遊撃隊編

起動 01

 そこは暗闇だった……何も見えない闇の中にピッっと音が響く。


EXT イクスト起動シークエンス開始』


 合成音声によるアナウンスが流れると計器類の光が点りコクピット内が僅かに明るくなる。辺りに機械の起動音が鳴り響き、一気に俺の視界が開けた……360度モニターが外の景色を映しだしたのだ。


EXT イクスト起動シークエンス完了、武装を選択して下さい』


 AIが武器の選択を要求してくる……今回の戦場は基地内の戦闘になるから白兵戦武器が必要だろう。


「Aセットだ」


『了解しました。Aセット、メインウェポン:ブラストソード、サブウェポン:MAX93R、シールド:アークシールドをセット』


 機体に要求した装備がセットされているのだろうが特に振動などは感じない。ただ、視界の脇に表示されるサブモニターに装備完了と表示されていく。


『パイロット:アイリからブリーフィングの要求です』


「繋いでくれ」


 そう言った途端に目の前が一瞬ブラックアウトすると、いかにも作戦会議室と言える場所に立っていた。部屋の中央には立体モニターを表示させるデスク。そのデスクを挟んだ向かいには美しい銀のストレートヘアの美女が立っている。

 特徴的なのはその耳……まさにファンタジーに登場するエルフだ。そしてそのファンタジーな存在を否定するように近未来のソルジャーを彷彿させる機械的な黒い基調とするボディースーツに身を包んでいる。

 機械的なスーツだがそれと同時に女性らしいボディラインはしっかりと出ており、年頃の俺としては状況が許せばじっくりと眺めたくなると言ってしまおう。

 戦闘中にスカートの中からチラチラ見えるのは上半身から続くボディスーツなので決して下着ではない……だが、目が追ってしまうのは悲しい男のサガだ。


「エイジ、遅かったわね……まさか緊張しているの?」


「そんなに時間掛けたつもりはなかったが、待たせたのなら悪いな」


 このブリーフィングルーム自体は脳内コンピューターアドブレインを利用したVR空間であり、ここで何時間過ごしても現実では数分に過ぎない。そのせいか、早めにこのブリーフィングルームにいたアイリにとって俺の入室までの時間が遅く感じたのだろう。


「今回は敵基地襲撃よ……マップはそれほど広くないでしょうから武装はそのつもりでいてね」


「ああ、もう装備は済んでるよ」


「もう、何のためのブリーフィングよ……まぁ、いいわ」


 そんな話しをしているとデスクの左側に光の粒子が生まれると人の形になった。そこにはアイリと同じような……こちらはカーキ色のボディースーツに身を包んだ大柄な男が現れる。短めにカットされた赤い髪を逆立てたワイルドに笑うその男は片手を上げる。


「よう、待たせたな。今日もよろしくな、アイリ、エイジ……フレーナはまだか?」


「よろしくなガット、フレーナはまだだけどすぐ来るだろう」


 大柄な男、ガットの見た目は俺達と違い人間だ。こいつのボディースーツは体の……まぁ、男についての説明は要らないだろう。


「ん? エイジ、なんか失礼な事考えなかったか?」


「まさか、気のせいだガット」


 そんなやりとりの間にデスクの右側から光の粒子がうまれ、ガットと同じように最後の仲間が現れた。緑髪のボブカット、小柄体にはピンク色に白いラインの入ったボディースーツを身に纏い、凹凸のない……スレンダーとでも表現しておこうか? ……俺達の中では年下を感じさせる身長と容姿の女の子……まぁぶっちゃけると幼女が現れた。


「やっほー、ボクが最後だったかー、おまたー」


「よう、フレーナ、そんなに待っていない」


「まぁ、作戦会議と言ってもやる事無くないか? 結局いつものポジションだろう?」


「ポジションはそうだけど、作戦は必要よ……相手はチーム”デトネイター”、Bブロックのトーナメント勝者。リーダーのアーサーは上位ランカーよ」


「へっ、俺達だって上位ランカーだろうが。負ける要素なんか無いぜ」


「ガット、油断するなよ? お前はムラっけがあるからな」


「ほんとほんと、いきなりやられて3対4とかゴメンだからね」


「なんだよ、信用ねぇな……わーったよ」


 ガットは頭をガリガリかいてバツの悪そうな顔をした。1回戦で実際にあった事だから釘を刺して置いておいて正解だろう。

 コホン、とアイリがわざとらしく咳払いをすると、中央の立体モニターがマップを表示する。


「基地までは4人ともEXT イクストで攻める……これはいつも通りね。相手チームの2人はEXT イクストの大会常連だからおそらく外で交戦になるわ。基地の外に二人、中に二人になると予想されるから……その場合はエイジ、あなた一人で頼むわよ」


「ああ、まかせてくれ。EXT イクストランキング3位は伊達じゃないぜ……今回のトーナメントを勝ち抜いて、全国大会で優勝すれば1位も夢じゃないからな」


「いいな、俺もそんなセリフ言ってみたいぜ。でも、全国大会を勝ち抜けば俺もファイターTOP10入り出来るかもしれねぇ」


「取らぬ狸の皮算用ってやつだね」


「うるせぇよ」


「はいはい、まだ作戦会議中だからね……相手のEXT イクストが1体ならエイジは基地内まで着いてこれる所まで着いてきてね」


「了解だ」


「基地の入り口に短距離転送装置ポートを設置してエイジはそれを死守、私たちはEXT イクストを帰還させて基地に侵入、最奥部のコアを破壊よ」


「まぁ、結局基地内の構成によって出たとこ勝負……基地の構成はもちろん、攻撃兵器をどのくらいの割合で構成するか分からないからな」


「多分、うちには脳筋がいるからトラップ多めじゃないかな?」


「脳筋? 誰かいたっけか?」


「誰の事だろうな? ガット」


「誰の事だろうね? ガット」


 相手を撃破したり攻撃兵器を破壊すれば相手の戦力値フォースゲージを減らす事が出来る。もちろんこちらもやられれば自分たちのフォースゲージが消費されてゼロになれば俺達の負けだ。

 今回のルールは俺達がオフェンスで相手がディフェンス。この場合はディフェンス側のフォースゲージをゼロにするだけでは勝利にならず、コアを破壊しないと勝利にならない。もちろんフォースゲージをゼロに出来れば相手はリスポーン出来ないから勝利と言っても良いのだが、時間制限や残ったトラップにやられたりする事があるため、ややディフェンス側が有利だと言われている。


 人型機動兵器『エクスティターンEXT』の強さは凄まじいが倒された時のフォースゲージ消費が大きい上に狭い場所には入れない。だいたいディフェンス側は基地内にEXT イクストが侵入出来ない構成にするだろう。

 また、基地外で対EXT イクスト戦をするより基地内で対人戦をする方が有利な事も多い。先程アイリが言っていた敵のEXT イクストが1機だと俺の活躍が無い可能性もある。


「相手はエイジの実力を分かっているからEXT イクスト戦を捨ててくる可能性もあるわ」


「エイジはEXT イクストがめちゃめちゃ強いけど対人戦は微妙だもんね」


 最近は近接戦闘のを掴んだのだが、まぁ、今、あえて言う必要ないか。


「ああ、俺はEXT イクストを使いたくてこのゲームを遊んでいるからな。対人の能力には全然振ってない」


「威張るなよ」


 さて、今更だがこれはゲームだ。


STAR of FRONTIERスターオブフロンティア


 科学が極限まで発達した世界に襲い来る人類の敵『ヴァルシアン』……異形の生物。それは突如辺境の惑星上空に膨大な数で現れると人類に対して予告も無しに攻撃を始めた。人類はそれに対抗するために……まぁ、その話は別に必要ないか。


 このゲームは元々、人間……以外もいるけれど……である自分のアバターを操作するオンラインMMORPGと、ロボット……EXT イクストを操作して戦う対戦型アクションの筐体型アーケードゲームと同時に始まったのだが、サービス開始から1年で突如ふたつのゲームをリンク展開を始め、互いのデータがそれぞれ反映されるようになった。


 ロボット物が大好きな俺はアーケードゲームの方で遊んでいたのだが、RPGで育てた能力が反映される……というか、相互使えるパーツが手に入る……と分かると、そちらRPGも速攻で始めたのだった。


 そのお陰かEXT イクスト戦は得意だがアバター自身の能力はそれほどでも無いという人間も多い。中にはどちらも高水準で強い奴もいるのだが、それでも特化した人には敵わない事が殆どだ。俺もEXT イクストでは絶対に負けない自信を持っている……まぁ、それでも3位なのだけれどな。



「作戦は以上よ……質問はある?」


「ないぜ」


「ボクも大丈夫」


「大丈夫だ、問題ない」


 どうやら物思いに耽っている最中に作戦会議が終わったようだ。聞いていなかったけれど、まぁ、俺のやる事は決まっている……何とかなるだろう。ん? アイリがこちらを見ているな……


「それじゃあ各自ブリーフィングルームを抜けて、戦闘開始までEXT イクストで待機よ」


「「「了解」」」


 そのかけ声と共にデスク左右二人が光の粒子となって消えていった。部屋に残ったのは俺とアイリだけだ。


「どうしたんだ? 何か言いたい事があるのか?」


「エイジ……あなたって……いいわ、大会終わったら時間をちょうだい」


「? ああ、いいぜ」


 なんだ? 言いたい事があったのかと思ったけれど、後回しにするくらいならそれほど急ぎではないのか。俺はブリーフィングルームを抜けると再びEXT イクストのコックピットに戻ってきた。正確には体はここにあるまま、意識だけルームにいたという方が正しいか?

 俺はそんな事を考えつつも戦いを前に体が熱くなってくる……その反面頭は冷静だ。戦いを前に俺は静かに闘志を燃やし始める。




「『アークキャリバー』……俺の相棒、俺達の力を見せてやろうぜ」




______________________________________


タイトルの『ファンタジー世界で~』までが結構長い予定です。書いていたら予想以上に世界観が膨らんでしまったので、しばらくお付き合いいただければと思います。


作中のゲームルールはガンダムマキシマムブーストと同じ戦力ゲージ制といえばわかりやすいですかね? これはプロローグ部分だけにしか出てこない設定なのでそこまで気にかける必要は無いです……それ以前にオリジナル用語多くて済みません。こちらは追々説明が出てきます。


あと、オリジナルロボット兵器の名称が何種類か出ていて分かりにくいかもですが、正式名称が『人型機動兵器エクスティターン』で、基本的に使われる略称がEXT(イクスト)です。エクストじゃないのは何となくEX-S(イクスェス)ガンダムも正式名称が「エクストローディーなんちゃら」だから格好いいじゃん!!と思ったからで、「え~普通はこうは読まないよ~」とか言わないでください。


コックピット内は円形の360度スクリーン中央に椅子、Zガンダム以降でよく見るやつですが、

オートからマニュアルに切り替えて起動すると直立に近い姿勢にシートが動きます。トップを狙え!のコックピットイメージで良いです。



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