第11話 初めてのダンジョン(きのこ狩り)
人いきれをかいくぐるように直進する。
中心部には、校庭のトラックコートを上回るのではないかというほどの大穴。
淵に設置された縄梯子をつたい、下に降りていく。
一階層に足をつけた僕は、深呼吸一つナップサックから松明を取り出した。
「メイクファイア」
左手に持った松明に火をつける。
右手には抜き身のショートソードを握った。
ポケットにはスマホも入れてあるので、万が一松明が消えても一応明かりは確保できるようにしてある。
(とりあえずは袋小路に入らないようにいくか)
頭に入れた地図を思い出し、先に進む。
いざという時の逃走経路の選択肢が一番豊富なルートを選んだ。
……のだが。
(全然モンスターがいない)
下層に潜る冒険者に通行がてら蹴散らされたらしいモンスターの残骸は散見するが、とても商品として価値のあるような状態ではない。
(……うーん。ちょっと人通りの多いルートから外れるしかないかなあ。なるべく安全確実にいきたかったんだけど)
僕はもちろん、忘れていない。
テルマさんが忠告してくれた、彼女が担当する初心者だけを狙った暴漢が現れる可能性を。
もしそういう人間がいたとして、人通りの多い場所なら敵も仕掛けにくいと考えていたのだが、かといって、来るかも分からない影に怯えてミッションをこなせないのは困る。
(一応、念には念を入れて警戒しておくか)
僕は傍らのビッグマッシュルームの残骸に近寄った。
斧か何かの大振りの刃物でズタズタに四散させられたそれにも、まだ使い道はある。
まず、
(次は……あったあった)
ビッグマッシュルームの残骸よりは見つかりにくかったが、しばらくダンジョンを歩いていれば、やがておばけこうもりの骨も手に入った。
穴の開いた骨にさっき作った紐を通していく。
骨と骨の間隔は、揺れればぶつかって音が鳴る程度。
さらに両端に程よく尖った骨をくくりつけて、これを地中に突き刺して、支柱代わりにする。
要は、誰かが引っかかれば、音を鳴らして知らせてくれる即席トラップだ。
結局、道中で材料が見つかる限り、同じような紐を4~5本作った。
そうこうしている内に曲がり角に辿り着く。
左に曲がって、今さっき自分がいた所に即席トラップを張る。
土をかけたりして、偽装することも忘れない。
もちろん、踏んでもダメージはないだろうから、万が一襲撃者以外が引っかかっても心配ない。無論、僕自身が逃げる時にも障害にはならない。
(とはいえ、暗殺者がこんなトラップに引っかかる訳もないだろうから――)
僕はナップサックからペットボトルの空き容器を取り出して、ショートソードで細かく輪切りにする。
それを地中に半分埋めて、踏んだら音が鳴るようにした。
材質が透明だから、偽装もさらにしやすく、土をかけて、さらにビッグマッシュルームの残骸をのせれば、全く地面と区別がつかない。
先ほどの即席トラップを踏み越えた先にそれらのペットボトルのトラップを設置していく。
二段構えの罠だ。
異世界の暗殺者は、紐トラップくらいは見たことがあるだろうが、ペットボトルという存在は知らないだろうから、ちょっとは成功の確率が上がるだろう。
(正直、ここまでやる必要があるとは思えないけど……)
僕が地球で読んでたマンガに出てきた有名な殺し屋も、プロに臆病さが大切だって言ってたし、冒険者になった以上は『命大事に』でいくに越したことはない。
フサァー! フサァー! フサァー!
そんなことを考えていると暗がりの先から鳴き声が聞こえた。
鳥が羽ばたく時のような変な音だ。
目をこらす。
某有名キャラクターがゲットすればでっかくなりそうな感じの色と形をしたビッグマッシュルームが、胞子をまき散らしながらまっすぐ僕の方に突っ込んでくる。
「ギャザーウォーター メイクファイア」
僕は冷静に辺りに水をまき散らした。
水たまりを火で加熱する。
爆発的に湧き起こる水蒸気が、胞子を絡めとり、水滴と共に地面に垂れ流していく。
まあ胞子を食らってもダメージはないそうだが、万が一でも肺に寄生されるとか嫌だし。
やがて、その水蒸気をかいくぐり、僕に牙を剥くビッグマッシュルーム。
僕は退くことなく、敢えて一歩踏み出した。
「『突』」
スキルを発動する。
感覚もなく、瞬速で突き出された僕の剣は、易々とビックマッシュルームを貫いた。
――と、いうか、勢い余って僕の腕がビッグマッシュルームの身体を突き破っている。
多分、ショートソードがなくても、パンチだけで殺せたっぽい。
実感はないが、神様のチートで基礎能力が強化されているのは確からしい。
(……思ったよりも感動はなかったな)
なんというか、達成感が薄い。
事前に敵の情報も与えられていたし、チートのおかげで能力的にも僕の方が圧倒的に上回っていたからか。
(まあでも安全にこしたことはないよな……解体しよう)
僕はビッグマッシュルームから腕を引き抜いて、ショートソードを地面に突き刺して、解体用のナイフをホルダーから取り出した。
テルマさんの解体図によれば、ビッグマッシュルームで価値の高いのは、まず牙。
これがポーションの材料になる。
次は、胴体。
これは食用になる。
ただし、身体の七割を占める軸の部分は硬くて食べられないので、可食部は意外と少ない。
ただ元の図体がでかいので、それでもかなりの量が採取できる。
傘の部分も一応食用にはなるらしいが、胞子を除去したりする手間がかかる割にはまずいので商品価値はないらしい。
と、いうことで切り捨て。
こうして集めたビッグマッシュルームの素材をナップサックにしまい、解体用ナイフを再びホルダーに収める。
おそらく、後3体も狩れば、ナップサックはいっぱいになってしまうだろうが、今日は肩慣らしだからこれでいい。
むしろ、早々にミッションを達成することでテルマさんに実力を証明し、もうちょっと稼げるミッションを与えてもらった方がいいかもしれない。
などと、余裕をぶっこいていたのが悪かったのだろうか――
ベコッ。
と、プラスチックがへこむほんのかすかな音を、僕は聞き逃さない。
振り向いて、地面から引き抜いたショートソードを構える。
ガキン、と手に嫌な感触。
刀身の上半分がはじけとび、破片が天井に突き刺さる。
「ほう。俺様の一撃を凌いだか。あの念入りなトラップといい、ルーキーにしては大したもんだ」
そう吐き捨てて嘲笑を浮かべているのは、昨日冒険者ギルドでテルマさんと僕に絡んできたあの先輩冒険者だった。
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