起動 04

『適合の条件が整いました……ただちに覚醒します』



 訳の分からないメッセージと共に俺達の体が動かなくなる。おいおい、何だよこれは。変なトラブルとかゴメンだぜ。


 俺は街のアミューズメントフロアからのアクセスだから、身体はゲーム筐体内に座っている。食事やトイレなどの身体状況は規約に従って使用しているボディモニタリングアプリを使い最適な状態でプレイしているから問題ないはずだ……が、何時間も拘束されては話は別だ……場合によっては悲惨なことになる。


 筐体内を賠償金はちゃんと運営が払ってくれるんだろうな? この年になってという精神的ケアもして貰わないと割に合わない。


 既に目の前が暗くなって何も見えなっているが意識はそのままだ。まいったな、勝利の喜びから一転して不安いっぱいだ。



 しばらくすると目の前にえらく立派な黒い軍服? のような物を着た白髪オールバックのおっさんが現れた。だが、相変わらず俺は動くことが出来ず、声も発することが出来ない。


『覚醒者の諸君、よくここまで己を高めることが出来た。私はそれを誇らしく思う』


 ……そしてなんか偉そうな演説が始まった。あとは一方的に相手のいう事を聞かされる時間が続く。直接頭に情報が流れ込んでくるようで、その内容から意識を背ける事が出来なかった。


 おっさんが話す内容は信じ難い物だった。


 簡単に言えばゲーム『STAR of FRONTIERスターオブフロンティア』の世界は現実で、俺達が現実だと思っていた世界はだった。何を言っているか分からないと思うが俺も混乱している。


 人類が宇宙進出を果たし膨大な時間ときが流れ、外銀河まで手が届くようになった世界。そこに宇宙外生命体『ヴァルシアン』の登場で人類はその物量に追い詰められているそうだ。ここはまさにゲームの設定に忠実な出来事が現実に起こっているらしい。


 ……数で劣る故に個々の能力を極限まで高める方向に人類は進化していった。


 俺達の体験していた現実より遙か未来のこの世界は、人間……もちろんゲームと同じようにエルフやドワーフなどの種族も込みで……の身体のポテンシャルは理論的には最大まで引き出せるようになっている……のだが、どういうわけか実際にその能力を発揮出来ない。


 身体は問題ないはずなのにそれを発揮出来ないのは何故か……それが信じられないほど発展したこの世界でも分からないらしい。しかし、軍の兵士の中には英雄と言えるほどの力を使える存在も確かにいるのだ。


 そこで現在は身体のポテンシャルを100%発揮出来る適合者を探すために様々なテストが行われている。身体を動かすための精神……オカルティックに言えば魂とも言える物があるのではと……その一つが仮想現実世界で過ごした人間の中から探すというものだった。


 テストする時代は非常に幅が広かった。ただある程度、この現実世界に適合できる時代に限っているようで、俺達の住む日本だと1900年以降で50年区切りでテストが行われているらしい。


 そして、テスト結果はゲーム世界をある程度再現出来る俺達の住む時代以降に適合できる者が多いようで、より細かい年代で区切っているらしい。


 つまるところ見事に覚醒者たる力を示した俺達はこれから数々の戦場に向かい宇宙外生命体『ヴァルシアン』や、人類側の敵勢力と戦争して来いって事だ……ふざけんなよ。


 どうやら学生としての情操教育を育みながらもその世界の倫理観に囚われずに行動出来る者が覚醒者の条件らしい……つまり俺達は戦争でと判断されたって事だ。


 そして俺達を含めてこのテスト……というか実験だよな。実験をやらされている全員戦災孤児だ。親も親戚もいない、孤児を育てるような施設などはないらしい。


 仮想現実に戻ろうにもいつまでも人間1人を生命維持していくゆとりもなく、覚醒者になれない人間も学校卒業までに芽が出なければ安楽死処理されるらしい。俺達のような覚醒者であっても戦いを望まないのなら痛みも苦しみもなく安楽死処理してくれるらしい……慈悲深くって涙が出そうだ。


 かなり怒り心頭でどうにかなりそうな場面もあったのだが、精神操作されているのか、俺は何回って考えたっけ? なんてくだらない事を思考するくらいには心落ち着けて現実を受け止めてしまった。


『それではこのまま君達……適合する者がそのまま覚醒を望むのなら、そう思考すれば覚醒者として目が覚める。望まないのならそのまま永遠に眠ることが出来る。我々としては君達に同志として目覚めることをただ願うのみだ……それではまた会えることを期待して……』


 そういっておっさんは消えていった。ああ、軍の総司令みたいな人だったらしい。色々理不尽に現実を突きつけられたけれど、俺は当然覚醒を望む。


 どんなに騒いだって元には戻れないんだ。ならば生きてく上で何が出来るかを考えれば必然的に分かることがあるだろう……そうだよ、ここには本物のEXT イクストがあるんだよ!!


 仮にディストピアみたいな世界でもEXT イクストを動かせるのなら悪くないだろう? ついさっきまで学生気分だった俺がこんな事でテンション上がるなんて、精神がぶっ壊れているのかもしれないな。


 だけど、どうせ戦わされて死ぬかもしれないんだ、それならやりたい事、出来る事をやって生き延びてやる!!




 俺は新しい世界でも相棒……『アークキャリバー』で生き抜いてやるぜ!!



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ぼんやりとした視界……次第に焦点が合っていく。目の前をガラスのような物が覆っている。目の前に映るのは……ん? 髪は艶のある白髪、髪型はゲームと同じだが……顔は現実世界……いや、仮想世界? 紛らわしいな。学生だった自分の顔だった……すっげー違和感。


 視界の下から手が……右手が現れる。手は動くようだ……それは若干ごっつくて白い手袋をしている? 多分ボディーアーマーなのだろう。きっとこれもゲーム内と同じなのかもしれない。


 ピピッという音と共に眠っているベッド? 全体が起き上がり身体が直立した状態にまで上がると、目の前のガラスがブシューという音を立てながら上に開いた。


 身体は問題なく動くようだ……ベッドらしき物から出ると周りを見渡した。ゲームで使っていたルームと似たような機械的な部屋。俺の左右隣には同じようなベッド……というか、カプセルに見えるな……が、20個くらい並んでいた。


 そして同じようにカプセルが起き上がると次々に開いていった……だが、そのうち3個ほどカプセルは起き上がりもせずにそのままだ……たぶん、そう事なのだろう……もし知り合いが眠ってでもいたら、さすがに心がどうにかなってしまいそうなので見に行くことは止めておこう。


 ふと後ろから強い存在感を感じる……知っているような知らないような不思議な感覚だ。


「エイジ!! エイジよね!?」


 突然、腕をつかまれながら声を掛けられる……この声はアイリ!? 振り向くとそこには綺麗な銀髪のストレートヘアが似合うエルフの……あれ違う? 美人は美人だけど違う!?


「え? エイジ? やっぱり……榎本えのもとくん!?」


「生徒会長? まさか、生徒会長がアイリなのか?」


 その顔はいつも学校行事の挨拶を遠くから見上げていた顔があった。お堅いイメージがあった生徒会長があんなガチ勢並にSOFゲームを遊んでいたなんて。


「会長がアイリだったのか……全く想像出来なかった」


「私は榎本くんがエイジかもって思っていたわ……大会の後その事を話したかったの」


 え? なんで身バレしそうになってんだ? 俺、会長とそんなに話した事無いよな? こう言っちゃなんだが俺はSOFゲームに全てを掛けてるくらいのめり込んでいて、学校では髪はボサボサで友達もいないヤバいやつだったはずだ。SOFゲームでは普通に会話するからコミュ癖というわけではなかったが。


「私もそうだけど声変えていないから……あなたの声は結構イケボだし」


「そうか……照れるな。言われてみれば会長とアイリの声一緒だな……透き通るような綺麗な声」


「おいおい、恐ろしい現実にたたき落とされたのにもうこの夫婦イチャついてるのかよ」


 俺達の後ろから声がした……振り返るとカーキ色のボディスーツに身を包んだ赤髪の……剣道部主将の山沼だった。


「え? 剣道部の山沼? その声、お前……もしかしてガットか?」


「おう、エイジは俺のリアルを知っているのか……すまん、俺はお前のリアルが分からん。会長はもちろん分かる」


「山沼くんだったのね。ごめんなさい、凄い声でメーンって言ってる声しか聞いてなかったから」


「あれはメーンっていうよりウェーーーインンって感じだよな。いつも何言ってるか分からなかった。ってか、剣道部のくせにゲームばっかやってるから万年初戦敗退なんだよ」


「ほっとけよ、それに馬鹿正直にメーンとか言うと何するかバレるだろ……いや、そんな事どうでもいい。しかしエイジはゲームでは無表情だったのに、かなりイケメンじゃないか……その顔なら俺も学校で見て覚えていそうなんだがな」


「顔はデフォルトのままで表情補正とか面倒でやらなかったしな……あー、俺は学校では目に掛かるくらい髪ボサボサだったから」


「ん、お前、隣のクラスの榎本か!? うわー、わかんねーわそれ!!」


 話した事も無かったのによく覚えていたな……俺は学校の事なんか無関心だったのに。世間は俺が思った以上に周りに関心があったという事なのだろうか?


「なんかとんでもない事になったけどお前らが一緒ならやって行けそうな気がするぜ」


「ああ、ガットがいてくれて心強いぜ」


 俺達は互いの右腕を上げ拳をぶつけ合った。あとは一人いれば……


「あとはフレーナね……あの子は高校……中学生なのかしら?」


「ありゃ、どう考えても小学生だろう? 絶対に面識無いと思うぜ」


「……お前、あとで怒られるからな」




 しかし、どこを探しても彼女の影は見つからない……まだ開かないカプセルを確認しようとする奴は俺達3人の中にいなかった。




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今回は説明回です。字がいっぱいで済みません。


そしていきなり鬱展開です。


ちなみに覚醒した時点で戦争に駆り出されて相手の命を奪う事が出来る適性があると判断され厳選済みです……それでも駄目な人のカプセルは開きません。

後々の描写で「うははwwwwこいつらこないだまで高校生だったのに人殺ししてるwwwwサイコすぎwww」とか思うかもしれませんがそう言う理由です。

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