ってしまうのが良いか? そうだな、ゲームと同じようにイクシアを稼ぐ事が出来ればそれこそ早ければ1年でアークキャリバーを作れるだろう……それどころか、ずっと構想していた更に上位のEXTだって……よし、決めた。


「素材だけ俺の元に送って貰えませんか? 自分で作成しようかと思います」


「ええっ!? そんな無茶ですよ……個人でファクトリーのレベルをSSSに上げるなんて100年掛かっても無理ですよ!! 現実はゲームとは違います……これは我々人類『ギャラクシーアーク』1000年以上の技術の結晶なんですよ!!」


 『ギャラクシーアーク』とは各銀河、星間国家同盟の名称だ。実際に長い年月をかけてTECを上げて今のファクトリーがあるのだろう。


 もちろん個人のファクトリーで完全に同等の物が出来る訳ではないが、ことEXT イクストに特化するファクトリーに調整すれば何とか出来ると思う。ゲーム知識がどこまで通用するのかはやってみないと分からないが、このまま5年待つよりはチャレンジするべきだろう。




 ……俺は自分の力で再び相棒アークキャリバーと再会してみせる!! そう心に誓ったのだった。




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最初から最強機体に乗れないのはお約束です……とはいえ主人公最強設定の物語なので何に乗っても強いです。


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