俺はファンタジー世界を自重しない科学力(ちから)で生きてゆく……万の軍勢? 竜? 神獣? そんなもん人型機動兵器で殲滅だ~『星を統べるエクスティターン - rule the Stars EXT -』

ヒロセカズマ

PROLOGUE

星を統べる者 1




 巨大な島……いや、大陸が空を飛んでいる。




 現実では考えられないような光景、いや、それはこの世界でも考えられないような光景だ。


 空飛ぶ大陸の周辺には数え切れないほどの黒い点が見える。それは全て空を飛ぶ生き物であり、知らぬ者が見れば鳥か何かと見間違えたかも知れない。


 しかしそれは鳥と言うにはあまりにも大きく、凶暴で、猛々しい生き物……幻想生物では知名度の高いドラゴンだった。


 これだけの数を従える空飛ぶ大陸の覇者は、新たなる支配地を求め進んでいる。


 目指す地は世界の中心と呼ばれる中央大陸。


 太古からそこがこの星の始まりの地と呼ばれていた。空を飛ぶ大陸……浮遊大陸とでも呼んでおこうか……の覇者は、果てしなき野心で大地を支配し、その勢力を拡大してきた。


 そして野望の果てに始まりの地である中央大陸に舵を切ったのである。


「我が旅もこれで終わりを迎えるのかと思うと感慨深い物があるな」


 浮遊大陸中央の城の王座から外の様子を立体映像で眺めながら竜の王は呟いた。身体は人のそれと同じだが、違いは頭に角と背に翼を持つ異形の人間だった。


 ここまでの道のりは決して平坦な物では無かった。


 見た目は人間だがその能力が遙かに高い超人の国。


 身体の大きさがとんでもなく大きい巨人の国。


 全ての人間の背に翼の生えた有翼人の国。


 全ての人間が強力な魔法を使う魔法使いの国。


 他にもさまざまな国があったが、それを全て竜の力でねじ伏せて配下に治めてきた。そしてその支配の度もいよいよ終わりを迎えようとしていた。


「キング、中央大陸から通信が入っています」


「ほう、こちらの存在に気付いているか……それで何と?」


「はっ、読み上げます……『警告する、そのまま進めば我が国の領空を侵犯したと見なして攻撃を開始する。速やかな進路変更を要請する』……と、この内容を繰り返しております」


「……っっっ、くっくっくっくっ、はっはっはっはっはっ!! 愚かな……こちらの戦力を把握出来ぬと見える……これは傑作だ!!」


「キング、いかが致しましょう?」


「捨て置け」


「はっ、このままの進路を維持します」


 竜の王は相手の警告を一蹴すると再び王座から目的地の大陸を見下ろした。


 竜の王は海に浮かぶだけの大地の国に何が出来るか……たとえ力があろうと無かろうと、空を飛べようと飛べまいと、魔法の力があろうと無かろうと……全てはこの竜の……強大な力を持って制してきた。


 いくら太古から言い伝えられる始まりの大地であろうとそれは変わるまいと考えている……その気持ちとは裏腹に、せっかくの旅の終焉を精々楽しませてくれとも願っていた。


「間もなく中央大陸に侵入します」


「レッサードラゴンを前進させろ」


「はっ、レッサードラゴン隊、1から50番隊前進せよ!!」


 浮遊大陸の前方に5000のドラゴンが進み出た。レッサードランゴンとは言え、ひとたびそのブレスを放てば一撃で村くらいは焼き払う事が出来るだろう。


「最後の戦いだ……派手に暴れる事を許可しよう」


 竜の王の戦意の高揚が最高潮に達したときそれは起こった。レッサードラゴンの群れにいくつもの光の線が通ったかと思うとドラゴン達の半分以上が消失していた。


「!!??」


 再び光の線がドラゴンたちに向かって放たれると、もはや前衛のレッサードラゴンはほぼ見えなくなった。


「な……何が!?」


 ドラゴンの群れで見えなかった中央大陸上空に何かが浮かんでいた。人か? いや、人にしては大きい……そして、背中に翼が生えている様にも見える……有翼人? いや、巨人の有翼人か?


『警告を無視して大陸に侵入しようとしたんだ……そのくらい当たり前だよな。さぁ、どうする? まだこの大陸を諦めきれないか? たしか……ドラゴネスト天空王国だったか?』


 どういう技術を使っているのか知れないが空に浮かぶ有翼巨人から浮遊大陸場内に声が届けられ、その声を聞いて竜の王は二度目の驚愕の表情を見せた。


「我らを知って……な、なんだ……貴様は……なんなのだ!?」


覇王オ-バーロード……エイジだ。俺の国を狙っている不届きな奴らにお灸を据えに来てやったってわけだぜ』


 有翼の巨人は側で見ると機械仕掛けの巨人といえる外観だった。そしてその中に搭乗しているパイロットはまだ少年と言って良い容姿をしている。彼……エイジは不敵に笑いながら会話を続けた。


「これが気になるか……これが人類の英知の結晶であり、俺達の戦いのための刃となる機械仕掛けの巨人……人型機動兵器エクスティターンだ」


 彼の駆る巨人の後ろに続く仲間の巨人も中央大陸から飛び上がってくる……その数は1000機にも及ぶだろう……だが、竜の王はその数を見て安堵した。


「ふっ、たかだか1000体程度の戦力で……こちらは数万のドラゴンの軍勢だぞ。確かに最初の攻撃は大した物だが、はたしてこの物量に勝てるとでも思っているのか」


 ちなみに、竜の王の言葉は通信をしているわけでは無いのでエイジには届いていない……あくまで彼の独り言だ。だが、まるでそれに応えるかのようにエイジは語り出した。


『戦いは数だと思っているな……一般的にはそうだろう。だが圧倒的力を持つ俺達にその常識は全く通用しないぜ』


 エイジの駆る有翼の巨人……エクスティターンEXTが両手に持つ剣を前方に構えると、その剣は互いに合体して巨大な銃のような砲身となった。

 その先端が輝き出すとそこから先程とは比べものにならないほど光が解き放たれる。


「強大なエネルギーが来ます!! 身をかがめて何かに捕まって下さい!!」


「くっ!?」


 その瞬間、王の間を大きな揺れが襲った。この浮遊大陸を揺るがすほどのエネルギーの奔流を、この大陸に比べれば吹けば飛ぶほどの身体の大きさの存在が放つとは信じ難い……竜の王は夢を、いや、悪夢を見ているのかと疑いそうになった。


『これは挨拶代わりだ……戦力の出し惜しみをしない方が良いぜ? 油断しているとその大きな石ころが、あっという間に海に墜落する事になるからな』


「おのれ……地を這う種族が調子に乗って!!」


 相手の力を目の当たりにし、この戦いが一筋縄ではいかないと判断する竜の王。だが、ここまで来て後に引く事は出来ないだろう。


「我が先鋭達よ……あの空飛ぶ有翼人を殲滅せよ!!」


 竜の王の言葉と共に待機していたドラゴン達が浮遊大陸から飛び立つ。その数は先程のレッサードラゴンの数の比では無い。


 だが、相対するエクスティターンEXT内の覇王オ-バーロード……エイジは不敵な笑みを崩さない。彼には負けるなどあり得ないという絶対的な自信があった。


「やっと大陸統一までこぎ着けたんだ……本当にここまで来るのにどれだけ時間が掛かった事やら」


 ふとした事からファンタジーな惑星に突き落とされ、時には仲間に裏切られて一人きりになり、それでも力を集めてここまで来た……そして、目標である宇宙への帰還は未だに果たされていない正に志半ばという状態だ。


「さて、いこうか……言葉はいらない、ただ剣で語るのみだ!!」


 エイジの駆るエクスティターンEXTが翼を広げると、恐ろしい速さで浮遊大陸に向かって加速する……そして、それを合図に彼の仲間達もそれを追うように飛び去っていった。


 この国と国の……大陸と大陸の戦争であっても彼の物語のたった一部に過ぎない。それでも彼がここまで来るのには長い時間を要していた。




 ……さて、彼がいかにしてこの場に立つ事が出来たのか……




 ……語ろうか、この星の物語を……




 ……語ろうか、一人の英雄が覇王オ-バーロードと呼ばれるまでを……




 ……語ろうか、英雄がこの星を統べる始まりの英雄譚を……



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