寝台車

薄く張り伸ばされた街並みに目を沈ませたとき、きみが両手をひろげて雲の底をはかっていた


とらわれた僕はいくつかの時計の針とシリンジの吐いた嘘、輪郭のぼやけたこの世でいちばん確かなものを鞄に詰め込みあるきはじめた


駅のホームにゆっくり降りてきた八両編成の悲しみに乗って、窓枠に写し取ったはぐらかされてゆく水面の色を座席の隅にかくして眠りについた


不充分な語彙の都市を過ぎ、あいまいな枯れ木が見える街に停車したころ、意識を食べ終わった朝が横顔に差したときもその光の色に名前はないままだったし、白い枕の皺は砂丘のかげに見えただけだった


朝食に切りわけた林檎が台車で揺られ机に並び僕を見た

平たい皿の上、ひだりから赤とベージュの縫い目がすらすらと話しはじめた


わたしたちはきっと意識の副産物なのだわ

らせん状の常夜灯や言葉しらずの辞書あの盲目の絵描き

そして祈りやむかし好きだったぬいぐるみたちさえも同じ場所にいるの

そうしていつか密度を求めて揮発したがったあなたは進んでいくのよ

馬鹿ね、怖がりのくせに


そうだねと言うと彼女はしわくちゃになって笑った





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