初陣 04
アーサーは怒りを隠そうともせずに俺達を見下ろしていた。本当に面倒くさいなこいつ。とにかくもっと面倒な事になる前に返事をしておこう。
「浮かれている? そうかもな? やっぱり
うわ、なんだ? ちゃんと答えたのに更にキツい目つきで睨んできた!?
「僕をからかって楽しいようだな……滑稽だろう? 僕が気合いを入れて勝利した結果も君はいとも容易く塗り替えてしまう」
「ん? どういう事だ?」
するとアイリが肩をちょいちょいと叩いてた。指を指した先が立体映像の履歴だった。どうやらアーサーは歴代2位の記録を出したようだ。
「おおっ、2位じゃん、凄いじゃん。過去の歴代1位に勝ったって事だろう?」
「くっ、それを簡単に抜いた君が言うと嫌みにしか聞こえないよ」
「そうか? でも、他に過去の1位に勝った奴はいないから、ちゃんと凄いと思うけれどな……でも、気に障ったのなら悪かったよ」
「別に謝罪なんて要らないよ……それより、君は藍梨と何をしていたんだ?」
うっ、やっぱり見られていたのか……ナニしてましたとか答えたら危険だろうな。何と答えるべきか?
「別に私とエイジが何をしようと構わないでしょう? その事についてもう話す事は無いと思うけれど?」
相変わらず塩対応なアイリ。これはこれで何でこんなにエターナルフォースブリザードな感じなんだろう? これじゃアーサーの心が死ぬ。
「関係はあるよ、藍梨の不安につけ込んで……男らしくないと思うよエイジ」
うっ、まぁ、昨日は俺ももっと強い意志で止めれば良かったなぁとは思っているけれど、でも健全な男子にしては健闘したと思うよ? って、その事についてアーサーは知らないんだよな。俺は誰に何を言い訳しているんだ。
「別に不安になったアイリを慰めて励ます事が悪い事ではないだろう?」
「そうよ、つけ込むも何も私とエイジの事にとやかく言われる筋合いは無いわ」
「とにかく、藍梨、君もまだ火遊びで済む話だ……これ以上自分を貶める真似をしないで欲しい」
「一体何を言っているの? あなたは一体どういう立場で私にそんな事を言っているの?」
「同じ大企業の親を持つ、その家の息子として、藍梨の幼馴染みとして、生徒会長を支える副会長としてだよ」
「何度も言うけれど、そのどれも偽物の肩書きで、私達が生きているこの世界には何の意味もないものよ」
「たとえ幻の過去だったとしても僕等の人となり、様々な学びや考え方を育んできた確かなものだよ……否定してなかった事にする物では無いよ」
こいつも凄い食い下がるな……よっぽど大事なよりどころだったんだろうな。家庭環境が微妙だった俺には理解出来ないぜ。
「あなたにとってそうだったとしても、それを私に押しつけるのは止めて……迷惑よ」
「藍梨……君は変わってしまったね……いや、変えられてしまったと言うべきか?」
求めるような表情でアイリを見ていたアーサーは再び目つきを鋭くしながら俺の方を見る。うぜぇ……
「なぁ、もうそろそろ終わりにしないか? 昨日から似たようなやりとりばかりで平行線にしか聞こえないぜ」
さすがに弾除けとして役割を果たさないといけないと思い間に入る。
「口出ししないで貰おうか? これは僕と藍梨の問題だ」
「ちがうぜ、それはアーサーだけの問題だ……お前自身が自分の思い通りのアイリにならないから駄々をこねているだけで、お前がアイリに対する執着に折り合いを付ければ全て解決する」
「なっ、僕を馬鹿にするのか!?」
「ただ事実を述べているだけで、まったく馬鹿にしていない。はっきり言おうか?
アイリと俺は互いに想い合ってエンゲージした。
誰が相応しいか相応しくないかとか、過去の家柄や立場とかにこだわっているのはお前だけで、俺達の間に全く関係ない話だ。
俺達の間に全く意味の無い、お前だけの考えを押しつけるのは止めて貰えないか?」
「なっ……意味がないだと!? 君に僕の何が分かる!!」
「だから分からないと言っている。こうして俺達が二人きりの時にお前が割り込んでくる理由が無いのに、突っかかってくる意味がさっぱり分からない」
「自堕落な劣等生が調子に乗って……!!」
「その考え方自体が俺とアイリが必要としていない過去だ。大企業の御子息、副生徒会長という過去を認めないとその立場を……上から他人を見下ろす事を……行使出来ないから必死に守ろうとしてるんだろ?」
「ち、違う、そんなわけ……」
「この世界だけを肯定すると俺を見下す事はできないもんな」
「だ、黙れ!!」
「なぁ、俺はお前を認めていたんだぜ……SOFの実力もさることながら、皆を引っ張るカリスマもあるし。だけどアイリとのやり取りを目の当たりにしてその評価を改めざるを得ないぜ」
「うるさい!! 黙れ!! 君こそ上から目線で!!」
「ここは引けよ……今なら何も見なかった事にする。皆の前だけでは今まで通りのカリスマ副生徒会長とやらを演じても……SOFランカーのアーサーを演じても、余程おかしな事でも無ければ俺達も余計な事は言わない」
「…………」
アーサーが黙ったので俺はそのまま続ける……
「余程おかしな事……SOFの実力があるものの行動や権利を過去のしがらみで変に制約掛をけるような真似や、そう言った扇動はするな」
「僕はそんなつもりはっ……それじゃあ力があれば何だってやれてしまうだろう」
「逆に実力ある者が何をやっても良い訳じゃ無い、その時はそれこそ力がある者がしっかり止めればいいだろう……おまえものそのSOFの実力がある一人なんだからな」
俺だけじゃ無くアーサーも力ある者だと釘を刺しておく。
「君が暴走しないなんて保証は無いだろう、どうして自分が正しいと言えるんだ」
「それはお互い様だろ、ここを着地地点にしておけよ……お前が過去に絶対的な自信を持つように、それは俺もSOFでは同じなんだ……そしその実力を周囲に示している。
まさか俺の事は信じないけどお前の事は無条件に信じろなんて言わないよな? 俺達が対立する事によって起こる不利益は頭の良いお前ならちゃんと分かっているんだろう? このままプライドを守ってみんなグチャグチャにするのか?」
何かを言い返そうとして、そのまま思い止まったように深く息を吐くアーサー。
「……わかった……ここは君の意見を受け入れよう」
「……そいつはよかった」
アーサーは振り返ると強い足取りで歩いて行く、出入り口前で立ち止まると顔だけ半分振り返った。
「エイジ……僕は君が嫌いだ」
「奇遇だな、俺もさっきお前が嫌いになった」
今度こそ間違いなくアーサーは去って行った。もうシミュレーターの結果で浮かれていた気分などとうに吹き飛んで精神的な疲れがドッとやってくる。
「ごめんなさいエイジ、面倒な役目を押しつけて」
「いいさ、俺もいい加減に我慢出来なかったしな」
「いやー、たか……アーサーってあんな奴だったのか。なんか闇落ちとかしそうじゃね?」
「ボクとしては一人の女性を巡って二人の男性が争うとか、もの凄い憧れシチュエーションだよ」
二人がアーサーが去ったのとは別の出入り口方向からやって来た……まさか、全部聞いていたのか!?
「お前らいつの間に!?」
「いや、めっちゃ出づらい雰囲気だったし、貝のように大人しくしていたんだぜ」
「いつも通りならアイリが、がーって言って、エイジは明後日の方向を見ている流れかと思ったら、エイジの苛烈な反撃が痛快だったね」
「やめれ、からかうなよ」
「「アイリと俺は互いに想い合ってエンゲージした」」
「お前らっ!!」
こいつら息ぴったり!! アイリも珍しく照れている。やめろ~!!
「でも注意しておいた方が良いよ~ なんかアーサーボク達以外のクレイシュに接触して色々話しているみたいだよ~」
『クレイシュ』……いわゆるクランとかギルドシステムみたいなものだ。ゲームでは派閥とか管理が面倒というのと、自由に大会に参加しづらくなる……という理由で俺達は作っていなかった。
この世界では配属先が決まるまでは仮にと言う事で、まとまって覚醒した18人をグループとした『クレイシュ』、名前も適当な『C07』というのが作られたのだった。
しかしアーサーの奴は余所の『クレイシュ』に接触して何をしようとしているのだろうか?
「普通に考えて派閥作りでしょうけれど……まだ誰がどこに配置されるか分かっていないはずなのに……アーサーはこういう事をいつもやるのよ」
「だってよ、アーサーなんだぜ……ってやつか。やれやれ、どうしたもんかな……」
「まぁ、考えてもしかたがないだろ……何か分かったらまた相談すれば良いんじゃね?」
「そうだな、今の所はそれしか無いか」
多少不安要素を残しつつ初日の座学とシミュレーターは終了したのだった。
「エイジ、相談があるの、今日もあなたの部屋に行って良い?」
「……変な事はしないよな?」
「ええ、しないわ、
余談だがアイリはこの後も毎日俺の部屋に立ち寄って、エンゲージしている事を周知するかの如く積極的な行動に出たのだった。
それと隙あらばキスしてくるようになった。はっきり拒まない俺も悪いのだが、まぁ年頃の男なので許して欲しい所だ。だがこのままだと俺の方がいつまで耐えられるか……まさかそれが狙いじゃ無いだろうな?
……そして、この世界に目覚めて1ヶ月が経過したのだった。
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アーサーと対立したのは確定的に明らか、こういう事はラノベで稀に良くある。
「だってよ……アーサーなんだぜ」の使い方を間違えているという指摘は受け付けません。
面白かったら★★★、フォロー、応援、レビューなどなどお願いします……物語を紡ぐ原動力となります。
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