起動 08★

Rー15要素があります。苦手な方は飛ばして下さい。後書きにあらすじを乗せます。

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 使い古された表現でお馴染みの『知らない天井』を見ながら、俺に覆い被さる銀の妖精を抱きしめながら時間が流れていく……。



「無くなっちゃった……西園寺グループ総裁の娘とか、美人生徒会長とか色々言われていたけど、初めからそんなもの無かったのね」


「自分で美人とか言っちゃうか……まぁ、間違ってないけど」


「もう、私にはSOFしか無いんだって……すぐに答えはわかっていて、自分に言い聞かせてたんだけど、上手に騙せなかった……エイジに……縋っちゃった」


 アイリはかなり早い段階からSOFとリアルを切り離した発言をしていたが、あれは自分に対して戒めのようなものだったのか。きっぱり割切っていたなんて勘違いで、普通の女の子と何も変わらずに、このどうしようも無い現実に翻弄されていたという事か。


 そんなアイリに掛けられる気の利いた言葉なんて思い浮かばない……それでも表面的で無難な言葉を返す。


「何でも自分で解決するクールガールなアイリに頼られて悪い気はしないぜ……むしろ役得だな」


 さも落ち着いている風に喋っているが、心臓の鼓動はきっとバレバレなんだろうな……そしてこのままだと俺は男の事情的に危険かもしれない。

 抱き合っている感触が……裸で抱き合っているのと多分変わらない……いかん、意識するな俺。


「救いなのはみんなが一緒だった事……繋がりを感じられるみんなが……ガットもフレーナも一緒だった」


「ああ、チームのみんなが一緒で本当に心強いぜ」


「一番、繋がりを深く感じるのは……エイジ……あなたよ」


「エンゲージしてるからか?」


 ゲームでは感じなかった……アイリを身近に感じる不思議な感覚。もしかしたらエンゲージの効果なのかもしれない。ふとアイリが身体を起こし、切なげな瞳でこちらを見つめてくる。


「……エイジ……繋がりをもっと……もっと深く感じたい……んっ」


「んっ!?」


 不意打ちでアイリがキスをしてくる。顔に伝わる長い髪のくすぐったい感触に、鼻の横にアイリの鼻が、互いの頬がくっ付いている感触、そしてほのかな花のような香り……色々な情報量が一気に押し寄せてきて俺の頭脳で処理が追いつかない。


「エイジ、エイジ……!!」


「アイッん、……おいっ、むっ!?」


 なんだ? アイリに変なスイッチが入っているのか? いきなりすぎる!? 俺のファースト、セカンド、サードキスのカウントが勢いよく進んで行く。


 くっ、脳がとろけそうだ……まて、このままでは俺の理性もぶっ飛ぶぞ? このまま流されて良いのだろうか? 避妊とか大丈夫だろうか? うまく出来るだろうか? って、何やる気になってるんだ!


 今のアイリは情緒不安定でそれを紛らわすため俺に身を委ねようとしている。こんな危ない状態のアイリをアーサーに渡さなかったのは俺のファインプレーだろう。とはいえ俺がこのまま流されてしまえば結果はそれほど変わらない。


 俺に対して予想外に弱い自分を見せてきたアイリ……このままだと彼女は俺に依存してしまわないか? 俺は自分と対等な……凜と気高いこの女を気に入っているはずだ。愛欲に身を任せた関係に興味が無いと言ったら嘘になるが、心地よかった今までの関係を壊すのはあまりにも惜しい気がする。


 生存確率だってどうだ? 今まではどんな状況でも物怖じせず的確な判断をしてきたアイリだ……もしも、関係性が変わって俺に逆らわなくなったらどうなる? 色々未知数だが、打算もかねて欲望に身を任せるべきでは無いよな? 日和ったんじゃ無いぞ!!


 防音が完璧なのか空調の音も何もしない部屋に淫靡な音が響き渡っている。その音の発生源が俺とアイリの口からだと考えると心がかき乱されて、決意が揺らぎそうになる。


「エイジ……好き……ずっと……好き……ちゅっ」


「アイリ……待て……んんっ!?」


 アイリの甘いささやきとキスに「待て」とか「駄目だ」とか言いながらなすがままの俺……これはマズい、予想以上に理性が仕事しない。SOFに全てを掛けてきたつもりだったはずのに、誘惑に抗いがたいとは……想像していた以上に俺はこの女を気に入っていたのか?


「エイジ……ん、エイジ……好き……ちゅっちゅ」


 だ、駄目だ、理性vs欲望バトルレートは9:1の欲望が優勢すぎて賭けにもならない。お陰でアイリを押しのけようとしても欲望が「このままヤっちゃいなYO!」と拒否してくる。


 う~む、しかしアイリって情熱的だったんだな……いつもはクールなのにギャップが凄い……新たな魅力を発見……って、いかん、何を考えているんだ!! 俺の理性よ!! 働くのだ!! 今はお前の力が必要だ!! 俺の意志はEXT イクストの装甲のように堅いはずだ!!


「アイリ、流されるな……怖いなら、こんな事しなくてもずっと側にいるから……冷静な判断はお前の得意とする事だろう?」


 俺の言葉を聞き、涙を浮かべながら切なげに俺を見つめてくるアイリ……涙はいかん、これはあざとい……あざとすぎるぞ。


「いいの、だって、私達はエンゲージしているのよ……エイジだってほら、その気になってる……一生……責任取れなんて言わないから……だから今は……んっ……お願い……んんっ」


「くおっ!? 待った、そこを触れては!? ま、まて、んむっんっっ!!」


 センシティブな部分へのタッチのあと、再び情熱的な口づけを貰ってしまう……くっ、エルフとは言え近接戦闘をこなせる彼女はちゃんと力にポイントを振っている。お陰で俺は欲望に負けているだけでは無く、力でも負けているようだ。再び覆い被さってくるアイリに良いようにされている……うおっ、口に……入ってきた!! しかし俺、何でこんなに頑張っているんだろう? 別にこのままでもよくね? いやいや、駄目だって!!


 部屋に鳴り響く音に新たな種類が追加される。このハーモニーに身を委ねてしまえば楽であろうが、残り僅かな理性がそれを否定し続ける。


「ぷはっ……エイジ……ちゅっ」


 互いの口に透明のアーチが掛かっている……アイリはそれを指でそっと拭う。桜色に染まった頬、潤んだ瞳でこちらを見つめる銀の妖精……清楚なはずの彼女が見せる新たなかおを前に、彼女をこのまま奪いたいという欲望がより激しく燃え上がる。


 その欲望をなけなしの理性で押しのけ、何とか再び覆い被さろうとする彼女の両肩を掴んで距離を離す。


「エイジ? 私の事……嫌い? それならはっきり言って……」


「違う、嫌いじゃ無い……だからこそ……だ。確かに怖さや不安を一時的にごまかせるかもしれないが……でも、違うだろう? お前は負けないよ……ずっとお前を見てきた俺が言うんだから間違いない。俺はずっと側にいるしガットやフレーナだって一緒だ。周りは何も変わっていない……不安になる事なんか何も無い」


 アイリを落ち着かせるよう、目を見つめながらゆっくりとしっかりと俺の意志を伝える。全くうまい事言えていない俺の言葉を聞きながら、彼女は目を閉じると深呼吸をする。


 しばらくするとふんわりと俺に抱きついてきた……先程のような荒々しい感じは無く穏やかに身体を俺に委ねてきている。けれど彼女の身体は小刻みに震えていた。


「ごめんなさい……ごめんなさいエイジ……嫌いにならないで」


「大丈夫だ……嫌いになるはずが無い、怖かっただろう? わかっているからな」


 俺は再び震えるアイリの頭を優しく撫でる。もう片方の手では背中をきゅっと抱きしめた。


「今日だけ……抱きしめて……いっしょにいて。明日は……いつもの私になるから……」


「……ああ」


 いつも沈着冷静なアイリ……学校でも凜とした姿の彼女しか見た事が無い。一体どこで気持ちを休めていたのだろうな? うぬぼれで無ければそれは俺達とSOFで冒険していた時では無いだろうか? まぁいい、とにかくアイリ……ゆっくりと休もう。



 しばらくして気付くと彼女はすぅすぅと寝息を立てていた。



 彼女を起こさないようにゆっくりと仰向けに寝かすと、俺はその隣に寝転がった。彼女の片手は俺の腕を掴んだまま離れなかった……いや、外そうと思えば出来るだろうけれど、何となくそれをする気にはなれなかった。



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 気がつくと俺は一人で寝ていた……どうやらいつの間にアイリは部屋に戻ったようだ。何気に俺は自分の唇に手を当てると、不意に昨日の出来事を思い出してしまう。


「あー、やっぱり惜しかったか」


 過去に戻る事は出来ない……自分の選択を信じて前に進むしか無い。というか、アイリの顔をまともに見られるかどうかの方が問題かもしれない。


 いつの間に朝食が入ったカートが部屋の外に用意されていてそれを食べる。設定ではこの世界の料理は全て完全食パーフェクトフードのようで、見た目も味付けも自動調理器オートシェフによって再現出来るらしい。

 とりあえずモーニングセット……トースト、ゆで卵、コーヒーは美味しかった。


 朝食を終えてしばらくすると再びコールメッセージが来る……マップに表示された部屋に来るようにとの事だった。




「おはようエイジ~ んふふ~ 昨日はお楽しみでしたね~」


 指定された部屋には目覚めた時と同じグループの人間が集まっていて、俺を見つけたフレーナが大昔から続いているお約束のフレーズでからかってくる。


「さて、何のことやら?」


「え~ ボクの見立てでは昨日は二人は本当の夫婦になったと思ったのに」


「まじか? お前は俺を置いて大人の階段を上ったのか?」


 俺達を見つけたガットが会話に混じってきた……こいつは意外とこの手の話題が好きだ。


「くだらない事言ってんなよ……昨日は精神的に疲れてあっという間に寝たからな」


 ふと、後ろの方からこちらに近づく気配を感じた。俺はそれが誰だかわかったので振り返りながら声を掛ける。


「よう、おはようアイリ」


「おはよう、エイジ」




 もういつものアイリだった……いつもの対等な関係のクールビューティー。俺はまだしばらくはこの心地よい関係を続けていきたい。




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『起動 08 あらすじ』

現実を受け入れていったように見えたアイリだったが、実際は不安に押しつぶされそうになっていた。

その不安を忘れたい一心で……そして唯一の強い繋がりを感じるエイジに身を任せようとする。

今までの関係を変える事による変化に危険を感じたエイジはそれを拒みつつもアイリを励まし立ち直らせる。


R-15ってどこまでがそうなんでしょうね?

エロ小説にならないよう気にして書きましたので少年ジャンプにだって載せられるはずです。


面白かったら★★★、フォロー、応援、レビューなどなどお願いします……物語を紡ぐ原動力となります。

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