◆魔女、卒業できない

――魔法大学


前回の授業から3日経った。


師のきまぐれな性格のせいで、授業が不定期なのだ……正直、困る。


そしてだ。今日もなかなか、授業が始まらない。


かれこれ、もう10分は経ったか?

さすがに遅い……私は師に声を掛ける。


「まだですかーー?」


「もうちょっと待て」


師がグダグダ授業の準備をしている(このペースだとまだ後、10分ぐらいかかるだろう。だから先に準備を済ませておけよ、デジャヴかよ)。


私は椅子に座り、ぼぉーっと、『習慣』である考え事をしていた。


今日は昔を振り返りたくなった。


中学の頃、魔力を抑えるお守りの効果が切れて、才能を自覚した私は、いつの間にか自力で『交換の魔法』を修得していた。物と物の位置を入れ替える魔法だ。範囲は自分の周囲だけだが、それでも手品師になれた気がして、興奮した。


……だが、魔法のことは秘密にしなければならない!厳しい掟がある。他人はおろか家族にさえ、披露することができない(少なくとも私は真面目に考えていたのだが、この前、食堂で聞いた話は驚き!噂をわざと流すなんて……マジで?)


魔法のことを隠して生きる、うずうずとした気持ちを抱えながら、それでも、いつかは一人前の魔女になるぞ!と魔法学校へと進学した。


しかし、これが、なかなか大変で……、幾つかの課題をクリアできず、なかなか卒業に届かないまま、だらだらと現在に至る。魔法学校の期間は人それぞれだが、優秀な学生だと、たった2年で卒業することもあるのだとか……。


普段の授業でさえ、大変なのに、師は気まぐれだし……しかもだ、魔法学校には、いわゆる『必修科目』があって、それを修得、合格を得なければ一人前にはなれない。その一つが造形、いわゆるジオラマ製作だ(なぜジオラマなのか、それは古代の魔女に由来しているのだが、それは別の話)。


今日は、師からそのジオラマの課題について話があるらしい……

「うぃーー……じゃあ、授業やるかぁ……」

師がスキットルのテキーラ?を飲みながら告げる。

「魔女の箱庭って知っているかい?あれをやりなさいな」

師が手を軽く振る。


パッ!


スキットルを持っていた手には、一瞬にして違う物が握られていた。

「ほらっ!これを使え!貴重品だ、落とすなよッ」

「あ、投げないでください!!」

投げられた石を必死にキャッチする。

「あ、危ない……落とすところだった」

「お前、球技下手かー。あぁ、よく見れば、そんな顔しているものな」

「ぐ……ぬぅ」

「図星か。だとすると……」

「だとすると?」

「随分とベタなパターンだな!体育の時間とか憂鬱だったタイプだろ!」

「はい、当然、運動会も憂鬱でしたッ!!」

「はは、恐ろしい顔をする、止めろ、止めろ!冗談だから」

「運動が苦手な人間の苦労を知らないから!!」

「……」

「急に黙って!何ですか!」

「あぁ、よく見たら、怒った顔、可愛いじゃんか!」

「え……」

「えーと本題に戻すぞ、箱庭の課題について詳しく教えてやる」


授業が終わり、私は部屋を出て、いそいそと長い廊下を歩いて行く。

――向こうから2人の男が歩いて来ている。


一般の学生か……?


ここら辺は、ほとんどの学生に縁の無い場所、用事があるのは、珍しい。

……ん、片方は、この間、学食でじろじろと私を見ていたヤツだな。魔女の噂でも耳にしたのだろうか……まぁ、いいや、どうでも……。



そして、私はアパートの自室で『ハコにわ』を始め、約1年が経過した……。

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