ぼくは静寂を齧った

「良い詩には静寂が必要である。」

 白い髪の少女は唐突にそう云った。


 ぼくはなぜ、と問うた。


「人間には愛が必要である。」

 白い彼女はひとつの仮定を置くようにそう云った。


 ぼくはなぜ、と問うた。


 彼女は俯いた目で忘れた記憶を

 もう一度忘れながらこう云った。


「良い詩をよむと、忘れていた小径を脳が思い出すの。知らなかった感覚が目をさますのよ。それでも何か物足りない気がするのはきっと、私があなたに出逢っていなかったからなのね。」


 彼女は白熱し、消えた。


 それからぼくは彼女を描いているが、

 どうしても思い出せない。

 あの真っ白な髪以外、何も。

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