起動 06

「チーム:ディープストライカーのエイジだ。種族はヒューテクト……」


 今更だが、俺の種族は人間じゃない。ヒューテクトとはいわゆるアンドロイドと言えばわかりやすいか? 人間が機械部品を身体に組み込んだ種族だ。


 肩甲骨から腕、手の指先まで、腰骨から下の足の付け根、膝、足の指先まで、胸、背中、頭の一部が機械部品となり、それ以外が生体部品となっている。外観からは殆ど人間と変わりないという設定だ。


 髪の毛、眼球、肌の色は自由に変えられる。ちなみに食事したもの全てをエネルギーに変えられるらしく、排泄行動はたまに放熱の為の水分排出だけしか必要ないらしい……設定通りなら。


 能力特性としては力、体力、素早さ、器用さなど基本能力がかなり高い反面、イクシア特性が無い為、魔法のような攻撃は使う事が出来ない。また、回復魔法や補助魔法の効果が激減するという尖った種族だ。


 余談だが、生殖能力はあるという事だ……現実がどうなのかは知らないが、子供はヒューテクトではなく相手の種族になるらしい。ヒューテクト同士だと人間が生まれる……ヒューテクトになれるのは人間だけで受精段階で母体から摘出後、遺伝子操作をうんやらと言う事らしいが詳しい事はよくわからん。


「武器は銃全般。イクシアは無しで……」


 SOFはレベルアップと共に種族特性に応じた基本能力が上がるほか、自分で好きなステータスにポイントを振り分ける事が出来る。設定としては体内のナノマシンにイクシアを注入して能力を高めるらしい。


 俺は白兵戦武器を扱う為の能力に全くポイントを振っていないので、力が弱くても威力を出せる銃を装備している。銃の装備には力と器用さがある程度必要だが、ヒューテクト自体の能力が高いため、能力値に振らなくとも大体の装備が出来る。


 そして、魔法的な事が出来るイクシアは種族的に使えないので無しという事だ。イクシアの回復補助が受けられなかろうとEXT イクストに乗る限りは関係ない……俺にとってヒューテクトこそ最高に相性の良い種族なのだ。ちなみに俺がどの能力に振り分けているかというと……


「うん? 君は榎本くんじゃないか? 髪型が違ったから気付かなかったよ……彼はあまり学校行事に積極的じゃないけれど悪い奴じゃないんだ。僕が勉強を教えたりもしたな」


 こいつ……急になんで俺の紹介に割り込んできた? 白々しく今気付いた風だが絶対に最初から気付いていたよな? わざわざ伝える必要の無い学校での様子を説明しだしたぞ……あと勉強は教えて貰った覚えはない、勝手に自分のノートを押しつけてきただけだろう。すぐに突っ返すのが悪いから時間をおいて返しただけだろうに。


「エイジってことはあのエイジか……君は確かEXT イクストがメインだから戦闘は苦手だったな。大丈夫だ、僕が君を守るから安心してくれ。やはり最後には機械や道具よりも自分の強さが必要になるだろうからね」


 どうやら俺の自己紹介をリアルの印象とEXT イクスト抜きの特徴を強調してネガキャンしたいらしい。あーくっそ面倒くさい。ここで無理に反論でもしようものならアーサーから敵認定されて面倒くさい生活が待っているのか……サクッとこのまま終わらせるか。


 そう思っていたのだがチームメンバーが俺を見ている。


 なんだよガット……そのやったれ! みたいな目は。


 フレーナも笑ってるし……絶対に俺が何か言うと思っているだろう。


 アイリ……なにその期待に満ちた眼差しは? ポーカーフェイスが売りなのにそんな目をするなよ……


 あー、わかったよ、やれば良いんだろう? もうこうなれば平穏な生活は諦めるしかない……それよりも仲間の信頼の方がここで生きて行くには必要だよな?


「あー悪い、やり直しだ!!」


 何か言っていたアーサーを大声で遮って俺は再び自己紹介を始める。


「チーム:ディープストライカーのエイジ。EXT イクストランク3位、機体はアークキャリバーだ……対人の撃墜数は1000以上から数えていない」


 「まじか!?」「3位だって!?」「EXT イクストは見た事あるけどあの人がそうなの!?」「結構イケメンじゃない?」「俺アイツに何回も落とされた」「1000機以上!?」今までで一番ざわめいている。おお、まじか、そんなに驚かれる事なのか!?


「俺がEXT イクストを使えば勝てない奴などいない。もしも仲間がピンチならば……俺が必ず守る、誰も死なせやしない!!」


 おおおおおおっ!! ざわめきが更に大きくなった。


「た、頼もしいな、でも君の上のランクにはまだ2人もいる訳だから油断は……「さきほどアーサーが!!」」


 口を挟もうとしたアーサーを遮って俺は更に言葉を続ける。


「先程アーサーは言ったな……自分と同じ強さの仲間がいれば自分が勝ったと……実は俺にもそのがある……」


 皆が黙った……アーサーも自分の名前を出されたせいか俺の言葉に耳を傾けてしまっている。


「俺よりランクが上の2人は大会に出なければランクダウンするにも拘わらず今大会にエントリーしなかった。つまり大会で俺に負けるのを恐れて辞退したんだよ……もしもここに連れてこられずにそのまま全国大会へ行けば、俺は間違いなく優勝し、そしてランク1を取っていた事だろう……全てのEXT イクストの頂点にいたかもしれない可能性を持つ……それが俺だ!!」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!


 部屋の中が最高潮に盛り上がった。上のランク二人とも大会にエントリーしなかった本当の理由は知らないが、優勝すれば俺がランク1位なのは本当だから全く嘘というわけでは無い。


 アーサーが何か言っているようだが声にかき消されて何も聞こえない。手を振り上げて少し声が下がったタイミングで再び俺は喋り始める……


「もう一度言う、俺は必ず仲間を守る……だからピンチの時には呼ぶんだ、エースの名を……この俺の名を……エイジとな!!」


 掲げていた手を顔の高さまで下ろし自分の名前と共に拳を握り込む……再び皆が声を上げた!!


 「おおおっ、頼むぜエース!!」「あたしも助けてね!!」「頼りにしてるぜエース」「お前がいれば俺達は死なない!!」「兄貴と呼ばせてくれ!!」


 みんな思い思いの言葉を俺に掛ける……予定は大いに狂ったが、士気が上がりみんなの生存確率が上がるのなら悪くはなかったか。でもめっちゃ居心地悪いし背中がぞわぞわするぞ!!


 うわ、アーサーの顔恐っ!! 不機嫌な顔を隠せてないぞ!! 急いで仲間の元に逃げよう。



「もう絶対にやらない、二度とやらないからな!!」


 皆の元に戻るとガットが肩を組んでくる。


「そう言うなって、めっちゃかっけーじゃん、多分これからもあるぞ~」


 フレーナが背中をバンバン叩いてくる。


「本当だよ、ボク痺れちゃったよ~」


 アイリは両手を胸の前で組んで目が潤んでいるように見える。


「エイジ、あなたはやっぱり最高よ」


 やばい、ちょっと俺顔が赤くなっていないか? 勘違いしそうになるから止めろよ。


「……そいつはどうも」


「あーエイジ照れてる~かわい~」


「おお、ゲームでは無表情だったのに、お前実は結構顔に出るタイプか?」


「黙れ小僧ども!!」


「ふふふっ……」


 大勢の前で目立つのは好きではないが、仲間と一緒に騒ぐのは嫌いじゃない。大会優勝のから地獄まで突き落とされた後のささやかな心安らぐ瞬間に今は身を委ねよう。




□□□ 軍用実験施設モニタリングルーム:??? □□□




「なんだ、ルーム7の覚醒者達のテンションが極端に上昇しているぞ……報告しろ」


 今日は覚醒者の目覚めという事で責任者である私は立ち会いでこの辺鄙な施設までやって来たというのだが、なにやら技術者達が慌てているようだな。


「はい、どうやら覚醒者の一人が演説を行い、皆の士気を高めたようです」


 何事も無かったように技術者の上官であるエルフが報告してくる。彼とは長い付き合いだが、未だに感情的になった所を見た事が無い。


「ほぅ、他のルームは通夜のようなムードばかりだというのにか?」


 これは驚きだ……酷い事例だとコールドカプセルから出た良いが、やはり現実に耐えられなくなり周りを道連れに集団自殺を試みた部屋もあったというのに。


 しかし手放しに喜べはしない……なかには脱走を試みたり反逆を企てる者も過去にはあった……どこにも逃げ場など無いというのにな。


「会話の内容からは危険思想などは無く、覚醒者の中で能力の高かった者が皆を鼓舞した結果のようです」


 技術者は私の心配を感じ取ったのか詳細の報告をしてきた。稀にあるのだ……覚醒したばかりに拘わらず突飛津した能力、精神力を持ち合わせた英雄足るべき者が現れる事が。今回がそのだとよいのだが……


「幸福だった夢から覚めて酷い現実に突き落とされたというのにか? 彼等の平均年齢は17歳だろう……それは凄いな。会話をピックアップしてリーダー、サブリーダーを決めておこう。他のルームもそうあれば楽なのだがな」


「これは特殊な事例でしょう……今回の覚醒者200人のうち何人が正気を保って生き延びれるでしょうか?」


 精神に異常をきたすのは覚醒者ばかりでは無い、こんな非人道的な実験を行う研究者の精神もまた蝕んでいくのだ……こんな事に関わっていながら生きていける者などまともでは無い……彼も私も含めてな。


「それは軍本部の責任であって我々の関知する所では無い。そんな事を気にしていてはこの仕事は出来んよ」


 そう、彼等の行く末を考えれば……いや考えてはいけないな。今回の覚醒者を軍本部に送り届けた後に、再び次の覚醒者を選別するべく私達の成すべき事は続いていくのだ……そしてその終わりは未だに見えない。




□□□ 軍実験施設ルーム7:エイジ □□□




 それにしてもこの部屋は扉が見当たらない。一体どこから外に出られるんだ? ゲームにもそういった部屋があったっけ? 確か天井から出られるんだったか……


「いつまでここにいれば良いのかしら? 出来れば早くここから出たいわ」


 アイリは未だに寝たまま動かない二つのカプセルを見ながらそう言った。そうだよな……その気持ちは一緒だ。


「願わくば今の良い状態でお偉いさんか何かの説明が欲しい所だな……あの夢に出てきたおっさんとか来ないのかな?」


 すると再び頭の中にコールメッセージが届いた。


『お疲れ様です、本日はひとまずお休み下さい。各覚醒者の方々の部屋をご用意しています。MAPに従って部屋にお進み下さい。なお、23時までは自由時間として貰って大丈夫です』


 メッセージと共に視界情報にMAPが表示され、小部屋の一つに赤いマーカーが表示されていた。すると部屋のカプセルの対面に位置する壁全体が下にスライドして降りていく。


「自由時間だってさ~、今更気付いたけどSOFと同じメニューが使えるね……殆ど灰色で何も出来ないけど」


 確かにメニュー画面が開けるけれどステータスも装備も全て見る事が出来ない。ただフレンド項目は有効でらしくSOFの仲間の名前はしっかりと表示されていた。

 だが、その数は激減している……それでも何人かはここへ来られたと言う事か。


「とりあえず一旦自分の部屋にも行ってみましょう……何かあればコールメッセージをおねがい」


「おう、わかったぜ(ニヤニヤ)」


「うん、ごゆっくり(ニヤニヤ)」


「お前ら何か変な事考えていないか?」


「「べ~つにぃ~?」」


 こいつらなにニヤついてんだ? 変な事企んでそうだな。


「はぁ……とにかく、色々あってゆっくり落ち着いて考える時間が必要でしょう、ふざけてないで一旦休むのよ」


「了解だ……俺はこっちだな」


「は~い……ボクはこっちみたい」




……俺達は一旦解散して自分の部屋に戻る事にするのだった。




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色々分からない事も多いかと思いますが、主人公と一緒に知っていく事になるのでどうかお付き合いお願いします。


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