第33話 ナージャ
「報酬の八割ですわね。モンスターのドロップや財宝に関しては、宝飾品やアクセサリー類は全部こちらに頂きますわ。その他の装備は差し上げますけど、もしワタクシが着られるような美しいものがありましたら、それらも全部ワタクシのものです」
冒険者ギルドの個室で面会するなり、ナージャは開口一番、そんな要求を突き付けてきた。
「タクマさん……」
「うーん」
僕とミリアは顔を見合わせて渋面をつくる。
報酬の八割をもっていくということは、僕とミリアで一割ずつ分配することになる。
これで今までと同じ程度の利益を出すには、従来の五倍は稼がなければいけない計算だ。
このナージャをパーティに加えることに、そこまでの価値があるのだろうか。
疑問に思うのは当然だろう。
「何か不満がございまして? 本来なら、話を聞くまでもなく却下する案件ですのよ。タクマ本人はともかく、パーティとしてはあなたたちショボすぎますし、そもそもマニスのせこくてヌルいダンジョンはワタクシの趣味じゃありませんもの」
この世界のダンジョンはそれぞれ特徴があるという。
マニスのダンジョンはモンスターが比較的弱くて攻略しやすい代わりに、得られる財宝やドロップアイテムのレベルは低いと、テルマさんのレポートにあった。ナージャはそのことを言っているのだろう。
「えっと、なら何でそもそもマニスに?」
「本当は王都カリギュラの方に向かうつもりだったんですの。ですけれど、ちょうど王都とマニスの岐路の辺りにさしかかった時ですわ。ワタクシの『探知』の力が、マニスの方からお宝の情報を持っているっぽい伝書鳥が飛んでくるのを見つけてしまいましてね。それを捕まえてみれば、なんとマニスのダンジョンでゴールデンマッシュルームが大量発生したというではありませんの」
勝手に親書を開封するって、犯罪にならないのだろうか。
まあナージャは悪びれることもなく、これだけ堂々と告白しているからには大丈夫なのか。
「なるほど。それでマニスに進路を変更した。そういうことですか」
「ええまあ。結局、急いで来てみれば、ダンジョンは封鎖されているし、ゴールデンマッシュルームは滅ぼされ尽くしておりますしで、とんだ骨折り損になってしまいましたけど。ここ一週間はどうも幸運の女神様の機嫌が悪いようですわね」
呑気に髪を弄びながら言う。
言動の全てから自由人の雰囲気がにじみ出ていた。
「事情は分かりました。あの条件に関する交渉は――」
「お断り致しますわ。あなた方はワタクシがいないと10階層以降に進出できないでしょうけど、ワタクシはあなた方がいなくても何も困りませんもの。ただ、『女殺』さんにはこの前お世話になりましたから、特別にチャンスを差し上げているだけです。ま、次の乗り合い馬車がでるまでの暇つぶしですけれど」
ナージャは傲岸不遜に言い放った。
ある意味で気持ちいいほどどストレートだ。
でも、こんな物言いをする女性が、『傾国』と呼ばれるほどモテるというのはどうにも信じがたいな。
普通に嫌厭されそうだけど。
「ミリア。どうする?」
「えっと、探索者さんが加わることで、今までよりも少しでも安全に、銅貨一枚でも多く、お金を稼げる様になるなら、いいんじゃないでしょうか」
「うん。僕もそう思う。ナージャさんは今ミリアが言ったような条件を満たせますか?」
「それはあなたたち次第ですわね。ですが、お二人がよほどトロくない限り、損はさせない自信はありますわよ」
ナージャは僕の問いかけに自信ありげな微笑を浮かべた。
「……僕は受けようと思う。探索者という職業がどれほどダンジョンに潜るのに有利になるのか、確かめてみたいから」
何事も経験しなければ分からない。
この雰囲気だとナージャが僕たちのパーティに定着してくれる可能性は限りなく低そうだ。
でも、今後他の探索者と組む時の参考にはなるに違いない。
「タクマさんがそうおっしゃるなら」
ミリアも頷く。
「あら。交渉成立ということでよろしいんですの?」
ちょっと意外そうに眉を上げて、小首を傾げる。
「はい。お願いします。ですが、ナージャさんがあまり無茶な行動をとられるようなら、僕たちは自分たちの身の安全を優先して、その場でパーティ解散ということもあり得ると念頭に置いておいてください」
そう釘を刺しておく。
ナージャは腕がいいという評判だが、評判はあくまで評判だ。
とんでもない地雷だった場合の保険もかけておく必要がある。
「もちろん構いませんわよ。それはお互い様ですわ。ワタクシもあなた方のために命を賭けるつもりはございませんし」
「わかりました。では、テルマに報告した後、早速ダンジョンに向かいましょう」
僕とミリアは、ナージャと合意の握手を交わした後、テルマさんの下に向かい、10階層以降で達成できる依頼を受けた。
さて、どうなることやら。
『傾国』ナージャのお手並み拝見だ。
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