初陣 03

□□□ 軍訓練施設、講堂内:アーサー □□□



 まいったな、昨日は僕に同調してくれそうな人物の根回しに時間が掛かって結局、藍梨と話す事が出来なかった。彼女は本当にエイジと……いや、そんなはずは無い!! 彼女には僕が相応しいに決まっている。


 おっと、頭では色々考えているが、話はちゃんと聞いているよ。やはりSOFの世界観が現実だったという訳だね。そしてゲームと同じイクシアが重要なものなわけだ……もちろんゲームランク総合上位の僕ならうまくやれるだろう。


 よし、座学は終わった……藍梨と話をしないと。


「アーサー、昨日の話だけど……」


「あ、あぁ、君か……そうだね、ここではちょっと……」


 まいったな、彼は最初に僕の話を聞いてくれたんだ、無下には出来ない……この場所では話しづらいから移動しないと。




 話を終えて講堂に戻った頃には藍梨達はいなくなっていた。くっ、仕方ないな、でもきっと彼女たちならEXT イクストのシミュレータールームに行っているはずだ。……僕はシミュレータールームへ向かった。


 既にルームのEXT イクスト筐体は埋まっていて並ばないと使えなさそうだ。周りを見渡したり筐体のプレイヤーを確認しても藍梨は見つからなかった……いや、いた。


 僕は銀のストレートヘアのエルフに後ろから近づいて肩を叩く。振り返った彼女は……あれ? 誰だ?


「あれ? アーサーくん? あ、私の事はわからないよね? チーム:ブリュンヒルデのエリだよ、覚えてる?」


「あぁ、覚えているよ(顔は藍梨には遠く及ばないけれど、造形自体は悪い訳では無いね、よし仲良くしておこう)、シミュレーター待ちしているのかい?」


 後ろ姿は似ていたけれど人違いだった……服の色も違っていたな、やれやれ僕とした事が焦ってしまったようだ。あと、エリか……何度か一緒のパーティーを組んだと思ったけれど、困った事に前の顔を覚えていないな。ま、そこは大して問題は無いだろう。


「うん、でも何だか難しそうで、どうしようか思い直しているんだ」


「そうなのかい? せっかくもうすぐに順番が来そうなのに勿体ないよ? いずれ僕たちは否が応でもこれに乗らないといけないからね」


「私、EXT イクストは全然やってこなかったから下手っぴな所みんなに見られるの嫌なの……誰もいない時に練習したいかなって……あ、そうだ、アーサーくんかわりに使う?」


「いいのかい? うん、わかった、それなら遠慮無く使わせて貰おうかな? ねぇ君、交代して良いかな?」


 一応、エリの後ろに並んでいる女性に声を掛けると快くOKしてくれた。


「ありがとう、それじゃあ手本になるかわからないけれど、僕の戦いを見ていてくれ」


「うん、頑張ってね!」


 すぐに順番はやって来て、僕は自動で開いた扉から前の男性プレイヤーと入れ替わりで筐体内に入り込んだ。空調が効いているため、前のプレイヤーの匂いなどは特になく、シートも随時リフレッシュされるようで、綺麗好きの僕には助かる仕様だ。


「さて、どうせなら僕の力をみんなに見てもらいたいね」


 僕は使い慣れた操縦桿を握ると、過去……と言うには新しい記憶を思い出すのだった。



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 リアルではSOFの為にEXT イクストの筐体を購入してもらい家で練習出来る環境が整っていた。何度かプレイしてわかったけれど、フルダイブとハーフダイブでは何故か後者の方が良い成績が出せていた。身体が疲労する分不利なはずなのに不思議な事だった。


 何にせよ自分の家で時間を掛けて練習出来るアドバンテージを生かして上を目指さないと……学校でもプライベートでも高御堂たかみどう家の男子たるもの妥協は許されない。


 練習の成果もあって僕は生身もEXT イクストも高い成果を上げる事が出来ていた……だが、トップにはなれなかった。まぁいいさ、これはあくまでも遊びで、息抜きだからね。


 とは言え、やるからには全国大会には行っておきたい所だけれど、チームの上位メンバーはEXT イクストは上手でも白兵戦はイマイチだった……ここは僕が補うしか無いだろう……ならば、その上で勝てる作戦を考えなくては。




 そして大会当日……僕は負けた。自分のスタイルを捨てた完全に意表を突いた作戦で途中までは予想通り進んでいた。なのになんだあいつは!! ありえないだろう!! 僕の立てた完璧な作戦はたった1機のEXT イクストによって崩されてしまった。


 あんなカチガチに強力なカスタム機なら誰だって勝てる……僕は君の実力に負けたんじゃ無い、その強すぎるEXTアークキャリバーに負けたんだ……偽りの勝利に浮かれるなよ、エイジ!!



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「おっと、ついつい過去に思いを馳せてしまった……さて、プラクティスモードを使うかって? 馬鹿にしないで欲しいな、僕に練習なんて要らないよ。積み重ねがみんなとは違うんだよ」


 難易度選択を選べるようだが、この対戦相手は僕等と同じように覚醒したプレイヤーがここで訓練したデータを蓄積させて作られたもののようだ。つまり、僕等と同じ土俵に立っている訳だ……これは負ける訳にはいかないよ。


 相手は『アトミックランチャー』か、この機体なら『ストライクエイム』で優勢に立てる。よし、一発目の戦いでいきなり僕がトップを取ってやる。


 そのまま自機を『ストライクエイム』に決定するとステージ説明が出てきた。朽ちた都市か……互いに得意なステージだな。もちろん僕が勝つけれどね。



『READY GO!!』



 対戦がスタートすると僕はすぐに高層ビルへ移動した。相手のミサイルより僕のスナイパーライフルの方が射程は長い。先に相手を見つければ僕の勝ちが確定する。


 だが、残念ながら互いが捕捉出来る距離に立っていたようで、先制攻撃はあちらに譲ってしまった。だが問題ない、ミサイルならこのスナイパーライフルで……


 拡大されたスコープとマップ情報をリンクさせてトリガーを引く。命中だ……次!! 僕は次々とミサイルを打ち落とすとすぐに相手を捉えた。


「仕返しだよ……そこだ!」


 相手の肩にライフルの弾が命中した。相手は慌ててその場を離れてしまった。


「甘いよ、『ストライクエイム』相手でかつ、今回の地形でミサイルを有効に撃てる場所は限られてくる」


 僕は機体を急いで移動させる……僕の読みが正しければ……予定の配置についてスナイパーライフルを構えた先に『アトミックランチャー』が現れた。僕は既に5秒間以上移動を止めているから相手のレーダーには映っていないだろう。『ストライクエイム』の特性だ。


 僕は心を落ち着けるとライフルのトリガーを引いた。その弾丸は相手の頭を吹き飛ばした。すぐに次を装填するとフラつく相手のボディを撃ち抜く。3発目でコクピットを撃ち抜き相手は沈黙した。



『WINNER YOU』



 よし、これ以上無い勝利だな……さすが僕だ過去にどのような強者がいようと僕の足下に及ばないだろう。なぜなら僕はみんなを導き遙か高みを目指す男だからね。


 評価項目も射撃がSだ。残念ながら移動はともかく白兵戦はしていないからD評価となっている。時間も5分以内だしこんな好成績を修めるのは僕を置いていないだろう。それでも歴代2位か……相手に勝利しても評価が上回らないと1位になれないのかな? これなら多少苦戦しても万能機体でバランス良く戦うべきだったかもしれない?



 僕は筐体から出るとみんなが騒いでいた……どうやら僕の勝利を見て興奮しているらしい。でもこのくらいでいい気になってはいけないな、謙虚に次に備えられる男で無ければ。


「すごい!! すごい!! 凄いよアーサーくん!!」


 エリが興奮したように語りかけてきた……やれやれ、さすがに大げさだよ。


「少しでも参考になれば良かったけれど、僕ももっと研鑽を積まないとだね」


「うん、でもあんな凄いのは全然参考にならないよ……一体どうやったらあんなぐいんぐいんって動きが出来るんだろうね」


「だから、大げさだよそんな……ん? ぐいんぐいん? 動き?」


「でもやっぱり凄いね、きっとこれなら本当の戦いになっても守ってもらえそうだよ」


「うん、もちろん、僕がみんなを守るよ」


「え? あ、うん、アーサーくんもいればもう間違いないね」


「え? 僕も?」


 僕はその時気付いてしまった……皆が見ている立体映像が何かを。ついさっき僕と戦ったのと同じ相手と戦っているそのEXT イクスト……スピードだけが取り柄のバランスが最悪の機体『ソリッドエッジ』を冗談みたいな動きで『アトミックランチャー』を翻弄して一瞬で屠ってしまった。


 総合評価オールS、戦闘時間1分12秒、歴代一位「エイジ」


 ばかな!! なんだそれは!? どこだ? あいつが今プレイしたのか? 周りを見渡してもエイジの姿は見えない……筐体内のプレイヤーも……違う。


「えーと、エイジはどこだろう? 分かるかい?」


「え? リプレイの記録を見ると結構前だし……ここじゃ無いって事は……あ、反対側にもルームがあるみたいだよ」


「あぁ、本当だ……ありがとう」


「え? どこいくの? 顔色が悪いよ?」


 僕はマップから別のシミュレータールームを見つけ駆け出した。


 くそ、くそ、くそ、くそ!! なんでお前は僕の邪魔をするんだ!! ここは僕がみんなにEXT イクストの強さを見せつけるタイミングだろう!? 君は大会はもちろん、昨日の自己紹介で十分目立っただろう!! なのにも拘わらず、君はそれでは足りないとでも言うのか!?


 さっきの部屋に藍梨がいなかった、まさか一緒にいるのか? 僕から勝利を……名誉を……藍梨を奪うのかエイジ!!




 こちらのシミュレータールームは向こうに比べると人が全くいなかった。そして唯一といえる人物達はいま、互いに顔を寄せ合っていた……僕の目の前が真っ赤になる。気付くと早足でその元に向かっていった……そして二人はビックリしたようにこちらをふり向いた。




「浮かれているようだね、エイジ」





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読者のヘイト収集キャラアーサー(予定)は特に主人公に意地悪をしている訳では無いですが”ざまぁ回”となりました。


昔、家庭用ゲーム機よりもハイクオリティなアーケードゲームを家で遊べるお金持ち&マニアックな友達がいてとても羨ましかった覚えがあります。

家で沢山練習出来ると上達早いですよね……彼はいつもゲームセンターではヒーローでした。


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