第6話 海辺の街の事件

 その球を見ていると、場面が変わった。

 どこか、遠い丘の上まで、白い壁の家がずっと続いている海辺の街だ。

 その白い壁と対照的に、空は完全に青い。

 私は屋根のついた桟橋にいるらしい。

 右には別の桟橋があり、そこにクルーザーが泊まっている。

 クルーザーといっても巡洋艦ではない。大型でこぎれいなプレジャーボートだ。

 そのクルーザーの船体の色も白い。

 私がいる桟橋と岸辺のあいだに海が入り込んでいて、狭い砂浜になっている。

 クルーザーのちょうど船尾側だ。

 そこの海の水の色も透明でやっぱりほんのり青みがかっている。

 その狭い砂浜で何人かの若い男が泳いでいた。

 クルーザーのなかからか、岸辺の店からかわからないけど、若い女の一群が駆け出してきた。

 手に手に飲み物を持っている。

 そのうちの一人に、ちょっと太った、いや、グラマラスな感じの女がいた。色白で、青い、露出度の高いふりふりの服を着ている。

 その女が、笑いながら岸で泳いでいた男の一人に飲み物を差し出した。

 青い色の飲み物が、浅いシャンパン用のグラスに入っていた。

 よく日に焼けたその男は、女をバカにするように、口をとがらせて何か言った。

 女はそのことばをきいて短く声を立てて笑った。男にそのグラスを押しつける。

 男は、そぶりだけはいやいやそうにそのグラスを受け取る。腰まで水に沈めて、浅い浜辺の海の底に腰を下ろす。

 気取った振りでその青い飲み物を飲み干した。

 とてもうまそうに飲み干した。

 女にグラスを返そうとしながら、男は女に憎まれ口を叩くように口をゆがませて見せた。

 そのまま笑おうとする。

 でも、笑いは苦痛の表情に変わった。

 さっきの、わざと口をゆがませたのとは違う。胸の筋肉を両側から引き裂かれたような痛みが男を襲ったのだ。

 その痛みの表情のあと、男は、信じられない、という顔で女を見上げた。

 女はさっきの笑顔から表情を変えない。

 それで男は何か言おうとしたらしい。でも、その前に、さっきよりも強い痛みの表情をして、グラスを取り落とした。グラスが海に落ちて割れる。

 男は、そのまま砂浜に倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る