第8話
その後、嵐はやってきた。リツイートが二十となり、それよりも多くのダイレクトメールやリプライが来る。「ハヤトとどんな関係?」「調子のってんじゃねーよ」「エセインフルエンサー死ね」「ブス」「ハヤト様の邪魔はしないで」という、初対面というのに、敬語のない無礼な文面ばかり。
きっかけは何なのか分らなかった。ハヤトのタイムラインを覗いてみるとこの騒ぎは何かようやく分かった。
[新製品飲みたくてスタバ!電車遅延したせいで友達を待たせてしまった・・・]
神様のイタズラとしか言いようがなかった。キャラメルスチーマーかは断定できないが、ホットのショートカップと、彼が楽しみにしていたであろう新作のフラペチーノが並んで写っていた。リツイート数は五十となり、意図しない展開に戸惑いつつも、してやったりと、小さくガッツポーズを作る。
ひっそりとネットの掲示板で話題になった。それまでスルーされていた、偽アカウントだと気付かれないための日常ツイートすら、女からの誹謗中傷のリプライが毎日のようにあった。私の整形まがいな加工画像にケチをつける。さすがに、自然な二重をアイプチとけなされたのはイラっとしたが、ひがむ女たちを前に、さらなる優越感を感じつつあった。だから、私の心に対してダメージはなく、毎日のように来る顔のない誰かからの反応が楽しみだった。
ただ、誹謗中傷のリプライが集まる中で、私のツイート全てにリプライを返している男性がいた。プロフィール上は、投資家ということで、始めは、ある種の広告目的だと判断していたが、ある時から様相が変わってきた。私がホテルの入り口付近にある喫茶店で、友達とアフタヌーンティーなうと呟いたときのことだ。
[僕もここによくいきます。今週から始まったイチゴフェアのタルトはすごくオススメです。機会があれば是非。あなたとバッタリ会えればいいのに。]
投資家の男性を装った粘着質な女の嫌がらせなのだろう。よくもこんな長期戦を決め込んだものだと逆に尊敬する。しかし、足がつくのはまずい。こうやって粘着されるのは想定の範囲内ではあるが、なんだか気味が悪い。本能的に危険を察知し、アラートが鳴り響いていた。
しばらくすると、ダイレクトメールが毎日のように送られるようになった。「おはよう」から始まり、「今日はどこに行ったの」「仕事お疲れ様」「僕のお勧めはここです」だとか。気分転換で始めたことなのにも関わらず、だんだんノイローゼになってくる。
恐怖が決定的になったのは、男性の陰部を送りつけられた時だった。こいつは、他のユーザーとは明らかに異なり、私自体に興味があるのだと確信した。怖いもの見たさでダイレクトメールを見続けてはいたが、限界に達し、彼をブロックし、私はいそいそと非公開設定へと踏み切り、ハヤト信者へ別れを告げた。
しかし、ログを取っている者がいたらしく、私の逃亡は失敗に終わり、まとめサイトに残されてしまうこととなった。毎週アクセスしてみるものの、消える気配はない。
顔も体もうっすらとしか出ていないし、どちらも加工に加工を重ねたもの。私のチャームポイントである泣き黒子も常に修正してある。しかし、所詮無料アプリで編集しているだけなので、伸縮させた目や鼻の周りはよく見ると歪曲していたり、影が不自然になっている。
加工画像といえど、いつか特定されるのではないかという考えは常に心の隅にあった。私はネットに顔を公開するという行為に抵抗があり、友達もそれを認識していた。おそらく、あったとしても大人数で取った数枚しか出回っていない。様々な検索エンジンで自分の本名を検索し、自分の画像がないことを確かめる。仮想世界の怖さを改めて実感した。
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